好きって苦しいんやな
苦しい、と
俺はわかってる。
だからこそ、貴方の気持ちが大切なんです。
「財前!打ち合いしようや!!」
「はいはい。今行きますわ」
謙也さんに、一週間だけ一緒にいてと言われて、俺はにべもなく頷いた。
だって、俺は彼が好きなのだから。
「どのコートでやるんスか?」
「どのコートでもえぇっちゅーに!!」
ケラケラと笑う謙也さんが、部長を好きなのは知っていた。
だってずっと謙也さんを見ていたのだから。
俺は優しく、明るい謙也さんに俺は何度も救われた。
小さい頃から無愛想だった俺は相手の感情を読むコトで世を渡ってきた。
そして、裏表もなく下心ナシで楽しげに話し掛けてくれる謙也さんが好きになった。
大好きなんだ。
だから、俺は利用されようと何だろうと、構わない。
今度は、俺が彼を救う番なのだから。
「謙也」
「!!なん、や…?」
部長に話し掛けられて、謙也さんからみるみる笑顔が剥がれ落ちていく。
「次の試合のコト、なんやけど……」
部長もどこか話しにくそうだから、俺の出番。
「部長」
「!なんや財前」
「謙也さん早く打ち合いしたいらしいんで、先に行かせてえぇですか?代わりに俺が聞きますわ。あ、謙也さん今一氏先輩が小春先輩いなくて淋しそうなんで構ったって下さい」
「あ、そうやな…スマン白石!!」
ぱっと身を翻して謙也さんは駆けていった。
「あの、一週間は、謙也さんに言いたいコトあんなら俺にお願いしますわ…」
「!え……」
目を見開く部長に曖昧に笑う。
「謙也さん、忘れようて頑張ってるんスわ。俺はそれに協力しとるだけです…何もありません」
「そうか。スマンな、財前……謙也のコト頼むわ」
「…いえ」
白石部長はわかってないだろうけど、それは最大級の皮肉です。
想い人の想い人に頼まれる、なんて……
「帰ろか財前!」
「ウース…」
二人で歩く夜道もきっと一週間だけ。
親友に戻った二人に俺が入り込めるコトなんてできない。
これっきりの、謙也さんいわくの傷心期間。
苦しいわぁ……
「……な、財前」
「なんすか?」
「苦しいなぁ……」
謙也さんに自分の気持ちを当てられたかと思ってドキリとした。
「今日、白石の傍にいなかっただけでかなり苦しいてな……俺ってこんなにも白石のコト好きやったんや〜って。だけど再確認しただけでフラれてんだと思ったら更に悲しくなってな……」
俺は黙って聞いている。
謙也さんのため、なら…
「馬鹿やなぁ俺。何で言ってもうたんやろ…!」
謙也さんの手が震える。
俺はそっと自分の拳を握り閉めた。
俺に彼の手を握る資格なんてないから。
「好きって、こないに苦しいんやなっ……!!」
ぽたぽたと涙を流す謙也さんに心臓が潰れるかと思った。
謙也さんが悲しいと、俺も悲しくて堪らないのだから。
「そないなとこ泣かんといて下さい謙也さん…。何のために俺がいるんスか?」
「!財前…」
「胸くらいは貸しますよ」
そういうと、更に謙也さんはぶわ、と泣き出して。
ああ、こんなに部長が好きなんや、と思い知らされた。
そうですよ謙也さん。
泣くなら俺のトコに来て下さい。
俺なら貴方の痛みがよく分かる。
好きって、苦しいんです
(だったら貴方も苦しいんじゃないの?)
心から聴こえた声は、霧散して消えた。
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