小説しょうと四天 | ナノ

愛情知らずの妖精と
ぶきっちょロボット


俺はXXX年後に生まれた。
白衣をきた人達がたくさんの妖精を創っていた。

堕ちてきた星で創られた妖精が、俺。
周りはよう分からなかった。
わざわざ月から取ってきた石から出来た妖精やったり、彗星の光から生まれた妖精だったり、凄い奴はブラックホールからできた逸材の妖精だったり。

俺は所謂、得体の知れない、堕ちた星から出来た星の妖精。
興味本位で出来た妖精。

元いた場所が、分からない妖精。
ただの、迷子の妖精。





居場所がない、妖精。






ただ俺は、居場所がない代わりに一つだけある力があった。
星の力、というのか。

堕ちた星を導き、
時代を渡ることができた。



































愛情知らずの妖精とぶきっちょロボット



































渡った時代は様々やった。
俺を神様のように扱ったり、俺を異人として怖がったり。
大体後者が多かったけど、最終的には皆が皆俺を"好き"になったらしい。

好かれていった理由は簡単明白。
俺の表情は、妖精の俺の表情は、人間よりずっと魅力的やったらしい。
特に俺の笑顔には、何や浄化作用でもあるのか誰もが俺に笑顔を求めた。

俺の笑顔に、俺自身に惚れ込んだ奴は大抵、皆"好き"だといって唇を重ねてきた。
所謂キス、というものだが、キスされることで"愛情"というモノが俺の中に注がれる。
その愛情が、俺の命、時代を渡る為に必要なモノやった。
元いた時代に戻るために、必要やった。

その"愛情"が分からない、なんて、死んでも言えないけれど。





























「謙也さんボケッとしすぎ」

バシッと頭を叩かれたと思って顔を上げると、相変わらず無表情な光がテニス部のユニフォームを着て立っていた。
光の家に居候してからもう一ヶ月立つ。
光は、最初は必ず俺と関係ない立場でいようとする人と違って、電柱にしがみついていた俺を自分の身、全身で助けてくれた珍しいタイプやった。
珍しい、というより、始めてのタイプ。


関わって分かったけど、光は、不器用過ぎる。

ふとした瞬間に出る言葉はキツイけど、その言葉にはたくさんの思いで溢れとる。
悲しいような、悔しいような、歯痒いような、グチャグチャしたような、そんでもって1番分からないところに、信じられんくらい深い優しさがある。

本当は、光は遠回りやけど温かくて、優しさに満ち溢れた人間や。

そして、自分の感情をちゃんと理解して、粗食してる。
だから、光の小さいけど見せる表情には、深みがある。

感情もよう分からずに勝手に表情に現れる俺とは、えらい違う。

そんな光が気になって、仕方なくて。

俺は四天学生に自分でいうのもアレやけどめちゃくちゃ好かれとる。

帰ろうと思えば簡単に帰れる。
簡単にキスできる。

けど、何でなんやろう。
光からしか、キスして貰いたくない。



こんな気持ち始めて―――――





















「光!!」

「キスはしませんよ」

「えーっ!?」

何でや!と言えば光は少し困ったような表情を見せた。
最近、光は表情が出るようになっとる。
けど、表情に気づけるのはまだ俺だけ。

その事実に俺は凄い優越感を抱いてる。





嬉しく、て。
分かる、これは嬉しくて、や。

にへ、と笑えば光は俺の頭を撫でてくれる。
その手は、表情なんかより分かりやすい温かさ、優しさに満ち溢れてる。

それを、知るのは俺だけ。





光のことを1番分かってるのは、俺なんや。








俺、で、ありたいねん――――

















パキッ




















「…………?」

「どないしたんスかケンヤさん」

「あ、いや。何でもないで!」

小さな痛み、軋み。
ズキズキと響く小さな頭痛。


なんやろう、これ………

「あんま無理せんで下さいよ。ケンヤさん重いんだから」

「なになに、疲れたり倒れたらおんぶしてくれるん?光は優しいなぁ!」

「…………優しくなんかないですわ」

視線をずらす光の顔は無表情。
いや、照れとるんやな!
そして相変わらずわっかりにくい優しさや!

へへっ、と笑えば光はまたくしゃくしゃと俺を撫でる。

「ケンヤさん、ほんまに俺のこと分かってくれますよね」

「………?おん」

「そんなケンヤさんが、俺大事ですから。愛しいと思うし、好きやから。」

だからケンヤさんに傷ついて欲しくないんです。

「………………!!」

「あ、でもキスする意味の好きじゃ―――ケンヤさん?」



おかしい。
なんやねんコレ。

ちゃうやろ、ここはいつものように『ほなキスして!』って言えばええやん。
それで済むやん。

なのに、なんやねんコレ。
心臓がドクドクする、胸のうちからジワジワと溢れてくる。
ピンク色の想い。



おかしい、やろ……?


「顔真っ赤……風邪ひいたんスか?気をつけなきゃダメですよ。今日は部活ももう終わるし、先に帰――――」





















ちゅ





















思い切り光の裾を引っ張って、頬にキスをした。
口同士やないと、俺に力は入って来ないのに。




「ちょ、ケンヤさん……!?」

光の頬から唇を離す。
光は少し顔を赤くして、困ったような顔をしていた。

「………わかんないねん」

「………え?」

「何で、光にしかキスしたくないんか。光にしかされたくないんか。」

「ケンヤ………さん……」

光が驚いているのは分かる。
けど、今は。

「………すまん!」

言い逃げをしてダッシュでテニス部の部室に向かう。
確かめたいことが、あるんや。

















「白石!!!」

「おーケンヤ、どないしてん」

「目つぶって!!」

ツカツカと白石に近づいて襟を掴んで言う。
白石はぽかん、とした顔をしたと思うとゆっくりと目を閉じた。


俺は、そうして無防備になった白石の唇に、ゆっくりと自分の唇を近づけて―――――――

















「………………アカン」


したくない。
白石はイケメンやのに、優しいのに、凄くいい奴なんに。

「俺……光やなきゃ、嫌や………」

ぱっと襟から手を離すと白石は苦笑して俺の頭を叩いた。

「無自覚やったんかい。この鈍感」

「無自覚………?」

「やって、ケンヤは財前にだけめちゃくちゃ異常に懐いててん。誰やって分かるわ」

「………?」

懐いてるから、ってなんなんやろう。
いや、それ以前に俺は光のことどう思ってるんや?
白石も好きやけど、白石よりずっと好きやし、もちろん自分がいた世界にいる奴らよりもずっと好き。
1番、好き…………

「……………好き、や。俺――――」





















ガタンッ





















小さな物音に振り返れば、俯いた状態の光が、部室のドアを開けて立っていた。
顔が、見えない。


「光……」


そうか、そやったんや。
俺がいつも向けられていた"愛"は、俺が光を1番に想うような気持ちのことで――――――




「何が、俺だけにキスしたい、や………嘘つき」

低く、地を這うような声音が光の口から溢れたと思うと、光はゆっくりと顔をあげた。



それは、無表情何て言うものじゃなくて。
まるで、表情そのものが光から消えてしまったような、そんな能面のような表情で。

いや、表情と表していいのか分からないくらい、ただロボットのように顔のパーツが置かれているだけのような、顔やった。




「…………もう、疲れました」

「財前、勘違いしてるみたいやけどケンヤと俺はキスなんか―――」

「途中でやめてしてないのは知ってます。だけど遠目から、ケンヤさんが白石さんにキスをゆすって、白石さんが受け入れたのは見えました」

「ひ……かる……」

「名前で呼ばないで下さい。俺、嘘つきは嫌いなんです。無表情やからこそ、自分を理解して欲しいからこそ、嘘なんかつかれたなくない」


光は、ロボットのまま、言った。



「もう、ケンヤさんに振り回されるのは、うんざりです」




そういって踵を返した光に身体が芯から冷えていくのが分かった。
嫌や、嫌や。
いかないで光、今やっと気づいたんや。
光が好きやって、大事やって、やから―――――――










「光!!!!」






思い切り腕をひいてバランスを崩した光を振り向かせ、無防備な光の唇に、一瞬だけ、掠め取るように唇をぶつけた。

愛情は、相手が俺にキスされたと自覚せな入ってこんから、俺に星の力はそそがれない。

けど、俺の精一杯や。









「ゴメンな光。傷つけてゴメン。けどな、光」


胸が苦しくなるような思いに目頭が熱くなる。
いつもなら、自分の気持ちに合わせて、そのまま勝手に出る表情ばかりやったけど。


今、光の前じゃ泣いちゃいけない気がして。
ぐっと唇を噛んで、無理矢理笑みをつくった。
きっと下手くそな笑みやけど、俺は始めて、感情を粗食した上で、表情をつくった。




















「俺が何よりも光が好きなのは、本当、やから」














パキンッ





















逃げるように空中に浮かび上がり、空を飛んでいく。


いつもなら、こんなこと何でもないはずなのに。

息が苦しい。
頭が痛い。
ズキズキと胸がうるさい。

ふら、とバランスを崩して公園の茂みに落下した。
前は、光が受け止めてくれたな、と少し幸せな気持ちになって。


けど、光に嫌われた事実は消えないからまた俺は絶望する。

そして、気づく。


「………………え」





自分の手が透けていることに。



「嘘……やろ……」


まさか俺。

「愛を求めた相手に愛されな消えてまう妖精やったんか…………」


身体が透ける。
立ち上がる力もない。
このまま俺死んでしまうんや。




初めて、"愛"を知ったのに、惨めな最期やことで。





「ひかるっ、ひかるっ、ひかるっ、光……!!」

駄々っ子のようにポロポロと溢れる涙の行き場はどこなんやろう。
俺の光への愛の行き場はどこなんやろう。
俺がいなくなったら、光はどうするんやろう。






光に、愛されたいよ。
光が、好き。大好き大好き。
愛してる、愛されたい。
光のぶきっちょな優しさに浸かって死にたいよ。

光が好きや、好き、好き、好き好き好き好き。


「光ッ…………!!」




俺は一人公園の茂みで消えかかりながら、光の名前を呼び続けることしか、できなかった。





















妖精は愛を知りません。
愛を知れば、破滅ゆく運命だからです。
けど、妖精は愛を知りました。
知った代わりに、何か大切なモノを落とし物をしました。





それは、ロボットにしか拾えない、妖精が持つ、美しく明るい、綺麗な、誰もが魅了される、






笑顔でした。
























――――――――――――――
後編に続く!ということで!

これちゃんと切ないのか分からなくなってきました………




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