急に人間の姿に戻ったり、妖怪の姿になったり…彼の言っていた呪いのせいだろうか、自分の意思で姿を保つことが出来ない。さすがにこのまま歩いて帰るのは色々と問題がある、一般の人に見られてはまずい…とにかく日が沈むまではどこかに隠れているしかない。

幸いこの通りは他の所に比べて人通りが少ない方だし気配を消して建物の陰に隠れていれば見つかることはまずないだろう、ずきずきと疼く胸元を抑えながらビルの陰へ移動した。





日が完全に沈んでから行動を始めた私が妖館に帰りついたのは20時を少し過ぎた頃だった。幸いすれ違ったのは反ノ塚さんだけで今帰って来た私を見て驚いていたけど病院に行っていたと嘘を言えば特に詮索されることもなくホッとしたような表情で「そうか」と言われた。

「っ…」

また痣がずきずきと疼きだして体が熱くなる、もしかしたらまた妖怪の姿になってしまうかもしれない…逃げるようにエレベーターに乗り込んだ私をどこか不思議そうに見ていたけど、早く休みたいのだろうと思ったのか「早く治るといいな」と言うと彼はそのままラウンジに入って行った。

ドアが閉まった瞬間ホッと胸を撫で下ろす、安心して気が抜けたからなのか…人間の姿から妖怪への姿へと変わっていく。これで姿が変わるのは何度目だろうか。


ゆっくりとドアが開く、人が居ないのを確認して私は自分の部屋に駆け込んだ。部屋に入ってすぐ私は浴室に移動して服を脱ぎ鏡で胸元を確認する、そこには黒い模様のようなものがあってここ数日間の出来事を鮮明に思い出させた。呪いの証――彼の言葉が脳内で再生される、その瞬間皮膚ごと削ぎ落としたい衝動にかられたけどそんなことをしてもこの呪いが解けるはずがないのだ。


――大人しくオレの仲間になりなよ、自我の消えたただの妖怪になったアンタを一緒に暮らしてる先祖返りの奴らは受け入れてはくれないよ?彼氏の御狐神だって拒むに決まってる。

(自我の消えた妖怪、に……)

そうなってしまったら、今周りに居る人たちを傷つけないとは言い切れない。ぎゅっと目を閉じた瞬間に脳裏を過ったのは

――名前、さん

愛しい人の血まみれの姿と私に向けられた恐怖に染まった瞳。

自分の手で誰かを傷つけて平気でいれるほど精神面は強くない、それが大切な人なら尚更のこと。不安と恐怖で震えている指先が視界に入る、このままここに居たらこの指先で誰かを傷つけてしまう…そんなの、嫌だ…!

「わ、たし……どうしたら……っ……」

今の鈍い思考回路ではどの選択が正しくてどの選択が間違っているのかも分からない、それどころか考えて答えを出すということすら出来そうにない。考えようとすればするほど頭の中がもやもやして、気付けば目から涙が溢れ頬を濡らしていた。





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