小説しょうと四天 | ナノ

元ロボットと元妖精



ケンヤさんがいなくなった。





言うにはこれで十分。
俺には関係あらへん。




………関係、ないのに。








































元ロボットと元妖精







































「財前あんな、昨日のは、」

「聞きたくありません。あと俺テニス部には入りませんから。今まで仮入部していたのはケンヤさんに付き合わされてたからですし。お世話になりました。ケンヤさんが何処にいるかは知りません。」

ぽんぽん溢れる言葉は勝手に出てくるもので俺自身が本当に思っているからわからない。

わからない、



俺は、今どんな感情に溢れてる?
ねぇ、どんな表情をしそうになってる?

教えて     。




「ッ………!!」

「財前、」

「すんません用がありますんで」

白石先輩に背を向けて走ってその場を去る。
何や、思い出したらアカン気がする。

俺は一人やないといけなくて、それが一瞬崩れただけや。

絶対に、そうに決まって、






「あ、おはよう財前君!ケンヤくんは?」

「おーす、財前!あれ、ケンヤは?」

「あんま走るとコケるから気をつけてなー。ケンヤにもそう言って置いてくれ」







ケンヤさんがいたのは、たったの一ヶ月とちょっと。

それなのに、この世界はこんなにも輝いて、けど、どこか煌めきが足りなくて。




「はっ………」





息を吐いて学校の裏側で倒れるようにしゃがみこんだ。

何がどうなってん。
俺はずっと誰にも理解もされずひとりぼっちなままのハズで。

なのに、なのに……













        "光"

















胸が辛い痛い苦しい裂けてしまいそうで叫んでる。
何やこんな感情知らん。

いや、ずっと知っていた。

けど知らんフリしてた感情。





知らんままのが楽やったから、幸せやったから、やから言わずにいて。

けど、限界や。





















「……………寂しい」



声に出した瞬間胸から洪水のようにドッと"寂しさ"が溢れ出る。
こうなったのはケンヤさんのせいや。俺は、一人に慣れてたのに。
一人だという事実から、上手く目を背けていたのに。
なのに、笑って簡単に俺のテリトリーに入って。
なのに、簡単に俺からいなくなった。

八つ当たりや。
けど、ケンヤさんは俺なんか万人の中の一人やと思ってた。

なのに、俺がなにより、なんて頭がおかしいとしか思えへん。
こんな、嫌で冷たい人間に――






「財前」

「!!………白石、先輩」

カタカタと震える身体に鞭を打って立てば、白石先輩はふ、と笑った。

「"寂しい"ん?」

「………!!」

かっと顔に集まる熱を隠そうと腕を上げるもののそれはいとも簡単に白石先輩に阻止された。
ユラユラと揺れる。

俺、俺、俺は、



「は、ケンヤが言った通りや」

そっと俺の手を離して白石先輩は嬉しげに笑った。

「財前ってほんま、優しい瞳してんのやな」

「は………」

白石先輩が言ってる意味がわからなくて眉を潜めれば、白石先輩は更に嬉しげに笑った。

「ほんま、不器用な表情や」

「………あ、の」

「俺、無駄は嫌いやけどな、」

財前のその不器用な感情や表情や優しさは、むっちゃ好きやで。

白石先輩は俺にそういって、やから、と続けた。

「ケンヤに、伝えて欲しい。今のお前の気持ち。」

「俺………気持ち……」

「感情を誰より粗食しとるお前には、分かるやろ?」

「俺は―――」




思い出す。
最初にケンヤさんに会った時から昨日、ケンヤさんと別れたとき。

俺は、ケンヤさんに対してどういう感情を見せていた?

ケンヤさんの前では、俺、ロボットやったやろか?
ケンヤさんの前では―――――



俺は、ちゃんと財前光っていう存在でいられて。

本当の財前光を見せていた。








「………………あ?」

何や、これ。
胸から苦しいような温かいような。ケンヤさんを守りたい傍にいたい優しくしたい、誰よりも――――



「………好、き?」

万人に向ける好き、やなくて。
ただ一人にしか向けたない温かい好き。



愛おしい、ケンヤさんが―――





「白石"部長"」

「なんや財前?」

「俺、早退します。それから、」

本入部届後で下さい。

白石部長が嬉しげに頷いたのを合図に俺は学校の外に駆け出した。

校門を出る辺りで、背後からたくさんの四天生から"財前がんばれよー!!"という声援が胸に響いた。



待っててケンヤさん。
貴方は俺の感情を何でも察っするくせに肝心の俺の貴方に対しての感情だけは、読んでへん。

いや、読まないでええ。

俺が今から貴方に伝えに行くから。





















「ケンヤさん……!!」

ハアハアと息を切らしながら町内を走る。
俺は今どんな表情をしとるんやろ。
一生懸命ケンヤさんを探しとるから無表情ではあらへんのやろな。

けど、表情筋がどう動いたらどんな表情になるか分からない。
分からないから教えてよケンヤさん。
他にも教えて欲しい表情ある。
貴方には、素敵な"笑顔"があるやないか。
やから、その笑顔みたいな笑い方を教えてや。
貴方のために、笑って見せるから。



町内にはケンヤさんとの思い出が詰まっている。

カブトムシのようにケンヤさんが引っ付いていた電柱、一緒に俺の家まで帰った帰路、休みに無理矢理連れてかれたストリートテニス場、寄り道して寄った駄菓子屋。


全部全部ケンヤさんとの思い出に溢れていて。



すべてがキラキラ、きらきら。





「ケンヤさ…………!!」

まだこの町にはいるとは思う。
少しフラフラと飛んでいたのは体力が少なくなっとるやからやと思うから。

どこに、いるんや。


















「………ひかる」





耳で聞き取ったのか怪しいくらい小さな空耳。
けど、確かに俺の鼓膜に届いた。




「ケンヤさん?居るん?」



小さな公園に入ってケンヤさんを呼ぶ。

ケンヤさん、貴方は俺を探し当ててくれた。
やから、絶対今度は俺が貴方を――――――







「…………ケンヤ、さん?」

茂みに転がる、キラキラな金髪。
その金髪に、緑が混じっとる。
ちゃう、茂みの緑が透けて、る?


「ッ…………!!ケンヤさん!!!!」


茂みに転がるケンヤさんの顔を覗き込めば、ガラス玉のように何も感情を映し出さない瞳。
その瞳には、顔をくしゃくしゃにした俺が、ただ映しだされていて、無様だった。

「ケンヤさん?ケンヤさん!!どないしたんスか!!ねぇ、返事して下さいよ!!」

ケンヤさんの頭を俺の膝に乗せたら、まるで何かある、それだけで重さがない感覚。

何で、何で、何で、何で。

ケンヤさんが死にかけてるなんて、

「嫌や……!!ケンヤさん……!!」

お願いや、何でもする。
貴方の望みも俺が出来る範囲で叶えてあげる。
だから、またヒマワリみたいに笑って。
俺にだけ、笑って。

ケンヤさん―――――――









ぽたり、
























ぽたぽた、


「あ………」


頬から滑り落ちていく滴。
これは、俺の、涙?

「アホやろ俺……!!」

泣いたって何もなんないのに。
やったらケンヤさんみたく人を元気にさせる笑顔を作れや。

そうしたら、きっと。

なのに、俺は泣くことしかできない。
誰が優しい人間や。
どう考えたって優しい人間なんかやあらへんやん。
なんで皆が俺を優しいって現すのかやっぱり俺は理解できない。
こんなにも、俺は役立たずなのに。
役立てないのに。
ケンヤさんが俺にくれたものの何も返せない。
ミジメや、無様や、こんな俺、誰か嘲笑って――………





























「………なに、ひかる………泣い、てんの?」


ふわ、と頬に触れた不思議な温かさ。
向こう側が見える空気中に溶け込みそうな掌が、俺の頬に触れて。

「ケンヤ………さ………?」


ぽたり、とまた涙がこぼれる。
それがケンヤさんの消えそうな髪に落ちてキラキラ光った。

「こんな、面白いひかるの、表情初めてやぁ…………」

ふふ、と消え入りそうに、はかなく、淡く、ケンヤさんが、笑った。
ぶわり、と涙が溢れる。

おかしいやろ、俺は顔に表情なんてほとんど形成できないのに。

なのに、





「……………キスしてええですか、ケンヤさん」


その言葉に分かりやすく、ケンヤさんは切なそうな顔をした。



「……………アカン、よ。ひかる。キスは、本当の意味で、せな」


わかってる。わかってるから、


「キスしたいって意味で、好きなのは、ケンヤさんしかいませんから」



する、とケンヤさんのおでこを撫でる。
目を見開くケンヤさんに、精一杯囁いた。



「好き、ケンヤさん」




そういって何か言おうとしているケンヤさんの言葉を唇で包み込むように、口づけた。

キラキラ、きらきら。

徐々に身体が戻っていくケンヤさんに、安心して、そして、悲しくなった。
ぽたぽた、とキスしながらも止まらない俺の涙に、何か言いたげなケンヤさん。

けど、ゴメンなケンヤさん。

貴方に、始めて会った時から、本当はキスなんか出来た。
心から俺はケンヤさんを大事に思ってたんや、最初から。
気づいてなかったけど。

けど、ケンヤさんがキスして、と言う度にギャグ路線に変えてごまかしてたのは自分のため。

だってね、ケンヤさんを俺が無意識に愛おしいと思う度にケンヤさんの輝きは増した。

そのキラキラに、ケンヤさんは飲み込まれるように消えそうだった。

何となく、わかっていたんや。

ケンヤさんが、未来に帰る為に必要なのは、キスから貰う愛情やって。

けど、不器用な俺は、それを知りながらもそれに気づく前に他のことに埋もれさせてしまって。



いや、無意識なんかも知れない。


俺はただケンヤさんを無意識下に離れていって欲しくないと思っていたんや。



それが、この結果。
ケンヤさんは、消えそうになった。


ほんま、どこが俺は優しいんやろ。


ふは、と唇を離して、ケンヤさんの頬を撫でた。
愛おしい。愛おしい。


けど、




「さいなら、ッスね」



ふわ、と浮かび上がってしまったケンヤさんは目を丸くしていた。
きっと、俺が知ってたことに驚いているんやな。


「ひかる!!」













「笑って!!」

ああ、貴方はどこまでも優しい。


にかっと泣きそうな顔を無理矢理に笑わせて、ケンヤさんは叫ぶように言う。


けど、ゴメンケンヤさん。

もう、限界、や。




































ぱちんっ












シャボン玉が割れるように、ケンヤさんは空気中に消えた。

それと同時に俺は崩れ落ちて泣いた。
泣き叫んだ。
声を上げて泣いた。





俺の最初で最後の愛おしい人は、いなくなった。




その事実に、小さな子供のように泣いた。
表情筋が攣ってしまいそうなくらい、顔をグチャグチャにして、俺は泣いた。













































――――――――――――――

「よっしゃ財前ええ感じやで!!もうレギュラー確実や!!」

「そら、ありがとうございます」

ぺこ、と頭を下げれば白石部長は嬉しげに笑った。
俺はそれに首を傾げる。

「なんすか、」

「今財前、ちょっと困ったやろ。返答に」

「え、」

「眉が少し下がってたで」

ケンヤさんがシャボン玉になって一ヶ月。
世界は特になにもなくクルクル回り、俺の日常はかえってきた。
周りとの生活が温かく、優しくなったことを除いて。

ケンヤさんがいなくなったことを皆に伝えたら皆悲しんだ。
けど、財前のこと知れたしな!と涙目で笑ってた。

ありがとうございます、と返せば、財前随分柔らかくなったな、と言われた。

表情は泣いた日からやっぱりいつものように不器用だけど、少しずつ皆も分かるようになってきた。

それでもやっぱりケンヤさんのように完全に読める人はいなくて。



これがここ最近の結果報告だ。





「行ってきまーす」

「気をつけてなー!」

そんな言葉を背に家を出る。
今日の部活は午前に軽くだったので、そのまま帰って、また出かける。

家族との関係もやっぱりケンヤさんのおかけで良くなって。

あの人がどれだけのものを俺に贈ってくれたか、わからない。

ささいだけど、大事なものを。
あの人は、残した。

けど、俺が愛した人は、消してしまった。
正しくは、消えてしまった、やな。

ふ、と笑って空を見上げる。





今日も、ええ天気や。
















































「…………………え?」


ぴき、と固まった表情。
無表情で固まるのではなく、引き攣った顔で固まったのは大きな進歩や。






………いや、そうやなくて。




見上げた空、の横。
ズッシリ立った電柱。
そこにカブトムシ一人。





「………………………………」

「………………………助けて」

「………………………………」

「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!ヘルプ!!!!ヘルプスタァァァァァァァァァァァァァァァァー!!!!!」








「アホ、ちゃうか……」

「え?誰?ちょ助けて!!妖精やったから知らんかったけど、人間には重力がこないにかかってたんやな!!妖精の10倍以上はあるぞコレ!!」

「アンタってほんま、アホや!!」

「アホっておま、うわっ!?」

ずり、と手を滑らせたアホの下で構える。










ぼすっ、と綺麗に俺に落ちた人を倒れることなく支えて、その場に立たせた。
身長差は、随分縮まったな。


「…………何で居るんすか」

「開口一番それか!!あ、いやな、あっち戻ったら何や星の力以外なくなってただの人間になってもうてな。おまけに星の力もあと一回しか使えそうになかったから、さ」

やから、光の時代に来たんや。

へへ、と笑ってケンヤさんは俺に抱き着く。
温かい。
あの、消えそうな感覚やなくて。ちゃんと重さもある。


「でな、忍足って家族に拾われて、俺の名前は忍足謙也になったんや!!謙虚の謙に、也は、也や!!」

楽しそうに種明かしをするような悪戯っ子のように笑うケンヤさん。いや、謙也さん、か。

「そんで光の家に行こうとしたんやけど、いつも光と一緒に話してたし、帰る時大抵空飛んでたから光の家分からんくて。やから電柱登ったら、な」

少し視線をずらして言った謙也さんに、思わずはは、と笑いがこぼれた。

謙也さんはパチッと目を大きくして、びっくりしたようだった。



「光が、笑ろた……」

「……………あ、」

確かに。
自分で気づかんかったんかい!と言われて、笑えば、謙也さんもニッコリ笑った。


そして、合図も何もなしにそっと俺らは唇を寄せ合った。
ふは、と唇を離せば、謙也さんがまたねだって。
そんな可愛い謙也さんに、またゆっくりと口づける。

俺らの顔は、笑みをかたどったまま。







ロボットはロボットじゃなくなりました。
妖精は妖精じゃなくなりました。
ロボットは表情を、妖精は愛情を、知りました。




これは、不器用ロボットと、愛情知らずの、愛の話。

彼らは今、人として、幸せに立っています。




























―――――――――――――

書けた!!!
切ないかは知らないけど書けた!!!

とりあえず光を笑わせないのが大変でした



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