忘れ方、教えてくれや
俺はこの想いを
貴方の為
ぐちゃぐちゃになろうと
潰すと決めた
「おはようさん白石!」
「!!謙也…おはようさん」
ニコリと微笑んだ白石に内心ほっとしつつ、謙也はまた話しを続けた。
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謙也さんは白石部長と上手い具合に、仲良しに戻っていくのが俺は内心辛かった。
また、謙也さんは届かない所に行ってしまった。
「健気さを通り越してやり過ぎや財前」
「!!……一氏先輩」
「お前、自分の気持ちを無視し過ぎや。少しは自分の気持ちに向き合ってみぃ。」
「………駄目、ッスわ。謙也さんにバレたら、俺は嫌われる」
「……何でや?」
悲しげに財前は前方にいる謙也を見つめた。
「結構謙也さんが白石部長が好きって有名なんス。部長は知らなかったけど…」
はは、と渇いた笑いをあげる財前に一氏は眉を寄せた。
「………それで、あれ以来謙也さんに告白する人は男女は増えはりました。白石を忘れさせたる、って」
あれ、とは言わずもがな謙也が白石に告白したことを指している。
「謙也さん、告白した相手にすごく冷たい目で言ってました。『お前が本当に白石を忘れさせるコトができるのか?』って……。勝てるハズが無いから、もうえぇんです」
想い続けるだけで……
「…………はぁ」
ため息を吐くと一氏は白石に叫んだ。
「白石ィ!!なんか財前具合悪そうやから保健室連れていくわ!!!」
「は…!?ちょ、一氏先輩!?」
がしり、と一氏は財前の手を掴むと保健室に急いで行った。
「……………」
「謙也?どーしたん?」
「!!あーいや、何でも無いでぇ!!教室行こか!!」
一瞬だけ辛そうに顔を歪めた謙也に白石は首を傾げた。
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「なんなんすかいきなり連れ出して……」
「せやな。とりあえずお前、泣け」
「はあ?」
意味が分からない、と財前は一氏を睨んだ。
「お前、壊れそうで見てるこっちが辛いねん。やから泣くだけはしとけってコトや。分かったか?」
「分かったか?って……」
「辛かったんやろ財前。頑張ったな……」
よしよし、と頭を撫でる一氏に財前はギリ、と拳を握りしめた。
「ッ……!!今回だけッスわ……!!」
ぽろ、と涙を零した財前に一氏は満足げにした。
カラン…
微かな物音に二人が顔をあげると、驚いたように謙也が立っていた。
「え…何で財前泣いてるん…?」
「ッ……!!」
「謙也には…関係ないやろ」
「なっ…!!やって財前は俺の大事な後輩やねん!!」
無意識とは怖いな、と一氏はため息をついた。
「まだお前白石のこと諦められてへんのやろ?なら財前に近づかせる訳には……」
「一氏先輩」
凛とした声で財前は顔をあげた。
「もう大丈夫ッスわ…ありがとうございました。」
「……無理はすんなや」
それだけ言うと一氏は保健室を出て行った。
「………財前?」
心配そうに話し掛けてくる謙也に財前は無理矢理笑った。
「本当、軽くナイーブな俺になっただけッスわ。心配かけて、すんません」
「ざ、ざいぜっ…!」
いきなりポロポロと泣き出した謙也に、光はギョッと目を見開いた。
「俺、お前が悲しんでる時に、何もできへん…!!白石の時、あんなに助けてもらったのに、何でや、ゴメン…!!ゴメンなぁ…!!おまけにまだ白石を大事に想う気持ちがあんねん…!!もう嫌や…!!」
ふるふると謙也は頭を振った。
「忘れ方教えてや……!!!これじゃ財前に顔向けできへん…!!」
謙也が泣く、それは財前にとって1番辛いコトだった。
自分の気持ちがめちゃくちゃになろうと、謙也だけは幸せでいて欲しい。
ぎゅうっと財前は目をつむった。
「ど、どうしたんや二人共…?」
ひょこ、と保健室に顔を出した白石によって、完全に財前は心を決めた。
「謙也さん…」
「?なんや、財前…?」
「そないに泣かないで下さい。謙也さんが泣くのは部長絡みの時だけでえぇ。」
ゆっくりと財前は立ち上がると白石に向かって歩いて行った。
「そして、これからはもう二度とないッスわ」
財前は、完全に謙也を忘れて、謙也を幸せにさせる、とある意味で1番辛い方法をとった。
「忘れ方、教えたりますわ」
ガッ、と財前は白石の衿を掴むとギロ、と睨みつけた。
「あんた自分のこと完璧ゆうなら親友のこともっと考えたりや!!どんだけアンタ、謙也さん苦しんでる思うてんのや!!!確かに同性愛は理解されにくい、それが何だっちゅーんや!!真っ直ぐに人を想うなんてことがいけない訳あらへんやろ!!人を想う、それでえぇやないかい!!そんなことが怖くて恋愛なんてできへん!!まずは1番近くで1番自分を支えてくれた相手に対してちゃんと向き合ってみぃや!!!」
ドン、と白石を財前は謙也にいるほうに突き飛ばした。
「無駄な恋愛なんて、この世にはあらへんのやっ……!!」
バンッ、ダッ、と財前は屋上目掛けて走り出した。
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「はぁっ…はっ…!!」
荒い息を整えて財前はゆっくりと空を見上げた。
青々としている空が、むしろ今の自分の心には辛かった。
ヨロヨロと給水塔の裏で財前は座り込んだ。
元々、白石と謙也は付き合っているのでは、という噂はよくあった。
それだけ仲がいい友情があるなら、愛情に変わったりしても、おかしくはないと財前は経験上知っている。
財前が、謙也に惚れたのはこの屋上だった。
『ダブルスやんならまずは仲良くならなアカンやろ!!』
そういって白石部長と食べたいくせに俺と昼食なんか食べて。
くだらない話ばかりだったけど、あの人の温かさに触れてしまった俺には逃げ出すことなんて、できなくなった。
その温かさは、最初は謙也さんを先輩として憧れる意だったのだ。
だけど、段々と自分の気持ちが変わっていくのが気持ち悪いほどよくわかった。
ああ、俺は謙也さんが好きだ。
そう分かったのも屋上で(貴方の満面の笑みをみて)、そして謙也さんが白石部長に恋してると分かったのも屋上で(切なげに綺麗に笑う謙也さんに心が苦しくなった)。
だから、ずっと見守ってきた。
温かさを教えてくれた謙也さんの幸せを願った。
幸せに、なるべきだと、思ったんだ−−−−。
「ははっ……あのAさんみたく、なってもえぇやろ…?」
Aさんは二番目には愛されていたけれど。
「も、泣いてグチャグチャでも…えぇやないか…!!」
キィ……
「!!!…」
「財前、いるか…?」
なのに貴方は何できたんですか。
時に貴方は残酷だ。
(けど、その『優しさ』に)
救われていたのは、俺
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