まだ太陽が昇りきらない内に私は必要最低限の荷物が入ったボストンバッグを持って妖館を後にする。携帯は部屋に置いてきたから正確な時間は分からないけど、たぶんまだ5時にはなっていないはずだ。

足を止めて振り返れば居場所だった妖館がそこにある、彼の部屋がある4階に目をやればまだカーテンが閉まっているのが目に入って内心ホッとした。でも、それと同時に寂しさが込み上げてくる

「……早く、行こう」

決心が鈍ってしまう前に。





切符を買って始発の電車に乗り込む、時間もだけど休日ということもあってか車内はガラガラだった。一番近くの席に腰を下ろして切符を指で弄っているとプシューッと音を立ててドアが閉まりゆっくりと電車が動き出す、変わり始めた景色を眺めながら今後のことを考える。……といっても私に残された時間なんてあと少ししかないんだけど。

(太陽が眩しいな…)

顔を出し始めた太陽が街を照らし始める、もう皆起き始める頃だろうか…きっと野ばらさんはランニングの準備でもしてるんだろうなぁ、反ノ塚君と渡狸君は休みだからって目覚ましが鳴っても二度寝を始めて…いや、もしかしたら目覚まし時計自体設定してないかもしれないけど。凜々蝶ちゃんは真面目だからちゃんと時間通り起きて珈琲でも淹れてるんだろう、双熾は…、

「……」

彼のことを考えた途端涙腺が緩みそうになって慌てて顔を上げた。自分で彼から離れると決めたのに泣くなんて可笑しい、きっと今情けない顔をしている自分にそう言って目を閉じた。

段々と目の奥が熱くなって潤んでいくのが目を閉じていても分かる、…ああ、人が居なくて本当に良かった。小さく深呼吸をして自分を落ち着かせながら必死に違うことを考えてみる、でも緩んでしまった涙腺が元に戻るにはまだ時間がかかりそうだ。




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