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「冬休み、年越しから年明けにかけて旅行に行くぞ。特別にテメーらを俺様の別荘に連れてってやる。」
「……………は?」
マヌケな声は、俺の口から滑り落ちて、静かになった人間部の部室に転がった。
「はぁぁぁぁ?べ様が誘ってくるとか裏があるとしか思えないんやけどぉぉぉぉぉぉ??!」
どこの悪女や、と内心ツッコミを入れつつ白石の嫌味がたっぷりと漬け込まれた言葉を吐き出した。
俺は怖さには慣れたとは言え口元をひくつかせる。
コイツの跡部君嫌いは最早異常や。
「アーン!?言っておくが来たくなきゃテメーだけは来なくていいんだぜ!?大体テメーを誘ったせいで肌にさぶいぼたっちまったじゃねーか!!」
訂正、この二人の嫌い合はもう度を越えとる。
少しは仲良く出来んのかいな………
「べ様、いきなりどうしたと?べ様が俺らを誘うなんてよっぽどのことがあると思うばい。」
「確かにそうっすよね。何でですか?」
二人冷静に問い掛ける財前と千歳にはやっぱり付き合いがちゃうな、と思った。
「どうもこうもねえ。忍足に仕事として俺の家で行われる年越しパーティーに参加して貰わねぇといけないってのに忍足がどうしても行けねえって言うんだよ」
ったく、と肩を竦めた跡部君はジロリと俺を睨んできた。
「テメーが原因なんだよ。忍足が別荘に来れないのは」
「あ…………やっぱり?」
ここ最近、侑士がちょっと困っていたようなそぶりを見せていたから何やあるとは思ってたけどな。
「テメーだけ軽井沢に連れていこうとも考えたが、それじゃあテメェもつまんねーと思うからな。まとめて誘ってやったんだよ」
ありがたく思いやがれ、と大仰に跡部君は言い放つ。
「ったく……俺の恋路は厳しいもんだな………」
そういった跡部君の顔は憂いに満ちていて、まさか、と立ち上がって跡部君の手を引っ張った。
「!?おい謙也!!俺は総受け攻め派なんだよ!!二人きりはやめろ!!」
「そっ、そういうんとちゃうから!!!ちょい来てや!!!」
ぐいぐいと跡部君を引っ張り出して、廊下に二人きりで見つめあう。
あ、いや、変な意味やないから!!
「あ、跡部君て侑士のこと好きなんか………?」
「当たり前だろ」
あっさりと認めて、跡部君は続きを促す。
てか俺学校の人間部以外の人と二人きりで話すとか始めての経験やん。
「そ、そか……あ、あんな?」
「んだよ。もっと要点よく且つ確実に喋れ」
「お、おんっ。あ、えと、俺、侑士のこと大好きやねん」
「………………あ?」
瞬間威殺すような猟犬の目をした跡部君に慌てて手を前で振る。
ちゃう、ちゃうから!!
「跡部君と違うて侑士は家族愛みたいなもんやから!」
「そうか。……で、何だ?」
「だ、だからな!侑士には幸せになって貰いたいねん。あ、跡部君は侑士と一緒に幸せになれる?」
「なるんだよ。」
自信満々に言い切った跡部君に、ふにゃ、と笑えば、跡部君は少し驚いたように目を見開いた。
「お前、いつも俺のこと怖がっていたじゃねぇか。なにいきなり笑ってんだよ」
「え、いや、跡部君なら侑士のこと幸せにしてくれそうやから。だから、あの、頑張って、な?」
「………ああ」
じゃあ戻るぞ、と踵を返した跡部君を追う。
跡部君なら、きっと――――
という訳でいきます旅行!!
なんて、楽しげなテロップを流すのには結構骨が折れた。
白石は跡部君の世話になりたない、って喚くし、財前はミクちゃんフィギュアの手入れが毎日出来ないッスわ、って嘆くし、千歳は服が一週間分もないばい、誰か貸してくれる人おらん?って無理なこと聞くし。
白石には俺が必死に頭を下げて、財前にはミクちゃん1つは持って来てええから!と打開策、千歳には跡部君が工面してくれるという訳になった。
そんなこんなで只今仲良く跡部君御用達のジェット機の中や。(下を見たら精神的に殺されるのは言わずもがな。)
………………そう、仲、良く
「喰らいや!!俺のターン!!」
「はっ、効くかよ!!返り討ちだ!!」
……………ん?
「なに、あの二人仲良いやん。え、むしろ気ィ合ってへん」
向かい側に座る二人、白石と跡部君は間で寝ている千歳の膝の間にトランプを置いて、ひたすらババ抜き。(二人で)
ある意味じゃ仲良いやないか、それ。
「あの二人が嫌い合ってんのは確かですけど、嫌いやからこそ見える世界があるんですよ」
とか財前が何や難しいことを言っとったけど俺は意味の半分も理解できてない自信がある。
というか挟まれとる千歳がいっちゃん凄いわ……。
かれこれジェット機に乗って3時間。
ええ加減飽きたわ。
財前暇そうにしとるし。
「まだ着かないんスかねぇ………」
「せやなぁ。けどもうそろそろ………」
ぴた、
と手をかけるところに同時に手を置いたので、財前が俺の手に手を重ねる形になった。
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「い、いい天気やな〜」
「そ、そうッスね〜」
ぱっとさりげなくお互いに離した手。
財前の冷たい手の感覚が、手の甲に滲んで。
心臓が、おかしくなりそう。
「そ、そういえば謙也さん。ユウジさんとはどうしてるんですか?」
「あ、ユウジ?ユウジな!ユウジっちゃあユウジな!!」
話しを反らすように言う財前に便乗してよく分からんことを口走る。
とりあえず落ち着け、俺。
「ユウジなら時々会いに来るで。元々侑士とは仲良いし。アイツが作るチャーハンめっちゃ美味いねん!」
「………………へえ」
「あ、そ、そや。こ、今度財前も俺の、というか侑士の家に来おへんか?もてなしするでー」
「……………まあ、気が向きましたら」
……………何や財前の機嫌悪ない?コレ。
え、俺何やらかした。
「あ、あの財前」
「何スか」
「あ、あんな?えと………」
「…………、寝てええですか?昨日ミクちゃん達と深夜までお別れの挨拶してたから」
「あ、おん……」
会話は終了。財前の機嫌は損ねる。………最悪や。
うう、と涙目になりつつ俺も寝てしまおうと態勢を整える。
BGMにUnoに移転した『俺様のターン!ドロツー!!』『ナメるなや!!ドロツー!!』『ドロツー!!』『ドロツー!!』『ドロフォー!!』『ドロフォー!!』『喧しかお二人さん。ジェット機内でブチ犯されたいと?』という夢見が悪そうな争いを聞きながら。
「……………ん、ん?」
ぱち、と目を覚ますと目の前に三人がいなくなっていた。そして、肩にあるもの、は。
「……………ざいじぇっ……………!!」
痛い、噛んだ。
思い切し噛んだ。
が、そんなこと言ってられんのがこの状況。
俺と財前はまるでこ、恋人のように支え合って寝ていた。
財前が俺の肩にもたれ掛かり、俺はそのもたれ掛かった財前の頭の上に頭を乗せていたらしい。
あ!!手なんて重なり合うとる……!!!
いつもなら『ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』とか奇声を発するとこやったけどアカン。
やって俺の肩には財前が寝てるんやで。
端正な顔を俺なんかの肩に預けてくれとるんやで!!
ス、スペシャルミッションやないか!!
周りを見回せば、荷物や何やも無くなっていて、メモ書きが一枚。
『あんまりにもよく寝てたからそっとして置いたで☆
起きたらジェット機から出るようにな!部屋番号は720やで。荷物は運んでおいとくな!』
という白石の筆跡。
いやいや!!起こしてくれたってええやんか!!!
え、てか720って7階もあんのか別荘!!ジェット機から外はよく見えへんけど何やとんでもないトコに来てしもた気がビンビンする!!
そんな気持ちを共用したいし、ぶっちゃけ心臓が爆発する勢いや。財前イケメン過ぎやねん!!
このままやと早死にしそうやから可哀相やけど財前を起こしにかかった。
「ざ、財前……?」
そっ、と財前に呼びかける。
反応なし、よく寝とる。
「ざいぜーん………」
「ん………」
「ざいぜんっ」
「………んん……」
ふ、とゆっくり目を開けた財前と俺の目線が絡みあった瞬間やった。
「…………うえ?!」
「………んにぃ」
んにぃ、ってかわええなオイ!!ってそうやなくって!!!
肩まで回された手。
なにげにたくましい肩。
首筋にふ、とかかる息遣い
………抱 き し め ら れ と る
「あ、あ、あああああっ」
今度こそ"ぴぎゃぁぁぁぁぁ"と叫びそうになった瞬間、首筋にふうー、とかかった息にビクリと反応してしまう。
腹に力入らへんから叫べないとかどんだけや!!
おまけに叫べない上、肩を強く抱かれとるからビクともしない。
アカン俺足以外にも鍛えればよかった。
腕力とか腕力とか腕力とか!!
首筋にかかる財前の色っぽい息遣いに"ひやっ"やら"ひうっ"と何や変な気持ち悪い声が出る。
もう無理ほんま何やアカン!!
身体高揚してきたんは絶対気のせいやない!!
「財前!財前!!起き、ひあっ!」
うー、と呻いたかと思うとさらに力強く抱きしめられる。
…………胸がキュンとした。
ってちゃうぅぅぅぅぅぅ!!!
もう顔は真っ赤やし、身体はプルプルしとる上、何や息もあがってきた。
か、感じ過ぎて生理的な涙も出てきたんですけど!!
ちょ、ほんま堪忍してぇぇぇぇ!!!!
「………………しらたま」
「へ?!!」
しらたま!!?
「しらたま、やー……」
かぷり、
頬に小さな、圧迫感。
生温い感覚。
噛み付か、れた?
ぷつん、
「ぴやあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」
鍛冶場の馬鹿力、改め、鍛冶場の馬鹿声が俺から盛大にあがった。
「うわ!?」
驚いてようやく目を覚ました財前の最初の視界に入ったのは、金髪頭。
「………………え?」
「ざ、ざいぜっ、は、離し、ひやっ」
「え、いやいやいや!!何で謙也さんそないにエロ……じゃない、真っ赤な顔してるんですか……!?」
「く、首、に、ひやっ。息当たっ、てる、んんっ。か、肩引き寄せ、とるっ」
「…………………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!!!!」
ぱっと離されかくん、と椅子から滑り落ちる。
アカン、心臓がおかしいくらい早いっちゅー話や!!
「は、ふ………」
あがった息を整えて見上げれば可哀相になるくらい顔を真っ赤にした財前が顔を片手で押さえていた。
み、耳まで真っ赤や……
「すんません俺………どこまでやらかしました……?」
「………あー、えと。ただ単に俺が首が財前の耳と同じように性感帯な、だけやから」
あの噛み付いたことは黙ってたほうがよさ気やな。
お互いの為にも。
俺の頬の感覚は中々とれそうやないけどな。
「………別荘着いたから、行こか?」
「はい…………」
二人して顔を真っ赤に染め上げてジェット機を出る。
さっきの財前の行為を思い出すだけで今にも腰が抜けそうや。
「…………………え?」
お手伝いさんに7階案内されて720号室に着くと、部屋の端っこに俺と財前の荷物。
うん、そこまではおかしない。
「……………錯覚やんな?」
「………………そう思いたいっすわ」
何故かベッドはひとつだけ。
「…………………錯覚や、ないの?」
カサ、とまたもやベッドの上にあるメモを読む。
どんどん俺の顔から血の気がひいて蒼白になっていった。
嘘やん!!!
『余った部屋がここしかない。悪いが広いベッドだ。二人で寝てくれ』
跡部君のらしい筆跡。
つまり、俺らは、一緒のベッドに寝る、と…………………
「ぴぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
今度こそ俺は盛大に叫んだ。
年越し年明け旅行スタート!!
―――――――――――――――――
とりあえず旅行です。
書きたかったんです!
この旅行は多分中々続きます。
季節外れ?
そこはツッコミなしで。
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