どうやら本気で逃がす気はないらしい、間合いを取ろうとした瞬間両足首に鎖が絡み付いてきた。情けなく芋虫のように転がった私を見て鎌之介さんは嬉しそうに笑う。……ああ、私忍びとして失格じゃんこれ。
「そう何度も逃がすかってんだ!諦めて俺と戦いやがれ!逃げるってんなら、今すぐ切り刻んでやってもいいんだぜ?」
きらりと鎌を光らせた鎌之介さんの目はマジだ、ぎらぎらしている瞳と今の自分の状態に思わず頬を引き攣らせた。この人なら本当にやりかねない、それに今は助け船を出してくれる人も居ないし…ここは諦めて受けるしかない。
「名前と鎌之介…?なにしてんだ、こんな所で」
「「才蔵(さん)っ!」」
ああ、救世主…!才蔵さんは転がされている私と目をぎらつかせている鎌之介さんを見て状況を理解したらしく、呆れたようにため息を吐いた。
「お前、またこいつの事追っかけてんのかよ」
「追っかけてんじゃなくてこいつが逃げるんだよ!」
「それはお前がやり合おうとするからだろうが」
とにかくそれ外せ、と彼が私の足首に巻き付いている鎖を指差せば鎌之介さんはすんなりとそれを外した。素直に言うこと聞くなんて…やっぱり才蔵さんのこと好きなんだなぁ…。
服に着いた土と砂を払って起き上がれば鎖を振り回している鎌之介さんの姿が目に入る、うわー…やる気満々だよ…。
「才蔵さん、どうにかしてくださいよ。私仕事以外で戦いたくないんですけど…」
「諦めろ、一旦火が点いたあいつがすんなり諦めるわけねーだろ。それに戦って勝ち負けつけちまえば追い掛け回されることはなくなるかもしんねーぞ?適当にやって最後は負けりゃいいんだ」
「そんな他人事みたいに…」
「事実他人事だろ、俺関係ねーし」
「ひどい…」
くっ、この城内で親身になって考えてくれる人はいないのか…!その場に座り込んで「の」の字を書きたい衝動に駆られたけど、それは彼が許さない。早くしろと苛立ち交じりの声で急かしてきた。
「ま、頑張れよ。お前が鎌之介に負けることはないとは思うが、万が一なんかあった時は助けに入ってやっから」
ぽんっ、と肩を叩いて才蔵さんは縁側に腰を下ろした。…ああ、どうせなら「俺が代わりに戦ってやる」って言ってほしかったなぁ…なんて才蔵さんが言ってくれるとは思えないけど。