小説しょうと四天 | ナノ

ミーハー注意報!!



自分で撒いたタネや、自分で何とかせなアカン。

気づかなければ良かったんに、気付いたんは俺。
長い前髪をどがして見てしまえばとても(俺にとっては)分かりやすかった。

それを、指摘しなければ良かったんや。

けど、あの人に近づくチャンスかと思って、後悔する可能性は100%やったけど、それでも、縋りたかったんや。

俺は、あの人に近づきたかったから。














だけど、俺は今猛烈に後悔している。
とりあえず、何故俺はこんなアホ……いや、ミーハーを好きになった。
もはや悲しさが度合い越えすぎて涙も出ないわ、くそっ。





「あー……やっぱりイケメンは目の保養やんなー財前」

「………ッスか」

「白石と千歳が並べば咲き誇るバラ、白石とユウジが並べば美しく立つ百合、白石と金ちゃんが並べばふわりと揺れるコスモス、金ちゃんと千歳が並べばサンサンと輝くひまわりやな……ああんもう!!ほんまカッコイイ!!!」

「……………」


な に こ れ























ミーハー注意報!!
























実は何を隠そう忍足謙也さんはイケメン大好きな女の子みたいなミーハーやった。

気付いたのはふとした時に見せる恍惚とした表情からや
最初は白石さんに惚れているのか、と落ち込んだものだが、よく見てみれば、彼は見てくれがイイ男に対してひたすら見とれていた。

それを指摘したのが約二ヶ月前。
指摘した時の謙也さんの顔はそれはそれは鳩が爆弾喰らったかのような顔をしていたが、今じゃすっかり俺にばれたことに慣れたのかただのウヘヘ顔や。

「なあなあ財前ー。お前は誰が一番かっこええと思う!?」

「……謙也さん」

俺の言葉に、謙也さんは少し目を見開いて、やがてフンワリと笑った。

「……おおきにっ。けど俺は可愛い系を目指しとるからイケメンは頂けへんなー」

ああこの笑顔がある限り俺は謙也さんに惚れたまんまなんやろうと思った。



俺の名前は財前光。
絶賛謙也さんに片思い中の地味な青少年である。





俺の髪型は、前髪を前に前面に出し、それを赤と白のピンで留めているので、顔は隠れきっていて、さながら男版の貞子さんや。
俺はちょっと人間観察が好きな達で、人をガン見してしまうと、大体のことを把握してまう。
小学生まではすごーい財前くん!で済んだけど、中学生になればそれは異端として見られるのは、賢い俺はよう分かっていた。(自分で言うなって?事実やわ)

やから前髪で目にバリケードを作った。
これならそこまで相手を把握せんから。

で、まあ、それはそれは変わった髪型で顔が見えないもんだから俺が遠巻きにされたんはしゃーない。
あの白石さんですら最初は話しかけるのに躊躇したくらいや。








…………けど、謙也さんは笑ってくれたんや。





『何ソレ!!めちゃくちゃ個性的な髪型やんな!!男版貞子さんかっちゅーねん!!』

誰もがツッコまなかったことにツッコミを入れて。
俺はそれが嬉しくて。
謙也さんの太陽のような笑顔に俺が惚れたのは言わずもがな―――っちゅーことや。

そして謙也さんに誘われてテニス部に入部。
その一ヶ月後、謙也さんがミーハーだと知り、それを指摘した。

それから約二ヶ月……。
謙也さんは相変わらずミーハーで、相変わらず俺は謙也さんが大好きで、けど、今の生活はぶっちゃけ、めんど楽しい、っちゅー感じ、やな……





謙也さんが俺をまっっったく好きになることはないのは、知ってんけど、な。




はは、切な























「ああー……だる」

授業の体育のだるさにイライラとしつつサッカーを楽しんでいる級友を見つめた。よくあんな楽しげに出来るな、頭おかしいんちゃう。
次に俺のいるチームは試合をやるが、俺はひたすらサボる気や。やって、めんどい。


「………ん」

少し感じた視線に振り替えってみれば、教室の窓からヒラヒラと手を振る謙也さんが見えた。
右手と左手の指で、2と4を作っている。

(………Bチームの、4番がかっこええ、か)

謙也さんの体育チェックはさることながら、謙也さんの小さな視線に気づく俺も大概やとは思った。謙也さんレーダーでも内蔵してんのか俺。

けど、好きになって貰えないとは言え、白石さん並にデキる人やない級友をかっこええというのは気に喰わない。(大体あの4番、勉強は出来ないし、頭はからっぽのすっからかんやし)
確か俺のチームは次にあの4番がいるBチームと当たるはずや。

「………やったる」


一人気合いを入れて、ちょうど試合が終わったコートに足を踏み入れた。











わあわあと騒ぐコート内、俺は一人じっと観察していた。
周りの動き、相手の動き、そして、4番の動き。
周りにばれないように目の前から前髪を一時退却させて、ひたすら。


頭おかしいとか言ってすまん級友。
俺も大概頭がおかしかったらしい。

(けど、好きな人にイイトコ見せたいんは、普通やろ。)

相変わらず小さな視線は感じる。
謙也さんのことだ。
イラチやからアイツ何やっとんねん!って呟いているに違いない。

けど、俺やって、たまにはやったる。


たまには、かっこええって思われたいやん!


バッと足を踏み出して駆ける。いざ4番にパスされるという瞬間、俺はそれを器用に奪い取った。

「………居ないやんけ」

味方は後方なんか(攻められてたからな)、前方には誰も居らへん。
やったら、一人ええかっこつけさせて貰う。


謙也さんのように速い訳やないから、上手いこと相手をかわしながらゴールに進む。
そして、軽いフェイントをかけて、思い切りゴールにボールを蹴った。


笛の音。
ジャスト試合は終了。
俺のいるチームの勝ち、や。

「ふう……」

「やるやん財前!!」

「ようやったで!!」

「だっ!!?」

後ろからいきなり乗っかられてバランスを崩し、俺は敢なく地面に突っ込んだ。

(何でこうかっこつけられへんねん最後の最後に!!!)

どけや重い!!加減知れや!!もしくは去ね!!のけろ!!とまくし立てれば級友は嬉しげにどいたので立ち上がり、汚れた体操服をはたく。
チームメイトにがっしりと肩を組まれて少し苦笑した。

やっぱりコイツらのが、頭おかしいわ。

「………あ、」

せや、謙也さん。

くるっと振り向いて謙也さんがいた教室を見上げる。
謙也さんはこっちを見ていたようだが、俺と視線が合った瞬間ぱっと反らされた。

………え、なにそれ

ださかった俺を見て慌てて視線を反らしてくれたんやろか。いやけどサッカーやっとった俺は別段ださくなかったはず。

(……けど、こんな前髪やしな。かっこええ訳ないか)

ちょっとした悲しい思いを抱きつつ、俺は級友に促されて教室への道を戻っていった。




















「けーんやさん」

「おー財前。体育お疲れ」

「……ども」

お疲れだけかい。
やっぱり顔も良くないと謙也さんはときめかへんのかな。

そんな『いつも通り』な謙也さんを尻目に俺は謙也さんの傍らに座った。
ここは謙也さんと俺が一緒にいる為にはおあつらむえきな空き教室で、ここでよく俺は謙也さんにイケメンについて語られる。イケメンについて、

いつもなら謙也さんは、かっこええ4番に対し俺にて語り尽くすであろうことを、俺はすっかり失念していた。


「財前ってほんまに面白いねんな」

「!!!………そ、そうッスか?」

ヤバい声上擦らなかったやんな。けどしゃーないやろ、コレは。
やって、謙也さんはイケメンについて語るばかりで、俺について聞くことはほとんどあれへんかった。
時々俺が謙也さん自身のことは聞く。けど、これといって謙也さんは俺に興味を示さない。

(けど、今確かに俺について、聞いたよな。)

「髪型もやけど、勉強やらスポーツにやる気ないくせに急にやる気になったり。お前結構一癖も二癖もあるよなー」

「…………はあ」

なんや複雑なことを言われたが、悪い気はせん。
謙也さんが俺に興味を持った、それだけでもう報われた。

「俺、財前の中身好きやで」

ズガンッという音と共に俺の心は綺麗にハート型に撃ち抜かれる。
ああもう、好き。




俺がイケメンやったらなあ………

小さな絶望を感じながら、俺は謙也さんと昼食を進めた。

と、


「「あ、」」

偶然隣り合わせというだけあって近い位置に居た俺達の手はものの見事に重なった。

ズクリ、と胸が痛い。

「すみません謙也さ……謙也さん?」

「ぁ………ッ!」

いきなり謙也さんは俺を押すと、イケメン補給行ってくる!と言ったかと思えば風のように消え去った。

残されたのは、押された反動でひっくり返った俺の弁当と、呆然とした俺。



(嘘、やろ……避けられた……?)



ひっくり返った弁当が、避けられたという事実を助長させるように無惨な姿になっていた。

前髪をどかせば分かるんかな、謙也さんのキモチ。
けどどかしたところで見える気がしない。

恋は盲目、恋という字は下心。

前髪によって守られている俺の特性と羞恥心。



守っていたものの代わりに、俺は謙也さんを失うかも、知れなかった。



























部活でも避けられた。
目が合えば反らされた。
そんな日が何日も続く。
相変わらず謙也さんはイケメンと仲が良くて、いつか盗られるという恐怖がそぞろ立つ。

続けば続くほど、俺は謙也さんに嫌われたかもという思いが募り、足元がぞわりと沸き立つ。

辛い。






とうとう謙也さんに避けられた日から8日目。

俺は部活を途中で抜け出した。






「は、あ―――……」


口はすっかりため息を排出する機械になり、俺自身も抜け殻のよう。けど抜け殻と違うて体が重い。畜生。

バシャバシャと顔を洗う。
一体俺はどうしたらええねん。
謙也さんに嫌われた、という可能性にただ俺は悲しむばかりや。


「財前!!」

「け、んや――さ」

響いた声に身体が歓喜と悲壮に包み込まれた。

「部活抜け出して何やっとんねん!!早う戻るで!!」

「……ほっとけや」

「は?」

「ほっといて下さい!!!」

ぐるっと方向転換して逃げ出す。
謙也さんの足に敵うはずないけど、俺には秘策があった。

「ざいぜ、「あ、イケメンや!!」

声を大にして違う方向を指差してそう言って、全力で走る。

謙也さんは、ミーハーや。
イケメンが好きで、何よりもそれを優先する、ミーハー。


やったら、そっちを優先するに、決まっとるやん。










「バカにすんなや!!」


なのに、がっしりと捕まれた手は、一体。



「……なんで………」

「確かにな、俺はイケメン好きや。けど、見ず知らずのイケメンと、仲良うしとる後輩じゃ、優先度合いがちゃうに決まってるやろ」

「………うそ、でしょ」

ミーハーなくせに。
俺なんかじゃ、振り向きもしてくれないのに。

なのに、


「あと、な……避けてすまんかった。」

「あ……はい……」

「何て言う、か。サッカーしとった財前がな、イケメンやないのにかっこ良う見えて、な。おまけに、性格だけ言えばモロ好みやから……ミーハーな俺も受け入れてくれたし。」

「………えええ」

「多分、財前がイケメンやったら俺惚れる思うわ……ってすまんな、こんな話し」

「いや、希望が見えたから、ありがとうございます」

「………希望?」

「はい、必ず、落として見せますからね?」

そういって俺はゆっくりと謙也さんの髪の毛に触れた、瞬間


「〜〜〜〜!!!」


思い切り風が吹き、残念な状態によくなる俺はやっぱりついていない。

(………風のせいで前髪が目に刺さった………!!)


「だ、大丈夫か財前!水道行かな!!」

「は、はい………」

情けないやら悲しいやら恥ずかしいやら。
ヨロヨロとしながら水道でピンを外して目を洗う。

ほんまについてない。
一体どこに告白し終わった瞬間目を風で痛めるアホがいる。

……ここに居るわ!!

「……最ッ悪や……」

目を洗うと同時に濡れた前髪を思い切りかきあげた。
















「俺と付き合うて下さいお願いします!!!」






謙也さんにそう告白されるまであと1秒


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