小説しょうと四天 | ナノ

財前光の無駄な計画2


「おはようございます」

「え……!?財前……!?」

早朝5時半。
事務員の先生が校門を開けた瞬間滑り込むように学校に入る。(事務員の先生が驚いていたけど今は構ってられん。)

よかった、謙也さん朝から門で張ってないか心配やってんけど………その心配は杞憂やったな。
小走りに自分の教室に入り、俺はもう来てますよアピールのために、テニスバックを置く。

そして今日全ての授業分の教科書ノートを机に突っ込む。
ぎちぎちになってもうたけどまあ男子中学生の机なんてこんなもんやろ。

用意が出来たところで学校中の隠れられそうなとこに目星をつける。
謙也さんからあからさまに逃げるなんて愚の骨頂。
会う前に消えれば謙也さんは避けられとるなんて思わんやろ。

全ての準備は整った。

キッ、とテニスしている時にしか真剣な面持ちになる。

これは、俺の明日がかかっとるんや。
気を引きしめて油断せずに。
青学の部長さんの言っとることは正しかったんや。



「アラ?光きゅんやない!!」

「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!????」

いきなりすぐ後ろの背後から話しかけられて、思わず叫ぶ。
ちょ、これ寿命縮んだんちゃう!?

「…こ……小春先輩!!」

軽く涙目で俺を叫ばした原因を睨む。心臓めちゃくちゃ早なったやろが!!

「そんなに驚かんでも……光きゅん今日早いのねー」

「こ、小春先輩こそ………」

「ほら、アタシは生徒会やから」

ニコッと微笑みを浮かべて小春先輩は俺を見つめてきた。

「謙也くんに会わないように頑張るつもりなんやろ」

「…………まあ」

「アタシ、そんなことせんでええと思うけどなー。やって、無駄やし?」

「………………………」

じと目で小春先輩を見ると、さも楽しげに小春先輩は笑った。

「だって「小春ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

「…………………………」

小春先輩の話を遮って廊下を疾走してくるガチホモ、改めユウジ先輩に眉を寄せる。
こりゃめんどくさ…………




ユウジ先輩くる→俺に嫉妬して騒ぐ→絡まれるから動けない→騒ぎを聞き付け謙也さんが来る→(多分)告白される→俺終了のお知らせ

「ッ………………!!」

ブワリと流れ出す冷や汗。
自分の身体が身震いをしたと思うと足は思ったより素直に動いた。

「ただ話しかけてただけですからァァァァァァァァァァ!!!!!!」

浪速のスピードスタァァァァァァァァァァ!!!!
どこかズレていることを叫びながら俺は全力で逃げ出した。

「……………え、何?」

「……男の子にはイロイロあるのよ」




















謙也さんに見つかったらアウト。
自分の存在に気づかせたら謙也さんはあの足がある。絶対に捕まる。
何があっても見つかったらアカンッ!!

ニュアンスは違くとも心に決意表明を何回繰り返したことか。


だというのに!!俺は今、謙也さんのクラスがある3年2組前の掃除ロッカーに篭城している。
何や埃臭いし、ぶっちゃけ早く出たい。
けど出たらアカン。
だって、謙也さんはロッカー前の廊下でクラスメートと話している。

「いやいや……いきなりこれは……ないやろ俺……」

ぽそ、と呟き必死にロッカーのホウキを押さえ付ける。














ユウジ先輩という騒がしい先輩の毒牙から逃げ切った俺は、最悪なことに3年2組の前にいた。

そして、階段から聞こえてきた愛らしく愛おしい声。
花がふわ、と漂い、一気に廊下が煌めく。

言わずもがな、謙也さん、である。

「アカンッ…………!!」

バッと周りに誰もいないのを確認にして俺は掃除ロッカーに飛び込んだ。
こういう時少し身体が小さくていい、と嬉しくもない事実を認めると同時にバケツが上の棚から降ってきた。
ガィンッと俺の頭からいやな音をたてたバケツを慌てて抱きしめる。
次にホウキがガラガラとロッカーを開けそうになるので足でそれを思い踏み止ませる。

無機物まで謙也さんの味方かい!!

バケツを打ち付けたせいで頭から響く痛みに涙目になりつつ外の様子を伺う。

謙也さんが周りの人に可愛らしく挨拶をすると皆が嬉しがり挨拶を返す。

………なんかの宗教かいな。

けど挨拶をしている謙也さんは可愛くて、魅力的だ。
何から何まで魅力的とか、ほんま謙也さんは魔性や。魅惑的過ぎる。



そして、そのまま廊下で級友と話し出した謙也さんのために、俺はにわか拳法家のような態勢を持続してホウキやバケツをキープしている………という訳や。
既に体中攣りに攣って大変なことになっとる。
むしろ自爆で五体満足じゃなくなったらどうしよう………

そうこうしてる間に謙也さんは級友との話しを切り上げてパタパタと走っていった。
チャンスとばかりにロッカーから出ようとするが、そこでふと気づく。
テニス部で、それなりに知名度があって、他学年の俺がロッカーから出てきたら注目の的や。
謙也さんの耳にロッカーから出てきた後輩っちゅーイメージが吹き込まれてまう。






そんなん嫌や!!

どうやら俺は人気がなくなるまでこのロッカーでホウキとバケツと住まないとアカンらしい。


……………俺絶対にこいつらと上手くやっていけんわ。





俺もだよ、と応えるようにホウキとバケツの重みが増した気がした。







やがて謙也さんがしゅん、と捨てられた子犬のような顔をして戻ってきた。
それに心がチクリとする。

とうとう謙也さんが俺に惚れてるのが決定した。
謙也さんが持っていたものは俺が貸してあげたCD。つまり、俺に会いに行っていたということ。

そして、声は聞こえなかったけど口の動きで分かった。


『ひかるに、こくはくできんかった………』


そう呟いてるのが、よく分かった。分かってしもた。


俺も好き、と言いたいのに。
こんなにもロッカーを挟んだ距離は、遠い。





………いや、ギャグじゃなくて。



白石部長に話しかけられて慌てて繕うように笑った謙也さんの眉は、少しだけ、曲がったままやった。














それからはそれの繰り返し。
謙也さんに見つからないように隠れて、会わないようにして。
段々と遠目からでも分かるように、謙也さんは落ち込んでいった。








「何やっとるんやろ俺………」

謙也さんが俺に好きと伝えるのに、どれだけ勇気を持ったかなんか分からん。

けど、もしかしたら、俺は謙也さんの気持ちを踏みにじってるのかもしれん。

体よくまた掃除ロッカーに入りながらそんなことを考える。

でも、俺なんかがあんな誰をも魅惑する謙也さんに告白されてもええんやろか………



「!あ………」


ふと顔を上げると謙也さんが一人で歩いてきたのが見えた。
慌てて息を潜めて謙也さんの様子を伺う。

謙也さんは相変わらず可愛らしかったけど、様子は最悪やった。
眉はヘの字に曲がって口はキュッと結び、目には雫が溢れている。
あんないつも太陽のように輝いてる謙也さんの周りには土砂降りの雨が降っていた。

俺は呆然とそのまま謙也さんの背中を見つめていた。


















愕然とした。
いつもいつも元気で優しく明るい可愛らしい謙也にあんな顔をさせとるのは、間違いなく、俺なんや。

















……ガチャ




ゆっくりとロッカーを開ける。
たしか今日謙也さんは白石さん達に祝って貰うようなことを言っていた。

足を謙也さんが歩いていった方向に向ける。
今日は謙也さんの誕生日。
お祝いせなアカンやないか。
俺なんかの身体と天秤にかけてもアカンくらい大事な日やん。








「ほらやっぱり」

「!!小春せんぱ……」

「光きゅんって、確かにいつもは冷たいけど、心を許した人には底抜けに優しいやない?最終的には謙也クンの悲しそうな顔を見て自分から行くと思ってたわ」

「………確かに、無駄でしたね」

無駄な時間を思い出して苦笑する。
それだけ言って俺は走り出した。
あの、魅惑的で優し過ぎるお人よしの、太陽のような笑顔を取り戻すために。




























「……………光、知らん?」

「あ、そういや俺も今日見てへんなぁ。おかしいな、授業は出てるらしいのに」

「…………光に、会いたい。一言でいいからおめでとうって言って欲しい。なぁ、白石……」

ぽたぽたと泣き出した謙也に白石は目を見開いた。

「!!………謙也、お前の好きな奴って………」

















「謙也さん!!!!」



顔をあげた謙也さんの頬には、涙が光っていた。

けど、

「光……!!」


ふわぁぁぁ、と花が舞い散るようにそれはそれは、謙也さんは魅惑的に笑った。
ああ、謙也さんに笑顔が戻った。
俺が姿を現したから?これ以上の幸せはないやろ。

「朝からずっと腹が痛くてずっと授業終わる度に人気がないトイレに駆け込んでたんスわ。やからまだ言ってなかったスよね?」


お誕生日おめでとうございます、謙也さん。



もう五体不満足になろうとええ。
謙也さんの笑顔が俺の中で1番の最優先事項。
もうあんな顔させたないわ。
そう思って微笑めば、謙也さんの頬に赤いバラ色が散った。



「あんな、あんな光!!俺………!!」



さようなら俺の普通に幸せな日常。
一瞬だけこんにちは特別に幸せな非日常。


「光が好き!!」


ぶわり、と金色の風に吹かれるように、涙をキラキラ光らせ、謙也さんは、俺に笑って告白した。









もちろん答えは、決まってる。








「俺、も、好きッスわ」

俺の答えを聞くと同時に、謙也さんは俺に抱き着いてきた。
堪らず俺も抱きしめ返す。
ああ、クソ可愛い。
このあとには地獄が待ってるんや、今だけ幸せに浸らせてや………















「なんや、財前やったんか」

あっさり、そんな味付けをされた声で白石部長が納得したように頷いた。







…………………………え?







「まあ、財前なら、なあ?」
「認められるばい」
「謙也を任せられるな!!」



………………………は?




「え?いや……何でッスか?」

突然現れた二人はご都合主義や。
その前にこれは、え、どゆこと。

「何でって……財前なら俺と並んでも見劣りせんし。謙也ファンクラブについて特に言わないし」

「テニス部レギュラーな上、勉強もできちょるし」

「謙也には特別優しいし、何だかんだ結構皆に優しいやん!!」





……………………………。

自分でいうのも、アレやけど。
うん、







確かに!!!!!!









「……………俺、の今日の苦労は…………?」

「ね?本当に無駄やったでしょ」

「……………あの、小春先輩。いきなり背後から話しかけんのは勘弁して下さい……」

「あら、ごめんなさい」

ふふ、と笑って小春先輩は良かったわね、と囁いてきた。
視線を落とすと人生ばら色、とでも言いたげな幸せそうな謙也さん。
顔を上げればお幸せに、と言いたげな白石部長達の微笑み。

胸に抱きしめた謙也さんからは相変わらずニャンニャンという擬音が聴こえる。
もういっそ俺もニャンニャン甘えてええかな…………

「?てかファンクラブってなんや?光なら認められるだの何だの」

「…………こっちの話ッスわ」

ん?と首を傾げる謙也さん。
とりあえずこの人は何も知らぬままでええ。
それが世界平和に繋がるわ。

「せや、謙也さん誕生日プレゼントに何かしたりますよ。」

「ホンマ?!」

「はい、」

エヘヘッと笑うと謙也さんは声高々に言った。



「キスして!!」












「…………仰せのままに」








謙也さんとしたキスは、魅惑的な甘さでクセになりそうやった。












――――――――――――――――

謙也はぴば!
長いし意味不明な話になりましたが!
とりあえず謙也はぴば!

ちなみにこちらの企画サマに提出した作品です。
私なんかの小説よりずっと素晴らしい小説がありますから是非!!
ちなみにお題テーマは
『魅惑的な謙也くん』
でしたっ!


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