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俺は元来、史上最強の上がり症だったりする。

人と目が合えばあまりの緊張にかなり目つきが悪くなる(らしい)。
侑士に言わせれば人一人殺した人間がする目らしい。
その目つきのせいでか、俺は歳が近い友達がいない。



え、それって酷ない?

侑士は天才という名を欲しいままにする10上の俺の従兄弟。
何でも売れっ子な医者らしく、あの跡部財閥次期社長の掛かり付けの医者らしい。

本人はとんでもない奴の掛かり付けになってしまった……と歎いていたが、俺は侑士がうやらましかった。

次期社長の跡部景吾君は、一匹狼の俺様で、誰にも心を開かない人間だったという。なのに、侑士には心を開き、用もなしに呼び付けてくるという。

昔から侑士の周りにはたくさんの人がいて、俺はそれをずっと遠くで見ていた。
皆に変態とかおちょくられながらも、いつだって侑士は皆に好かれていた。

一人だった俺を気にかけてくれる大事な大事な従兄弟。
侑士が皆に好かれる理由が、1番俺にはよく分かっていた。



俺はというと、上がると目つきが悪くなるのに加え、髪を金髪のギラギラに変えたせいでクラスメートからやはり一線引かれていた。

だったら何で金髪に変えたかというと、これ以上目つきが悪い陰気な奴に思われたなかったからや。

今度は目つきの悪い金髪の男子生徒になったんやけど……


まあ黒髪に戻すつもりはないのだが。
なんでかっていうと、ハッキリした理由はないけれど、1番はやっぱり侑士が染めてくれたからや。

そして、似合っとる、って言ってくれた。
謙也は上がらないで笑えばモテるのにな、という余計な一言も漏れなくついてきたが。












そして俺はこの度跡部財閥の社長さんが学園長をしているという金持ち学校に転がりこむことになった。

いわゆる転校や転校。

家族皆が外国に転勤にいくことになったのだけれど、家族に対しても上がってしまう俺は、完璧にグれたと家族には思い込まれていた。
そして、唯一俺の理解者となっている侑士と離れるのが、俺は天地がひっくり返っても嫌だった。


嫌だ、行かない、と繰り返していた俺だったが、やはり家族皆で外国には行かないとアカン、と厳しく言われて俺は諦めるしかなかった。

しかし、ここでもやっぱり侑士が沈んだ俺を見兼ねたのか、引き取り手に名乗り出てくれた。

セキュリティがしっかりしているマンションだし、自分は帰るのが夜遅くなったり帰れなかったりするけど、謙也は自炊ができるし、おかえり、を言ってくれる人間がいると嬉しい、と。

家族は俺を少し煙たがっていたし、何より忍足家でかなり好位置にいた侑士の名乗り出だったので、家族は受け入れてくれた。

ほんま、侑士には感謝しとる。















という多大なトリップに入っていた俺は、今目の前の情景に、また意識が遠退きかけた。

目の前には、1人のリア充。

財前光。
中学一年。俺の一つ下。
勉強スポーツ共に優秀。
クラスの学級委員を務めるしっかり者の男子から女子から全ての人間に人気者。
クールな先生受けがいい生徒。





そう、クールなんや。
話に寄れば…………

しかし、目の前にいる財前光はそんなクールなイメージを払拭した財前光だった。
あれ、クールなのが財前光で、でもここにいる財前光はクールやないから財前光やなくて、でもココにいて今正に



『初音ミクは俺の嫁!』



と、叫んだ男子生徒は、財前光で。





「……………………………」

こういうとんでもなく大変な状況の時、どうすればいいか、俺は知っとる。







敵前逃亡は男の恥?
既にもう恥まみれな人生を送っている俺にとっちゃ今更恥が一つや二つ、十や二十……は痛いけど、一つや二つは造作もない。



ということで、








俺は全力で図書室から逃げ出した。
















とりあえずどうしてこうなったかを、俺はもう一度一週間前の朝からの出来事を考え直すことで落ち着くことにした。

朝、いつもギリギリに起きる俺は転校初日もギリギリに起きた。
しかし時間配分を大きくミスし、俺は遅刻したんや、うん。

侑士もいなかったしな……

そして、遅刻した金髪頭、おまけに遅刻したこともあって盛大に上がった俺の目つきは表現できないほど悪なった。



そして、廊下を歩いていたら不良に肩がぶつかりまさかの廊下で喧嘩を売られる始末。

手を出す気もなかった俺やったが、喧嘩だということで周りに取り巻きができたので上がって目つきが更に悪なった。
それに怯んだ不良が俺に突っ込んできたので、俺は避けたんや。

そして盛大に不良が転び、周りに笑いを買った。



それは嘲笑にも似た笑いだったが、俺は元来人を笑わせられる人間がうらやましくて仕方なかったので、そのとき、始めて学校で口を開いた。(自己紹介では緊張で喋れなかったんや、聞かんといて)



「………… ウ ザ 」



かつてない、悪人の声が出た。
不良は縮み上がって泣き出した。
取り巻きは我先にと逃げていった。




俺の描いた学園生活が終了したゴングが鳴ったのを、俺は確かに聴いた。




それから一週間。

また一人ぼっちの学園生活かぁ……と図書室に歩いて行った俺。
ある程度、学園の有名な人間を把握した俺は、一人……だが波風立てない日々を送っていた。
(最初の不良騒動はなかったことにしてや)



あ、ココや。

探していた図書室を見つけ、ガラッと開けたドア。
開けた瞬間響いた声。


「初音ミクは俺の嫁や!!」




学園で有名な人間TOP3には入る人間から出た声だった。



……………ダメやもう今日は寝よう。

――――――――――――――――――



次の日


朝、珍しく休みの侑士が炒れてくれた日本茶を飲み、俺は学校に向かった。
やっぱり送り出してくれる人間がいるというものがいいのか、俺は幾分リラックスして学園生活を送っていた。

のに、


お昼休み。
いきなりクラス中がザワザワし始め、俺は侑士と一緒に作ったお弁当を食べながら顔をあげた。


ざわついている理由はすぐに分かった。
学校でいい意味で有名なTOP3の人間が三人、このクラスに入ってきたからだ。

同じクラスの白石蔵ノ介。
女子にも男子にも絶大なる人気を誇り、勉強スポーツ共に優秀。(聞いた話じゃ男子にも性的に好かれるとか)
ミルクティー色の髪と壮絶な美形顔がマッチしていて、思わず拍手が送りたなる。

次に千歳千里。違うクラスだが噂はよく聞く。
やっぱり女子に絶大なる人気を誇る男。
学校をよくサボるらしいが勉強スポーツもできるらしい。
甘いマスクと天然キャラが女子にも男子にも人気な生徒。

そして、昨日―――――

いやいやいやいやいや!!!
あ、あれは白昼夢や!!侑士のロマンチシズムが移ったんや!

あれ、ロマンチシズムて移るんかな?

とりあえず昨日、図書室にいて問題発言した夢を見た男子生徒の財前光の三人が立っていた。









……………俺の目の前に。


「ちょっと着いて来て貰ってええかな?忍足謙也くん?」


白石が愛想よく笑いかけてくるが、俺は意図的に今回は睨みつけさせて貰った。

「今俺、食事中なん分からへんのか?あと、話したこともない奴にいきなり呼び出されてホイホイ着いていく訳ないやろ。なんか裏があると思うに決まっとる」

そう言ったら、三人揃って目を見開いた。


…………え、俺なんかおかしな事言うた?
やって食事中の人間捕まえて着いて来いはおかしいし、知らない人には着いていかない!
常識やで。

「へぇ……おもろいなぁ」

白石がにぃ、と笑って俺の机の前の席に腰かけた。

「食べ終わるの待つさかい。それならイイやろ?」

「………まあそれなら」

とりあえず昼食はしっかり食べないとな、と侑士が1番自信持って作る卵焼きを口に含んだ。

うん、甘い。




………視線は甘くなんかないけれど。












―――――――――――――――――

「昨日、見たんやってな?」

「見たって………」

「財前の本性」

「…………あれ夢やなかったん?」

連れて来られた部屋はさすが私立、という感じでとても豪華だった。

「ははは!やっぱり信じられへん?財前がヲタなんて」

「…………ヲタ?」

ヲタっていうとアレか。
侑士がよく見てる深夜アニメとかが大好きな人間の事かいな?

「………まあ意外ではあったけど、それが何や?」

「ん〜〜?分からん?」

ぐいっと俺の顎を上げて白石は顔を近づけて言った。

「絶対に言い触らしたるすなや、ってことや」

そういって妖艶に白石は微笑んだ。

…………………。

「頼み方があると思うんやけどな……てかばらして俺に何の得があんねん。ばらす気なんて始めからあらへんで?てか顔近いで?どしたん?」

「……………!!」

驚いたように白石が俺から顔を離した。
イケメンってほんま顔近づけるの好きやな……
侑士も女振る時に使うけど便利やよなぁ……
俺が近づけたらただのカツアゲやし……

「白石部長の妖艶スマイル効きませんねぇ。驚きましたわ」

「びっくりしたばい。俺や財前以外にもいたんね」

「…………ショックや」

……!!?
アカンまたトリップしてもうた!!
俺なんか傷付けるようなことしたか!?

「す、すまん白石君……ばらさんってちゃんと約束するからそないに落ち込まんで?」

「論点違う、論点違う」

財前くんがなんかツッコミをいれてきた。
何でやねん。


「………てか、忍足さんって不良ちゃうん?」

じっと財前くんに見つめられてかっとまた俺は上がってしまった。
ダメや、白石君と千歳君は侑士に通じるイケメンやから全然何も感じひんけど財前くんは無理や!!
なんか慣れへん!

「ッ…………!!」

「忍足さん?睨んでどないしたん?」

違う!睨んどるやなくて!

そう言いたいのに口が渇いて声が出ない。
目つきがどんどん悪くなっていくのが分かる。

なのに財前くんは俺を見つめ続けて…………
アアアアアアアア!!!

「あがるわ!!そんな見つめられたらあがるわ!!無理や!!人の目ェ見て話すなんて誰が決めたんや―――――!!!」

俺は無我夢中で部屋から逃げだした。



「……………………わぁ」

「……アレは、まぁ」

「とんでもない本性ばいね」








そしてまた次の日。


例に漏れず昼休みにまた呼ばれ、致し方なくまたあの部屋に連れて行かれた。

何でお前がTOP3といんだよって視線が突き刺さる。

なんやねん、助けて侑士。










「なあ忍足くん?俺らの部活に入る気あらへん?」

「………部活?」

わぁ、青春って感じやな。
素敵やね♪


ってなんっでやねん!!


「所属してんのは俺ら三人。部活名は『人間部』」

「………にんげんぶ?」

「おん。学校で本性を隠してる人間が、学校でその本性を明かさずにストレスが溜まらないように活動する部活や」

「………何ソレ」

つか本性って……

「 入 る ば い ね ?」

「〜〜〜〜!!!?||||」


千歳君の声にぞっと悪寒が駆け抜け、俺は思わずコクコクと頷いた。

「よし、歓迎するで謙也!俺は白石蔵ノ介!!人間部部長で本性は腐男子の只の変態や!」

「うぇっ……!?」

ちょ、綺麗な顔でなにさらりと言ってんねん!!

「よろしくばい謙也。俺は千歳千里。本性はただの真っ黒な性格悪いSばい♪」

あの、甘いマスクはどこへ行ったんでしょうか?
迷子ですか?

「違う^^」

ヒイィィ!!!
いきなり標準語はやめてくれや!!てか心読まんといて!!

「財前光ッスわ。本性はただのヲタクですわ。最近は初音ミクがお嫁さんです。」

…………うん。
図書室での叫びはホンマもんやったんやな……。

「で、謙也も自己紹介してや。本性っつーかお前は誤解されてんやろ、言ってみ?」

誤解っちゅーか……
隠してるっちゅーか……

てててててててててかそないにイケメン顔で見つめんといて!

俺、俺、俺………………















ボンッ


俺は侑士にひとつだけ言われていることがある。
謙也の本性は、男に危険だから、見せんようにしなさい、って。













お前は男にモテるんやから―――――って。




「…………忍足謙也。本性は不良でもないし、ただの上がり症の泣き虫や………。」


そのとき、財前の目に映ったのは涙目で赤い顔をした、えげつない魅力を持った男だった。



「え…………」

「へたれ受けキタ――!!!」

「虐め甲斐がありそうばい♪」




こうして俺は一癖も二癖もあるTOP3と部活をすることになった。

ああ、俺はとことん神に見離されてるらしいです。

つかなんで侑士でイケメンに慣れてるんに、財前君は無理なんや……?

まあ、ええか。

とりあえず、

「俺と謙也で優等生と不良もいいし、千歳と謙也でSMもいいし……年下攻めの財前もいいわ!!」

「さて、暇だし、女の子何人かたぶらかしてくるばい」

「アカン、今日は嫁と愛の活動する日やった!!はよせな!!」




…………やっていける気がせん。



助けて、侑士。







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