「国光」
「どうしたんだ?」
「相手して」
「…もう少し待」
「てないから言ってるの。3時間も放置されたら流石に飽きる」

3時間…
その言葉に時計を確認すると、確かに3時間近く経っていた
悪い事をしてしまったと読んでいた文庫本に栞を挟み、手を広げて花音を招き入れる

「来い」
「ん!」

猫のように俺に飛びついたかと思えば首に腕を回されすり寄ってくる
その小さな体をそっと抱き寄せると、吸い付くような心地の良い柔らかさに気持ちいいと感じた
こんなにも自分を好いてくれる可愛らしい女を心底愛おしいと思う
ただ素直な性格故に、不二や跡部といった花音の良き理解者にも俺と似たような事を、俺の知らない場所でしているのかと考えると不安で堪らなくなる

「…花音」
「んー?」
「不二や跡部にも、こういう行為はするのか?」
「…確かに座ってる時に抱っこはしてもらった事あるけど、正直、お姉ちゃんのような周くんとお兄ちゃんの景吾くんには、国光のような感情はないよ」
「俺のような感情…?」
「うん、確かに2人とも大好きだし抱き締めてもらうと落ち着くけど、こんなに近くに顔があっても、キスしてもらいたいって、もっと抱き締めてもらいたいって、そういう気持ちになるのは国光だけ。それに2人は私の事を妹か愛犬位にしか見てないよ」
「……」

愛犬…?花音は真面目のつもりで言っているんだろうが、ここは昨日見たお笑い番組のように突っ込めばいいのだろうか…

いや、落ち着け…落ち着くんだ
嬉しいからといって気持ちが高ぶりすぎたな…キャラクターが行方不明になってしまう所だった


「…聞いてるの?」
「あ、ああ…」
「……」
「……」
「…キスしたい…」

少し見つめ合った所で、花音がねだりながら目を見つめてくる
今すぐ抱き締めてキスしてやりたいが、少し意地悪をしてみたくなった

「…もう少し、別な誘い方を出来ないのか?」
「じゃあ教えて」
「自分で考えろ」

頬を膨らませて肩をぺちんっと力無く叩かれる
地味に痛いな…
だがそれはただの照れ隠しだと分かっている

だがそんな顔も、滅多に見られる物じゃないからな
目線を俺から逸らして唇をすぼめる
何かいい考えが思い浮かんだのかと思ったら―……

「抱いて!」
「大幅にズレた思考だな」

ストレート過ぎる以前に、それではただの痴女だそう言いながら、ウェーブの掛かった柔らかな髪を撫でると、今度は両手で俺を押し返した

照れ隠しとは別の行動…
不思議に思い花音の頬に手を添えると、今にも泣きそうな花音の瞳が一瞬だけ俺を捉えた

「…国光…最近マカロンや猫ちゃんに構いっきりで全く相手にしてくれないじゃない…セックスだって留学前の1回だけだし…もっと、もっと触ってもらいたいの…」
「……」
「だから…キスもしてもらいたい…」

国光のいじわる。と今にも消えそうなか細い声ですすり泣き出してしまった
軽はずみのつもりだったんだが、随分と傷つけてしまったみたいだな…

「……そんな事まで言わせるつもりは無かったんだが…正直聞けて良かった」
「…え?」
「すまない、少し意地悪をした」
「は?いや、信じられないんだけど。人が恥ずかしい事暴露して……っ、…やっぱ、さっきの忘れて」
「無理だ」
「相手を気遣ってわかった。ぐらい言えないのか」
「忘れたくないからな」
「…!!」
「…花音」

顔を俯ける花音
おそらく顔は真っ赤なんだろう…
そして手まで赤くなっている所を見ると、相当恥ずかしいんだとわかった
そんな所も可愛いな…

未だ俯いている花音の頭部に唇を寄せてわざとリップ音を立てる
そこから何度も頭部や額、こめかみに同じ事をして段々と唇を下げていった

「っ…ん…あんまり、私をいじめると怒るよ…」
「悪かった…」
「…キス…口にしたら…許してあげなくもない……かも」
「どっちなんだ?」
「察してよ」
「……」
「普通悩まないでしょ!口に、したら…そしたら、許してあげる」
「なら素直にそう言え」
「……いじっっぱり」
「それはお前だ」
「…」
「…悪かった。そう拗ねるな…」
「んっ…」


柔らか唇が触れ合うと、唾液が混ざり合う音が嫌でも耳に響く
こんなにも気持ち良くて、心も体も全てを満たしてくれる愛の詰まった行為に、いつも心臓がドキドキして、たまにキュンと詰まる

「可愛いな」
「っ…!!(その顔にその台詞は不意打ちだ…!)」



やっぱり、私はあなたには適わないみたい
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