いやいやいや洒落にならねぇだろどういうことだよ何で謙也さんの病院にこの人がいんだよ何で俺の憧れがここに関係者以外立入禁止のトコにいんのいやそれよりまずは今の俺の格好をどうしようだよ!!!


「えーと……?」

「……………………は、はは」

ピクピクと口元が引き攣る。

今の俺は本気で洒落にすらできない格好してる。
淡いピンク色のスカートに黒いガーターベルト、病人とかには天使なんて言われるけど、残念ながら俺は男。
とても天使とは言えない。


好きで ナ ー ス 服 、なんて着てない!!!って言いたいんだけど…………

別にバツゲームで着てる訳じゃないし、誰かに強要された訳じゃない。

いや、むしろ

喜んで着てましたポーズまで決めてました最悪のシチュエーションです。




















中学生二年である俺、切原赤也は至って普通の男子中学生……とは言えない秘密があった。

俺には実は、女装癖というものがある。
性同一障害という訳じゃなく、いやに負けず嫌いな俺は、ちょうど一年前に中学一年の時に女子が文化祭でメイド服を着てる様を見てあろうことかこう思ったのだ。












俺が着たほうが可愛くねぇ?



文化祭終了後、メイド服をこっそり拝借した俺は家でメイド服を着た。






そして、鏡に写った俺は、ぶっちゃけ





めちゃくちゃ可愛かった。




目は大きい方だったし、顔は童顔。骨格も女とまでは言えないけど、細いほうだった俺は結構な美少女だった。


それからはコソコソと女装を重ねていった俺はそんじょそこらの女よりは可愛く女装出来るようになった。
嬉しいことかどうかは知らないけどな!!
少なくとも俺は優越感があったよ!!

けど何で俺が女装なんて馬鹿げたことをし始めたのにはちゃんと理由がある。




俺はあの国民的大ヒットを誇るWboxの白石蔵ノ介の大ファンだった。

男でWboxの歌を好きな奴はいたけど、メンバー自身に大ファンっていう男子は俺くらいで。
むしろ、男子なのに白石蔵ノ介が大好きだなんて有り得ないことだった。
男がジャニーズの熱狂的ファンみたいなもんだ。











だから、女子がうらやましかったんだと思う。

あんな堂々と白石さんが好きだと言えるのが。

だから、あんな女子より俺のが可愛い!!とか負けたくないって気持ちになって、女装をし続けた。

毎回、鏡に写る俺は美少女だったけど、その度むなしい気持ちになるのを、分かってるのに。




















そして今日、
俺は最悪のシチュエーションに立っていた。

遠い親戚の謙也さんの家に、春休みを利用して遊びに招かれた俺は、また女装をしていた。
謙也さんは唯一俺の女装癖やら何やらを分かってくれた兄ちゃんみたいなもので、最近、男にこう言うのも変かもしれねーけど、可愛くなった。

恋人でも出来たと聞いた時には顔を真っ赤にして否定してたけど、これは完全に当たりだ。


そしてごまかすように、もう使わないナース服だから、ってナース服を貰った。
そしてそれを、親戚の立場を駆使して関係者以外立入禁止の場所で着て、やっぱり美少女になった俺はポーズを決めていた(エヘッという可愛らしい笑顔でだ)。







それを、見られた。
バッチリ見られた。




あの、Wboxの、リーダーで、超歌上手くて、かっこよくて、俺が大ファンの、あの、




白石蔵ノ介、に。















「白石ー、お前また来たんかいな。お前売れっ子ミュージシャンやないん?暇なん?」

どこか、謙也さんの声が遠く聞こえる。


「…………って、」

謙也さんは白石さんの視線の先にいた俺に気づき、目を丸くした。

「な、何でここで着てんねん!せ、せめて家で着ろや赤!」

赤?いや俺赤也ですけれど?
そんな目で見ていたのが分かったのか謙也さんは目線で白石を示した。

つまり、

「いやー、びっくりしたやろ白石ー。この子は切原赤。俺の遠い親戚の 女 の 子 や。見ての通りコスプレが趣味なんやで!!」

(俺が女装男子じゃなくて、コスプレが好きな女の子という事にしてるんだ……!!)

ヤバいよ、謙也さんアンタやっぱり苦労人なだけあってフォロー上手いよ大好きだよ!!

つまり、俺がここでやるべきことはただ一つ!!

「謙也さんの従姉妹の、切原赤です。よろしくお願いします………」

裏声で精一杯可愛らしい女の子の声を出す!!それだけ!!

「あ、ああ。俺は知っとるかもしれへんけど、ミュージシャンの白石蔵ノ介。そこにいる謙也とはメンバー関係でお世話になってから友達同士や。いや、もう親友並か?まあ、よろしゅうな」

「親友!!?」

裏声は忘れなかったもののまさかの謙也さんとの関わりに目を丸くする。

「え、親友なん?」

謙也さんはえ?という顔で白石さんを見て、バチコーンッと白石さんにブッ叩かれた。

「あ?何や謙也。俺と親友なんて素晴らしい立場が欲しくないんか?ああ?」

「あ、いえ、スミマセン欲しいです、欲しくて堪らないです」

冷や汗ダラダラと言う謙也さんはヘタレだ。まあ、でもオーラからして違うからな。仕方ないかもしれない。

てか俺今凄いことになってない?
あの白石さんが目の前にいるんだぞ、あの、白石さん、が。

そう考えただけでカーッと顔に熱が集まっていって、心臓もバックダンサーのようにダンシングしだして、足がガクガクする。
何で謙也さんが白石さんと仲良いのかは知らない。
けど、このチャンスは絶対に逃しやできない!!

「あの!!」

「ん?」

「俺とちょっとだけでいいんで付き合って下さい!!」





って違うだろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!

謙也さんと白石さんは二人揃ってパチクリしてる。
いやまあそりゃそうだろうけどさ!!

「あー白石。赤ッ……は明日東京帰ってまうねん。やから思い出作りに憧れのお前と、付き合いたいん、ちゃう?」

びっくりして謙也さんに目を向けると柔らかい顔で苦笑していた。
謙也さんアンタ本当にカバー上手いなっ……!!

「どうせ一週間オフなんやろ?さっき言ってたやん。やったら付き合ったれや、明日まで」

「うーん……でも、」

「ええから承諾しろや。乙女の純情満たしたれ」

「………謙也なんやイライラしてへん?」

「別にイライラなんやしてへん。休みなのに、疲れたし観たいDVDあるからって恋人放るアホのせいでブロークンハートな謙也さんはただ白石にこのお願いを受けて貰いたくて仕方ないっちゅー話や」

ムスッとした顔をした謙也さんに白石さんは苦笑して頷いた。

「謙也にそこまで言われたら、な。ほな赤……クンでええかな?ちゃん、じゃ赤ん坊やし」

「え………!!」

「明日までやけど、恋人よろしゅうな、赤クン?」

「ッ…………!!はい!!」

たった二日。
されど二日。
俺は白石さんの恋人。

嬉しくて嬉しくてヘニャ、と笑うと慌てるように白石さんがクルッと俺に背を向けた。

それを謙也さんはニヤニヤと横目で見ている。

「あーそや。赤。」

「何スか?」

「白石は変態やから気ィつけや?」

意地悪そうに笑った謙也さんの口を慌てて塞いで文句をいう白石さん。なんか若干顔が赤い気がする……
(誤解されること言わんといてや!!)(やってホンマのことやろ?)(何やとコラ!!恋人に構って貰えないからって人に当たるなや!!)(あ、当たってないわ!!)
よく意味は分からなかったけど、この二人が本当に仲がイイのはよくわかった。


「あーコホン、ほな赤クンは何したいんや?付き合えることなら何でも付き合うで」

「は、はい!と、とりあえずは一緒にお話をしたり、したいです!!」

「そか。ほな一緒にお話しよか?」

「はい!!」

そういって差し出された手に首を傾げると白石さんはクスクス笑った。

「恋人なんや、手くらい繋ぐやろ?」

「…………はい!」

「謙也、どこの部屋ならええ?」

「前に光が入院してた部屋ならええで」

キュッと握った白石さんの手は同じ男なのに俺より大きくて、胸が高鳴った。





その日は、病院内でだったけどたくさんの話をした。(ナース服のままでだけどなにか!)
白石さんは健康に気を使ってるとか、カブトムシを飼ってるとか、メンバーが自由過ぎて大変とかそりゃもうたくさん。
けど、楽しそうに笑う白石さんの笑顔はブラウン管越しに見ていた営業スマイルじゃなくて、本当の人間味が溢れる、素敵な笑顔だった。
1番驚いたのはテニスをしてて全国レベルだったっていう事実だ。



「明日は半日でええからデートしよか?」

「本当ですか!!?あ、でも白石さん有名人だし……」

「大丈夫や、ちゃんと変装するさかい。」

ふわっと笑った白石さんの笑顔は本当に優しくて、かっこよくて、もう胸が張り裂けそうなくらいときめいた。

………我ながら、乙女かよ。


「そろそろ遅いし、俺は帰るけど……」

「あ!俺は謙也さんと一緒に謙也さんの家に帰りますから!」

「……謙也のアパートに泊まってんの?」

「?そうッスよ!」

そう応えると白石さんはどこか複雑そうな顔をした。

「ほな、気をつけてな」

「はい!白石さんも!!」

「おおきに、」

そういってコツコツと靴を踏み鳴らして行った白石さんの背中を見つめる。




ごめんなさい白石さん。
俺は本当は男なんです。
貴方の隣には立っちゃいけないただの男子中学生です。

けど、あと一日だけ、一日だけでいいから、恋人で居させて下さい。




必死に申し訳ない気持ちを押し付けながら、ナース服を脱ぐべく関係者以外立入禁止の場所に逃げるように走った。




「お、赤也戻ったん」

「謙也さんありがとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

ガバッと抱き着けば謙也さんは苦笑して俺の頭を撫でてくれた。

「明日はどないすんの?」

「明日はデートッス!」

「…………服どないするん?」

「…………あ」

ガクッと膝をつけばくつくつと謙也さんは白衣を脱いで車のカギを取り出した。

「まだ間に合う服屋あるやろ。行くで」

「………はいッス!」

謙也さんはお人よしだ。
けど本当に温かい人だ。
本当に謙也さん俺の兄ちゃんになってくんないかな……。





こうしてボーイッシュな女の子みたいな服を選べば、謙也さんがお金を払ってくれて、俺もうこの人に頭上がらねえ……






































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