小説しょうと四天 | ナノ

財前光の無駄な計画1


「…………何すかこの空気」

「ああ……財前か……」

ガチャ、と部室を開けたらまるでお通夜のような重い雰囲気。
小春先輩も困ったようにため息をつき、ユウジ先輩は呆れ返り、副部長は頭を抱え、師範に至っては哀れやな、と呟いている。

原因はドロドロとしとる三人のいつも明るいメンバーのせい。

千歳先輩に金ちゃんに白石部長の三人が、かなり落ち込んでるとこうも雰囲気は変わるんか。
ホンマに一瞬誰かの葬式かなんかかと思った。

けど、いつも騒がしいくらいうざくて元気で喧しい先輩や後輩が静かだとさすがに心配になる。
仕方なしに1番落ち込んでる白石部長を慰めに向かった。

「どしたんすか部長、悩み事でもあるなら聞きますけど」

「財前…………謙也が」

「謙也さんが?」

「自分の誕生日に好きな人に告白するんやって……」

「…………………………」






















え、それだけ?

「それだけって何やねん!!あの謙也やで!?あの可愛らしくて優しくていい香りがする謙也やで!?四天のアイドル謙也やで!?」

え、謙也さんってアイドルやったん?男前なのに?てかいい香りって白石部長マジキモい……

「誰や謙也の心を奪ったんはっ!!これは謙也ファンクラブにとって由々しき事態や!!!」

「ファンクラブって……そんなん機能するんですか?」

「機能しまくりや!!やって俺のファンも千歳のファンも金ちゃんのファンも掻き込んだんやからな!!」

「あ、なるほど」

確かに四天でモテるランク上位の三人のファン達を掻き込んだんなら、元々モテる謙也さんのファンを合わせたら膨大な人数なんやろな。
モテるのってええなぁ………

「誰なんや、天使な謙也の心を奪ったんは………」

「…………………別に謙也さんが誰と付き合おうと謙也さんの勝手やないですか?」

「アホか!!謙也のファンクラブを認めるような男やないとダメや!!」

「…………………はあ」

何で小春先輩やユウジ先輩、副部長や師範が何にもしないんか分かったわ。
やって、もう………

「男の嫉妬ウザいッスわ………じゃあ最低基準はなんすか」



「せやなぁ………まずは俺や千歳や金ちゃんと並んでも見劣りしない奴で、」

「運動も勉強もかなりできちょる奴じゃなきゃ認めなか。」

「あとは皆に優しい奴じゃなきゃアカンで!!で、謙也を一等大事に想う相手やないとアカン!!」








……………………。








「いやいや、そうそうおらへんわ。そんな完璧超人……あ、いや、他校ならおるかもしれへん」



てか白石部長達と並んで見劣りしない人間とか四天にいないわ。
どんな夢物語や。

「まあ、ともかくや!!謙也の好きな奴が俺らが定めたレベルに見合う奴じゃなきゃ、そんときは………!!」

「そんときは?」

俺はこの話を聞かなければよかった、とこのあと心底後悔することになる。

「謙也の前で恥態をさらして謙也に嫌われて貰うわ………」

「恥態?」

「謙也の前で漏らさせたりこかしたり?くらいやな」

「それ陰湿なイジメやないですか………」



謙也さんが思ってる相手終わったな。カワイソーに、
と、まだ見ぬ謙也さんの想い人に心で手を合わせた。ご愁傷様。

そう、俺はここまでは完全に人事だったのである。


無駄に闘志を燃やす三人から離れて、(悩み事聞かなきゃよかった、無駄にやる気出させてもうたし)部活の用意を始める。
付き合っとれん。
確か今日はミーティングやったよな、早く帰れるかな………















……………まぁ、ぶっちゃけ俺も謙也さんに淡い片想いをしそうになっていたんやけど。
恋愛っていう段階やなくて、あの人が気になる、って段階や。
恋愛で1番楽しい時期。
あと一歩で恋、っていうとこやったんやけど………

まあ、叶うはず無かったんやし。
謙也さんは観賞用の高嶺の花、当たりがちょうどええんや。

「ほんま謙也さんに惚れられた人、不憫やな……」

「そうかしら?あんな可愛い謙也クンに惚れられたら嬉しくあらへん?」

「”おまけ”にあんなんが付いてきたら大体の人が心折れはるでしょ。まあ、確かに一瞬いい夢見れますけど…………って、何言わすのん。小春先輩」

「だって〜謙也クンが好きな男の子って”黒髪でオシャレな年下のパートナー”なんやでー?」















「…………………………………………………………………え?」








たっぷり10秒固まってまばたき3回。
いやいやいやいや、え?いや、マジ、え?いや、いやいやいや………どういうこと。

「あの、小春先輩……達の悪い冗談だけはやめて貰えませんか…………」

背中越しにと謙也さん大好き三人組を気にしつつ、汗が一筋流れていくのがよく分かる。
暑いから流れた汗?んな訳あるか!まだ春やで!!冷や汗に決まってるやろ!!

俺は鈍くない、やから、今言った特徴からして謙也さんの好きな相手は………

「あたし、光きゅん以外浮かばへんけどなー。パートナーって時点でもう光きゅん一人やない?あ、知ってるのはアタシとユウ君だけやから安心して!」

バチコンという効果音(☆マーク付き)のウィンクをされた相乗効果。

「……………………は、はは」

ぴくぴくと口元を引き攣らせ、口から乾いた笑いを排出して、俺はゆっくりと振り返った。

「いやー謙也の好きな相手どうやって殺ろかー」

「わいのグレートデリシャス大車輪山嵐当てるんはダメなん?」

「俺が頭持ってぶら下げたるばい。首から上だけ」








死刑………宣告………や。


























「お疲れ様やでーっ!!」

ガチャッとテニス部部室に入ってきた謙也さんに、俺はあからさまにビクッとした。

振り返るとアホみたいな金髪を輝かせた謙也さん。
漂うお花のようなオーラ、吸い込まれるような魅惑的な色を持ちつつ、優しい色を現す瞳。謙也さんがフンワリとひまわりのように(いや、ひまわりより可愛いけどな!!)笑うと部室の士気は100倍よくなる。
手足は男だと分かるものの程よいしなやかさを持ち、猫のように魅力的なしたたかな体。
いや、猫はバランス得意やけどな。
腰はちょお食べてる割に細すぎてドキリと胸が高鳴る。
極めつけに学生ズボンを折っているから見えるふくらはぎ。
白すぎる訳じゃないけど、ほどほどな白さを持っていて、綺麗なバランスよい筋肉がついていて、すべらか。足首は細くて折れてしまいそうや。

…………目に毒過ぎる。




「あれっ、三人とも何で目血走らせてんのや!大丈夫かいな!」

ケラケラと笑った謙也さんに三人の顔も明るくなる。
さすが謙也さん。
陰気臭い部室に一気に花がチラチラ降ったで。



だがしかし、俺はそんな悠長なこと言ってられんのや。


ガッ、とケータイを取り出すとパチ、と開ける。
そしてくるりとひっくり返し、膝に乗せる。

いっせいのーせ



















………バキッ














「白石部長!!用事出来たんで帰ります!!あとケータイ逆パカしました!!ケータイショップには来週まで行けない(行かない)んで連絡はクラスメートにお願いします!!俺の家は家電話はありませんから!!あと今日家族全員夜遅くまで出かけますから家には誰もいません!!ほなお先に!!!」


バッと荷物を持って部室を出る。
謙也さんに俺は明日絶対に会うわけにはいかない。
明日会ったらThe End。
小春先輩はジョークであんなこという人やないし、俺の第六感(ホンマにあるかは知らんけど!!)が叫んで五月蝿い。

確かに俺は謙也さんに好かれてる気が、ある。
帰り道はわざわざ白石部長の誘い断って俺と一緒に帰りたがるし(何回白石部長に睨まれたか)、お昼もわざわざ2年の教室に来て一緒に食べるし(クラスメート中からの嫉妬の視線が痛い)、やたら俺と一緒にいたがるし(肩を組まれた瞬間に突き刺さった殺気はトラウマや)、手作りクッキー持ってくるし(めちゃくちゃ美味かった)、極めつけには、人気がなくなると猫のように甘えるように俺に擦り寄って、ぎゅうぎゅうと抱き着いてくる。

俺はというと、謙也さんの可愛い愛らしい顔が近いから心臓も信じられんくらいに早くなって、かなり無愛想やと思う。
それなのに謙也さんは気にすることなく俺に甘える。
ニャンニャンって擬音が聞こえてくるんや、いやマジで。

「ホンマ謙也さんって人に抱き着いて甘えるの好きッスよね」

一度だけ、そんなことを言ったことがある。
その時、謙也さんは少し驚いたように目を丸くして、徐々に拗ねた顔になっていったのを覚えてる。

「ここまですんの財前だけっちゅー話や!」

それだけ言ってツン、と走っていってしまった謙也さんに、俺は目をしばたいて首を傾げていた。

(デ、デレツン……?)

頭で妙にずれたことを考えながら。












……………あれ?俺めちゃくちゃ好かれてへん?



そう思い当たった瞬間ブワッと顔に熱が集まる。
アカン、これはアカン。
めちゃくちゃ嬉しい。てか何が俺は鈍くないや。俺鈍い、鈍過ぎるわ。

しかし次の瞬間思い出すのは謙也さん大好きなクソ恐ろしい三人。
白石部長は謙也さんの支えに、千歳先輩は謙也さんの優しさに、金太郎は謙也さんと一緒に遊んで貰ったりしとるから三人それぞれ謙也さんへの想いは大きい。
恋愛として好きかは知らんけど、あの三人を敵に回したら生きていけないと思う。
真面目に沖縄に高跳びせえへんと色々ヤバい。

つまり、や。

明日謙也さんの好きな相手が俺やと気づいたら、


………………………………。
















「いやいやいやいや……アカン、洒落に、ならへん……ッスわ」

間違いなく五体満足は保障できひん。
となれば、明日俺は、


「………………逃げきる、しか、道が……ない」

学校を休もうものなら絶対に謙也さんは俺を気にする。
そしてあの三人は無駄に勘がいい。
相手が俺やとばれてまう。

つまり、明日中俺は学校にいるけど、『偶然』謙也さんに会えないっちゅーシチュエーションに居ないといけない。
照れ屋な謙也さんのことや。
俺がどこにいるか聞くことはできひんやろ。

そのために学校中を俺はウロウロして逃げるしか道がない。
やからケータイで呼び出されることもないようにする為にケータイ逆パカをしたんや。
あのケータイのデザイン気に入ってたのに……。
やけど命には変えられん!!
ギュッと握りこぶしをつくる。

さて、だれをも味方につける魅惑的な謙也さんから俺はどう逃げ切るか。
それを俺は今から考えなアカンから帰っとるんやろ!!!



夕暮れの道、重いテニスバックを揺らし、ピアスをカチカチ鳴らしながら、俺は帰路を全力で走っていった。
























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