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「謙也さん……」
「光………」
財前の燃えるような熱い瞳に、謙也は瞳を濡らす。
ゆっくりと謙也に財前が覆いかぶさると、謙也も応えるように財前の首に腕を回した。
「もう、ええ……?謙也さッ、」
切羽詰まった財前の言葉に応えるように謙也は財前の熱い唇と自分の唇を重ねた。
「ええから、早ぅきて……ひかるンッンンッ」
財前はもう堪えられないと言わんばかりに謙也の唇に貪りついた。
涙を流しながら謙也も必死に財前の唇に応える。
財前がゆっくりと丁寧に謙也の衣服をスルスルと脱がした。
そして、そっ、と謙也の肌に財前がねっとりと触れると、謙也が切なそうな、熱に浮かされたような、甘い声をあげた。
「謙也さん……好きです」
「俺も、やで……光」
今宵、二人は繋がる―――――――
「アホカァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
人間部に、今期稀にみる財前の盛大なツッコミが響き渡った。
「なんやねんコレ!!!一体どこに俺らの人権あんのや!!つかアンタ何がしたいねん!!大体俺らはそういう関係ちゃうわ!!こんな妄想どっから湧いて出てきてんのや!!おまけに俺手慣れ過ぎや!!謙也さんもかなり捏造……いや素か。てか謙也さんは俺のコト名字呼びやし!!ようやく最近名字を呼び捨てで俺らのこと呼び始めたんやで!!それに、俺はまだこんな経験してないんに何でこないに無駄なリアリティある自分の本読まなアカンっちゅー話や!!!」
一気に吐き出した財前の言葉にニンマリと白石は笑った。
「さすがヲタ童貞な財前やんな〜♪初な反応おおきに!!せやなぁ、たしかに財前が手慣れてるんはまずかったか……。『実は純粋』がこのカプの真髄やし。服脱がすんに手間取る財前のほうが女の子受けはええかな。謙也はこのままでよし、と……。ほなこのプロットでええな。これをネタにネーム描いて漫画に起こし「ア―――――――ホカァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」
本日二度目の財前渾身の叫びが響き渡った。
「俺が言ってるんはなんで俺らの薄い本作成してるって話やねん!!!!当人の許可なしに!!!」
「………何でって………需要あるからやろ?」
「んっなこと聞いてないわ!!勝手に作んなって言ってんのやこの禿げ散らかしが!!!」
「なっ、誰が禿げ散らかしや!!どういう悪口やねん!!!」
「うっさいわ!!アンタ今ツッコミできるような人間なんかやないんやで!!今イロイロパニクってんのや!!危うくこの話!!Return18になるとこやったんやで!?」
「まだまだ可愛い初体験やろ!?脱童貞と脱処女!!ビジュアル良しなSッ気とMッ気!!年下攻めな先輩と後輩!!毒舌とへたれ!!こんなにありつけるネタが目の前にあって何もしないなんてバカの神髄や!!!」
「目の前のMッ気な先輩を犯してる自分の本を読まされた後輩の気持ちになって下さい!!!!」
「なら財前の歌詞もReturn18に危ういねん!!歌詞に何で『白い液体』が出てくんのや!!」
「ハァァァァ!!?『白い液体』イコールなにと結び付けてんですか〜?!!もしかしたら飲むヨーグルトとか牛乳かもしれへんやろ〜〜!?」
「その後の歌詞で白い液体がぶっかかっとるやろオンナノコに!!!おまけに顔に!!完全にアレやろ!!!」
「わかりませんよ!!!牛乳かけてるんかもしれへんやろ!!十分それでもムラムラするわ!!!」
「ムラムラって完全にソレやないかい!!」
「ハァァァァ!?男のロマンを綴ったんですぅー!!決して卑猥やありません〜!!!」
「………………何の話してんのや……」
今日も今日とて人間部は平和です。
すっかり人間部に俺が溶け込んでから三ヶ月。
相変わらずイロイロな誤解はされたままやけど、かなり楽しい日々に、俺は満足している。
ただ未だに二人がなに話してるかは理解できない。
「おー……朝から盛り上がっちょるばい」
ガチャ、とドアを開けて入ってきたのは千歳くん。
相変わらず背が高い。
うん、憧れる。
「二人とも落ち着きなっせ。外までその卑猥な話し漏れとるばい。」
「「うわ……」」
「いや何で自分達が話してた内容に引いてんのや……」
同時に顔をしかめた白石と財前(呼び捨てるように言われたんやで!!)に言うと、フイッと顔を背けた。
ちょっと照れているらしい。
………どっちが『実は純粋』や……
はは、と笑いをあげると財前が気づいたように振り返った。と、
「〜〜〜!!!!???////」
ふは、と照れたように自然に笑う財前に思わず鼓動がバック転したと思うと体温急上昇により赤面してしまった。
……………なんや最近おかしいわ……
「そういやそろそろアレッスね。授業参観」
「あーせやな。今年も財前ン家はアレか?兄貴がくるんか?」
「うーん……今年は親も行けそうで総出で来そうなんスよね。なんか甥っ子も小等部見せたいらしくて連れて来るらしくて……あー面倒…」
「なんでや財前。親御さん来るんは別に悪いことやないやん?」
不思議がりながら言うと、財前は疲れた顔をして言った。
「甥っ子のヤツ、俺に無駄に懐いているんスわ。だから授業中に何しでかすか分かったもんやあらへんし……。兄貴は甥っ子に甘いし、他の人の目もあるから義姉さんも強く出れないやろうし……授業中、地獄やわ……」
ガックリとテーブルに伏せる財前にご愁傷様、と声をかけるとあざーす……、というか細い声が聞こえた。
「白石はどうなっと?」
「俺ン家は来るみたいやけど多分妹の授業しか見に来おへんから、来ないと同じようなもんやと思うで?千歳は?」
千歳は苦笑いすると困ったように言った。
「妹が来るんよ。だから、サボろう思ったけど無理そうばい」
しかしどこか嬉しそうなのは、千歳は妹が大事だからだろう。
そんな風に思いながら微笑ましく謙也が見ていると、白石がくるりと謙也に振り向いた。
「そういや謙也は来るんか?親御さん」
「うえええっ!!!??」ガタガタガタンッ
いきなり話を振られたことに驚いて椅子から転げ落ちた。
「な、なんや。そんな驚かんでも………」
「や、やって……!!俺、今まで生きてて授業参観についての話振られたん初めてやっ………!!!」
思わず目の前が潤む。
それに気づいて慌てて財前がティッシュを持ってきてくれた。
「だ、大丈夫ッスか謙也さん?」
「お、おん……悪いな見苦しいとこ見して」
「いや、それはべつに構わんのやけど……」
こう考えると財前との関係も変わったなぁ………
前は財前が怖くてしゃーなかったけど、今やすっかり心許せるようになったし……むしろ安心感すら覚えるわ。
「で?謙也はどうなんや?」
「あ、ああ!俺は今家族と離れて暮らしてんねん。今は従兄弟ん家に居候してて……その従兄弟は売れっ子の医者やから誰も来ない、かな…」
「………………謙也さん」
!?アカン、完全に空気読めない発言してもうたぁぁぁぁぁぁあ!!!!
「俺ン家のバ家族で良ければ貸しますよ。甥っ子とか甥っ子とか甥っ子とか甥っ子とか!!」
「どんだけ甥っ子イヤやねん!!!」
白石にツッコミを入れられ、財前は唇を尖らせた。
「当たり前やろ!?あいつ何しでかすか分かったもんやないゆーたやろ!!目に見えん恐怖こそ怖いもんはないわ!!」
喧嘩腰の財前に白石がざまあみろ、と呟くとどこからか出したハリセンで財前は思い切り白石の頭を叩いた。
「イッタァァァァ!!何すんのや!!!」
「アンタがいらんこと言ったからやろアホ」
「あーあ、また始まったばい」
ケラケラ笑う千歳に釣られて、俺も笑った。
財前が、俺をカバーしてくれたことに気づいていたから。
「ただいま謙也ー」
「おっ!!お帰り侑士!!今日は早かったんやな!!」
玄関先に行くといつも通りの柔らかい笑みを浮かべる侑士。
少し苦笑してるようにも……
「ほんま景ちゃんには敵わんわぁ……」
「?景ちゃんっていうと……学園長の息子で跡部財閥次期社長やんな……?何かあったん?」
「何でもしばらく跡部家に来なくていいから授業参観に来て欲しいんやて。全く敵わんわ…」
「…………へ、へぇ」
思わず侑士から視線を外すが、がしりと頭を捕まれ、無理矢理侑士と目を合わせられる。
「授業参観あるなんて聞いてないで謙也〜?」
「いやぁぁぁぁ!!!!ゴメンなさい侑士ィィィィィ!!!」
全力で謝罪しなきゃ侑士は何しでかすか分かったもんじゃない。
前に自分のバックにGを入れられたんは一生忘れん。
陰湿なんやコイツは……
「ま、俺が忙しそうだからとかそんな理由やろ。んなのまだ子供が気にしなくていいんやっ。子供は大人に甘えるもんやし、今忙しいんは跡部家のメイドさんやコックさんとかの健康診断してるからや。景ちゃんに口利きすりゃ授業参観くらい行けるわ」
「そ、そか……じゃ、じゃあ明日財前や白石や千歳に言わなアカンな……」
俺の自慢の従兄弟が来てくれるんだって。
「へえー?」
「な、なんやっ」
ニヤニヤ怪しく笑う侑士を威嚇する。
てかこのニヤニヤ笑いが変態言われる原因やろ絶対。
「友達、できたんやな」
「………!!」
はっと思い返すと、最近はクラスでは白石といて、昼休みや放課後は人間部のメンバーでいる。
これ、って………と、友達?
「そっ……か。」
俺、友達できたんや……!!
「よかったなぁ謙也。」
「お、おん……ありがと侑士……!!」
「まあ、まだまだ友達は少ないみたいやけどナァ。あがると目つき悪くなんのも変わっとらんし、まだまだやな」
「うっさいわボケ!!!!」
でもやっぱり侑士はうざかった。
―――――――――――――――
授業参観当日
「へ〜ほなその従兄弟くん来てくれるんか。よかったなあ謙也」
「おんっ!」
「えー、じゃあやっぱり甥っ子いらないやないですか。ほんまイヤやわぁ……」
「諦めるばい財前」
「ううっ……」
授業参観は5時間目。
今お昼休みで、人間部の皆とワイワイ過ごしている。
「あ、謙也さんにアメちゃんあげますわ。今日の授業頑張れってことで」
「おん、ありがと!!」
「ッ……!!///」
ふにゃ、と笑うと(何故か)ぶわりと財前は顔を赤くした。
「青春の一ページたい……。虐めたくなる可愛さばいね」
「やめや千歳。俺の目の保養なんやで」
コンコン
「!!ノック……?」
「こんな本校舎から離れた部室に誰やろ……」
ガチャ、と白石がドアを開けるとニコッと微笑む男。
丸い眼鏡をかけた美形が、人間部の部室の前に立っていた。
「来たでー、謙也」
「ゆ、ゆゆゆ!?」
「誰、ッスか……?」
「なんか、随分と奥の深い、読めない顔しとるばい。裏がありそうたい……」
「アカンなんやこのイケメン…!!創作意欲が……!!」
財前を除く約二名が失礼なことを言っているが、それより驚いているのは、この、俺。
「なんで部室に来てんのや侑士ィィィィィ!!!!!」
そりゃ放課後辺りに?部活入ってるってなれば来るかな?とは思っとったけど!!!
「なんっで昼休みに来てんねん!!!!!!!」
「やって授業参観終わったら俺、学会に行かなアカンなったんやもん♪」
「もん♪、て可愛くないわ!!!」
よく考えたら俺からかうん大好きな侑士がちゃんと授業の時間に来る訳がなかったんや……
「ふ――ん……」
「……………え」
チャッチャチャララ〜♪
「あ、俺のケータイ……」
「!!あっ、それ、初音ミクの新譜やろ!?P−8.01さんの!!ええなぁもう着メロにしてん!?」
「あ、はい……あの、わかるんですか?」
財前が戸惑ったようにいうと侑士は嬉しそうに頷いた。
「分かるで財前くん〜。俺の最近のお気に入りはミクちゃんやったら………で、メグちゃんやったらあの………とかやな。」
「あっ、俺もそれ好きです!!ちょっとエロいんですけど何か胸にきゅんッてくるものがあって……」
「そーそー!!やったらアレは?P−▼×eight×さんの……」
「おっ、この線画上手いなぁ、誰書いたん?」
「あ、俺です……」
「上手いな白石くん!やっぱり受けコはこういうアングルが1番ドキドキするやんなっ!!」
「は、はいっ!!あ、この同人俺執筆したんです!!」
「ほんまかいなっ!?凄いわぁ!!あ、やけどここはこのアングルやと攻めが格好悪くなんねん。むしろここは全体を見せて攻めのかっこよさを際立てて……」
「そっか!!そうすれば受けコの可愛さも際立つ!!」
「おん!!そういうことや!!」
「お、千歳くん。あのオンナノコたぶらかすんか?」
「え、あ、いや……」
「ええでええでー。やっぱりオンナノコたぶらかすん楽しいもんやんなっ?」
「は、はいっ!」
「やけどああいうコはガード高そうやしな〜まずはあのコの周りの友達、言い方悪きゃ外堀埋めな!!」
「そうか、そういう方法もあるたいね……」
「うん、うん。青春、火傷させろや青少年、ってな!!」
侑士は、やっぱり凄い。
あんな気難しい三人を簡単に、なんて言うと失礼やけど、仲良くなるなんて――――
「はは、」
そんな侑士が自慢で、嬉しそうにしてる三人がいて―――
突然、堪らなく幸せだと思った。
「ぅ〜〜〜ッ……ほんま何やねん……反則、や……」
その、堪らなく嬉しい、幸せ、という気持ちが一杯な笑顔に財前もふにゃりと嬉しげにした。
「………………よかった」
侑士が何事か呟き、鞄を持って立ち上がった。
「ほな、俺はそろそろアイツんとこ行ってくるわ」
「アイツって……ああ、そっか。せやな、侑士不法侵入してるんやもんな!」
「なっ、不法侵入やない……いや、不法、侵入、か……?まあええやん!!」
「侑士どうせあの子ンとこ行ったら俺ん授業見れないやろうし、俺ん授業見れなくなっても文句は言わへんで!!」
ニッ、と笑って言うと侑士は少し申し訳なさそうな顔をして頷いた。
「ほな、皆さんまたな!!謙也はバカで、迷惑かけるやろうけど頼むわ!!」
「なっ!!なんやてっ!?」
最後の最後まで俺をからかって侑士は出て行った。
「う〜……またしてやられたわ……!!俺バカやないし!」
「いや謙也さん事実やからそないに気にしなくてええですよ」
「嘘やん!!?」
「てか……ははっ」
クスクスといきなし可笑しそうに笑った財前に目をしばたく。
白石や千歳を見ると二人も笑いをこらえているようだった。
「、ッえ………?」
「け、謙也さんって意外と面白いんスね……!!もっとそういうとこ出せばええのにっ……!!」
「ほんまやでー。侑士さんにからかわれた時とか可愛かったけど、かなり面白かったで!!」
「からかい甲斐がかなり増えたばいっ。こげん面白い反応なかなか、なかよっ……!!」
「うー……」
何だか、恥ずかしいような、嬉しいような………けど、
「へへっ……」
くすぐったいような、こちょばゆい感じが、気持ちいい……
俺は、この和やかな、暖かい、世界がとても好きや。
にこやかにこちらを見ている、三人が、大好きや――――
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