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「…………ユウジ?」

「相変わらず間抜け面やなー」

第一声がそれか!!
























「はい、謙也さん」

「あ、お、おおきに……」

血みどろの膝を財前につけないように財前の背中にしがみつくと、よっ、という財前の声と共に俺は財前に軽々とおんぶされた。
まさか自分より背の低い後輩に背負って貰うとか……
ホンマ、ホンマ………

「情けないなー謙也」

「うっさいわ!!」


図星をさされてユウジに噛み付くと、ユウジはケラケラと笑って、ほな行くでーとさっさと歩き出した。
それを俺を背負った財前が追う。




街中ですっ転んでしまった俺は、ユウジにロマンのない再会を果たした。


呆れたように笑うユウジに、心は温かくなってんけど、俺のケガをしきりに気にする財前には、もっと心が温かくなった。

『俺の家近いから手当したるわ。俺は一氏ユウジ。謙也の幼なじみや。侑士とは中高大の付き合いやで』

『け、謙也さんの後輩の財前光です……。』

そんな軽いやり取りをして、歩きだそうとしたんやけど、

「ぅあ…!」

まさかの俺がケガの痛みで歩けないし、相乗効果のように腰も抜けていて、二人に苦笑いをされた。
うわ、どうしよう。
笑顔に胸が高鳴ってしゃーない。

そしたら財前がじゃあおんぶしますよ、とアッサリ言って俺に背中を向けてきた。
ちょ、ちょ!?
いきなり密着とかキツイんやけど!!自覚したばっかなのに!!
なんて心でぎゃあぎゃあ言ってもまあ、もちろん届かない訳で。
早くしろや、というユウジの声に仕方なしに早鐘を打つ心臓と共に財前の背中にお邪魔したという訳や。


そんなユウジの背中を財前におぶられながら見つめる。

昔と同じ、届かないけど温かい背中。
昔は敵わない想いに切なくなってんけど………



ぽふ、と肩に擦り寄るように財前の首に顔を預ける。
ビキ、と財前が一時停止したと思うとブワリと耳を赤くした、のだが残念ながら俺は財前の首に擦り寄っていたので気づかなかった。
気づいていたのは前を歩くユウジだけや。




アカンなぁ、俺、ユウジに会えてまた好きになってしまうんやないかと思ってたんやけど………

そんな考え、杞憂やった。













俺はもう、財前が好き――――






(気持ちは死んでも伝えないけれど)







心から聞こえてきた声にふ、と自嘲するように笑いが漏れる。
我ながら恋愛に対しての態度は変わらないやっちゃ。

「謙也、さん?どうしたんスか?痛いならもう少しゆっくり歩きますけど。」

「ううん、平気。ただ財前力あるなーってびっくりしとっただけ。カッコええ財前」

「そ、そりゃ、どーも……」

そっけない言い方でも俺をおぶってゆっくり歩く姿には優しさが溢れてて。

ああもう、これ以上好きになったらどないすんのや、財前のバカ。
(押し潰さないといけない気持ちやのに)





ユウジん時と一緒。
切ないわ叶わないわ虚しいわ届かないわで苦しかった日々。

こんなに恋愛に臆病なのは、恋愛に対して逃げ腰なのは、恋愛しとるって事実から目を背けるのは何で、かなんて簡単な話や。

















恋愛は、叶うもんやない。





ユウジにした5年の初恋で、学んだんや。

学んだくせに、また恋愛なんかしてしもうた俺は、なんてバカなんやろ。
友達すら、まだほとんどおらへんのに。













「……………恋愛拒絶症」

ぼそ、とユウジが呟いた言葉は俺の耳には届かなかった。
































「…………………うわぁ、ボロッちいアパートやな」

「ボロッちい言うなや。住めば都言うやろ」

ここやで、と指差されたアパートは苔が生えていて、幽霊に出たっておかしない風なアパート。

「…………入りたない。」

「おい謙也!!失礼やぞ!!」

「俺がこういうんダメなん知っとるやろ!!」

「け、謙也さん……耳元で叫ばんといて……」

「あ、ゴメン………な?」

耳元で囁くように言うと、カチン、と固まった財前はパッと俺を離した。

「だ!!」

まあ地球には重力っちゅーモンがあるんやから落っこちるんは必然的っちゅー話や。

「う、わ!すみません謙也さん!」

振り向いた財前は耳を抑えて顔を真っ赤にしていた。
え、何やしたっけ俺。

「いや、大丈夫やで。こっちこそ何やスマン……財前って耳弱いん?顔真っ赤やで」

「へっ?!」

素っ頓狂な声を出して財前は目を見開いた。
あ、ヤバイ。いつも余裕そうな顔しとるからこういう顔めっちゃ新鮮や。

「あぁぁぁいや、ちょお性感帯なだけですわ!!」

「え、あ、そうなん……」

そんな叫ばんでもええのに、と言うと誤解解きたいんです!!と必死に説かれた。
財前、それただご近所さんにお前の性感帯が知れ渡るだけやで。

「ほら、早く入れや。」

「あ、はいっ」

いつの間にかアパートの入口に立って鍵を振るユウジ。
急いで財前が地面に尻餅したままの俺を抱き上げた。















もう一度言う。
…………抱き上げた。












「ちょォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!」

「え、なに謙也さん!?」

「コレ!!コレはさすがにないやろォォォォォォォ!!!?」

「やってもうユウジさんの家やし!!謙也さんを無理させずに動かすんはこれが1番手っ取り早いッスわ!!」

さも当然のように言ってもうてるけど!!

男に姫抱きはないやろォォォォォォォ!!
イケメンやから様になっとるしカッコイイしあぁもう心臓が破れる裂ける爆発するぅぅぅぅぅぅ!!!!

まさか財前が天然タラシだなんて誰が思うっちゅー話や!!

頭ン中は大パニック。
ユウジは大爆笑しとるし財前は心配げに大丈夫謙也さん?って俺を悶え殺す気か!!






ユウジの部屋に着くと、ユウジにそこに謙也座らしてや、と言われてようやく俺は財前の鬼畜的に甘いイジメから抜け出せた。
あーヤバイ。心臓バックンバックン喧しッ!

「救急箱はっと……あった。」

「あの………」

「何や財前?」

ユウジに少し控えめに話しかけた財前は何だかんだ年上を敬うタイプやと思う。
ホンマに出来た奴やな………

「ちょっと行く途中にあったコンビニに行ってきてええですか?飲み物でも買ってきます」

「あ、ホンマ?ほなはい。1000円でテキトーに菓子やら何やら買ってきてもろてええ?」

「あ、はい。分かりましたわ」

財前はほなちょお行ってきます、といってクシャリと俺の頭を撫でて玄関から出ていった。

………ちょ、ホンマ心臓爆破で俺を殺す気か………
一気に顔に集まった熱を振り払うように首を振る。

「なんや、わんこ属性は治ってへんのやな」

「あっ!それまだ侑士に言われてんけどユウジが発端やったんか!!おかげで侑士にいつも俺はわんこ属性ってからかわれてばっかや!!」

「事実やろ。なんや、はは、懐かしいな」

「…………せやな」



久しぶりに会って、話したいことたくさんあるのに。
言葉が出てこない。

「……………謙也」

「な、なにっ」

「今言ってまわないと皮肉なってまうから言うわ」

「…………おん」

何言おうとしてるかは、何となくわかった。

「昔、お前の気持ちに応えられなくて、すまんかった」

申し訳なさそうに、けど、俺を愛おしむように笑ったユウジに、ボロリ、と涙が溢れる。

昔から変わらない優しさ。
真っ直ぐで、ある種不器用と言われてしまうユウジの姿勢に、俺は救われてた、やから好きやったんや。
けど、今は、



『謙也さん』


オリンピックカラーのピアスが俺の頭の中で揺れる、キラキラ、光ってる。



「俺な、ユウジんこと、好き、や」

「……おん」

「昔から、ずっと、好きやった。小学生のお子様の恋愛て言われようと、本気で、」

「………おおきに」

「けど、今、なら、」

「…………うん」

「ユウジ、が、望んだ形で、ユウジ、のこと、好きになれる。」

「…………俺も謙也が好きやで。兄弟みたいに」

「………うん。兄弟みたいに好き」









まるで、本当の兄弟のように、好きだと思ってるよ。











『俺な、謙也の気持ちには応えられん』
『……うん』
『やから、絶対期待させるような事もしない』
『……うん』
『それでええなら俺を好きでいればええ』
『……うん』
『ただ、俺が今してる恋愛は一生モノや。謙也はいつか、俺を諦める日がくる。絶対来てまう』
『……うん』
『そん時は――――』


今でも、貴方が俺の頭を撫でた感触を、覚えているよ。
荒々しくも、優しさ溢れる貴方の大きな掌。

『俺は、お前と血が繋がらなくても、兄弟になりたいと思ってる。お前に、兄弟っちゅーもんを教えてあげたい。』








「…………ユウジ兄ちゃん」

「なんや、覚えてたんかその約束」


へら、と照れ臭げに笑ったユウジは、俺の初恋。
今、その初恋には終止符が打たれた。

ユウジを忘れられなかった俺が、ユウジが好きという気持ちを、財前が好きという気持ちで、塗り潰すことで。


































「……………くだらな」

謙也さんと今日会ったユウジ、さんの声。
謙也さんの初恋が、ユウジさんだという事に、胸がうずいた。
けど、謙也さんはフラれていたみたいやな。
随分と優しいフラれ方で。

恋愛。
下心真心と書いて恋愛。

もう一度言う

「くっだらなっ」

はは、と渇いた声が口から漏れる。
買ってきた菓子が俺のどす黒く染まる心と正反対に明るい色合いで、嘲笑が溢れて止まらない。

誰も知らない、俺しか知らない俺の初恋は、真っ黒に塗り潰された虚像。
誰も知らない、俺しか知らないアイツ等の初恋はただの模造品。
何が愛や、何が恋や。



「………俺は、そんなん信じひん」










俺が好きやった人は、俺の事なんか忘れて、笑ってる。
何も知らずに俺に笑いかけてくる。



俺に、残酷な光景を見せつける。



俺が幸せでいたいと願った人達の恋愛はグチャグチャ真っ黒色の残酷な色に染まりあがったまま。

アイツ等の関係は、俺が壊したんや。俺がどす黒く染めてしまったんや。
あんなに美しい友情やったのに。





………所詮、恋愛なんか幻想。ツチノコ並に危うい夢物語。



「何が恋や……俺は、もう、二度とせん………」


恋愛なんて、失くなってしまえ。
恋愛なんて、滅びてしまえ。











恋愛なんて、大嫌いや―――



見上げた空もやっぱり俺の心と相反して、綺麗な青色だった。

まるで、俺を嘲笑するように。





















「戻りましたわー」

「あっ、お帰り財前」

「とりあえずポテチとチョコレートとかテキトーに買ってきましたわ。あと善哉」

「なぜに善哉チョイス?!」

「好きやからです」

「お前ら面白いなー」

真面目な顔をして言った財前にツッコミを入れると、フンワリと財前は微笑する。
それは、弱い生き物を保護するような気持ちからくるものやとは分かっとる。

けど、今はこの温かい空間を財前と一緒に過ごしていたい。

ただ、それだけしか、願わへんよ。






















――――――――――――

これからやらかすので伏線張りました。
いつか謙也とユウジの恋愛話も書きたいと思ってます^^

多分意外性のあるカプが飛び出しますのでよろしくお願いします。

シリアスかギャグかわからない、それが本性troubleレポート!とだけ言っておきます 笑






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