「なんでアナには懐いて私には懐かないかなぁ…」
「そりゃお前が怖がらせたからだろ」
「意図的に怖がらせたわけじゃないもん!」
「はいはい。……つーか、なんであんなに傷だらけなんだ?伊佐那海みたいに誰かに追われてた、とか?」

汚れを落としたからこそ分かる傷。深いものから浅いもの、古いのから新しいものまで足や腕にたくさんついていた。いくら孤児でその日その日を生きるためとはいってもあんな傷だらけになるはずがない。だとしたら伊佐那海のように追われていたとしか思えん。

「否。名前、追われてなどいない」
「じゃあなんであんなに傷だらけなんだよ、つかどこから拾って来たんだ」
「名前、森で出会った。子供の時、捨てられた。狼、親代わり」
「つまり、狼に育てられたってことか?」
「諾。」
「そういえば聞いたことがあるのう、ここから少し離れたところに人食い狼が出るとかなんとか…葬儀を行う金がない者はそれを処理する為その場所に遺体を運び置いていくらしい」
「恐らく、彼女の場合もそれが目的だったのでしょう」
「存在を消す…いや、隠すため狼に食わせようとしたってことか」
「そんな……酷い…」
「けどよ、じゃあ狼はどうしたんだ?親代わりだったんだろ?」

そう聞けば佐助は少しだけ眉を寄せて首を横に振った。

「我、見つけた。狼、死んでいた」
「大方、その付近に住んでいる人間が狼を恐れて猟師に頼んだんだろうな」
「名前、一人で生きれない。名前、人間の言葉、話せない。」
「話せないって…じゃあ佐助はどうやって連れてきたの?」
「名前、動物の言葉分かる。雨春、懐いた。動物懐く、良い人間」

…なるほど、動物を介して話をしたわけか。

「まっ、これで分かったろ。刺客として使えるような者でないことも、心配をする必要もなことも」

パチン、と扇子を閉じるとオッサンは小さく笑って俺たちを見た。

「名前をここに住ませることに異論はないな?」




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