小説しょうと四天 | ナノ

優しいロボットと仮面妖精


あるところに、表情がないロボットがいました。
ロボットは、表情こそないかも知れませんが、誰より優しい心と深い愛情をを持っていました。

あるところに、天真爛漫な妖精がいました。
妖精は、表情こそたくさんあり、綺麗な心を持っていましたが、人を愛するということを、知りませんでした。

































「ヘルプゥゥゥゥゥゥ!!ヘルプスタァァァァァァァァァ!!!」



「………は?」





















昔から、感情表に出すのが苦手だった。
ニコニコ笑う甥っ子と、いつも無愛想で仏頂面で冷たい態度なロボットのような俺。
どっちを大人が重宝するなんて、決まったかのような話だ。

ずっと、そう。
入った中学でも自分の音なんて奏でないで、ひっそりと、仏頂面で過ごしてる。
一人が嫌で寂しい訳でもないし、成績も運動も、できる方。
このまま高校大学進んで、一人、好きなことして暮らしていく機械的な生活が、俺の人生設計。


けど、たった一人でええ。


こんな俺を受け止めてくれる、存在が欲しい。
犬でも猫でも地球外生命体でも構わない。
(ロボットはダメや。俺がロボットみたいやから。)

ああ、なんて矛盾した思いで、俺の心は溢れてるんやろ。
















優しいロボットと仮面妖精



















「行ってきます」

それだけ出際に言って家を出る。
せっかくの休日、ただ引き込もっているというのもつまらない。
お気に入りのスニーカーを履いて、慣れた道を歩き、とりあえずCDショップに行くか、と歩む道を決める。

ここのところずっとそんな調子だ。


「ああ、あと………」

確か兄が甥と遊んで腰を打ち付けて痛めてたし、湿布あたり買っとかないと。
CDショップには絶対売ってないであろう買うべきものを思い付いて、内心で苦笑する。

顔は、無表情のまま、変わらない。

………変えられない。

精神的にいかれてる訳でもなく、ただ、人に表情を見せられるほど心を許せない。
家族には少しは見せられものの、それでもどこか距離はあって。
それが何だか申し訳なくて、まるでそれが追い込まれていくようで、心がいつも追い詰められた状態なのかもしれへん。
表情筋が、それを切実に現してるんかも。
だから全く動かない。
表情がない。
まるでロボット。

そんな無愛想なのが、俺、
財前光やった。


やから、

「ヒィィィィィィィィィ助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「……………え?」

「ヘルプゥゥゥゥゥゥ!!ヘルプスタァァァァァァァァァ!!!」

「………は?」






まさか、こんな形でほうけた表情をするとは夢にも思ってなかったのである。




「…………何アレ」

つか何。ヘルプスターってなに。ボケ?ボケ、なんか?いやいや無理やろ、んなつまんないボケを面白く感じさせるほどのツッコミ技術俺にはあらへん。
つける気もないし。



「ひぃぃぃぃぃぃぃぃん!!」

電柱の中腹当たりで電柱に必死に捕まっている人。
……どうしてあんな高いとこに捕まれとんの?

内心でツッコミを入れつつ、その人っぽいのを観察する。

綺麗な青みがかかった目(ちょっと潤んでる)。
目下には黒い星のタトゥー。
キラキラぴかぴかとする金色の髪(ひよこ形)。
格好は星マークがたくさん入った黄色の短いケープ………腹出し。
ズボンはダボダボの紺色のハーフズボンで、銀色の星の装飾。
何から何まで星だらけ。


………完全にイタイ人や。


普通ならツッコミが入るとこだが、周りを見渡してみると誰もいない。
ツッコミもいないなんて可哀相な人(?)やな……なんて思いながら俺もその場から離れよう足を方向転換。
面倒事は嫌いやからしゃーないッスわ。

そう思ってキュッと足を踏み鳴らすが、カブトムシのように電柱にしがみついてるあのアホが気になってしまう。

………仕方ない。
俺にもほんの少しの良心はある。
枯渇しきったと思ってた、優しさも湧き出た。


「…………なあ、そこのアンタ」

「なっ、だっ、誰?!」

「ただの通りすがりや。アンタ何しとるん?」

「ち、力が無くなってもうてっ……!!」

「力ぁ?」

よく目を凝らしてみると、捕まった電柱にしがみついている手はプルップルだ。
なんちゅうか、マヌケ過ぎる。
はぁぁ、と盛大にため息をついて両手を広げる。

「…………ん」


「へっ、?」

「力抜けて落ちて死なれても困るし、俺ン上落ちてきて」

かなり受け止めるのは大変そうやけど、そんなヤワやないし、心構えが出来てるのと出来てないんは大違いやしな。
近隣で死人なんて出したないし。
腰かケツに痣できるんも覚悟の上や。

「で、でもっ!」

「早うし。死にたいならええ」

「ッ……!!!」

死、という言葉が怖かったのか、ギュッとそのイタイ人は目をつぶると、飛ぶように俺の上に落ちてきた。







キラキラ、きらきら、


その人の後ろには、星が光った気がした。








ドサバサッ










俺の上に落ち、何とか九死に一生を得たキラキラした人間っぽい人。
その人は慌てたようにすぐに顔をあげた。それと一緒に太陽の香りがふわっと俺の鼻腔を掠める。

「お、おおきに……」

「ケガあらへん?」

「なっ、ないっ」

コクコクと頷くキラキラを慰めるように頭を撫でると、ふんわりと嬉しげに笑った。
ああまた、キラキラ綺麗な星が散った。





「………ほな、さよなら」

「え、」

パッと起き上がり、人ができうる最上級の早足でその場を離れる。
(ケツが悲鳴をあげたけど構ってられん)
あれ以上イタい人といたら俺までイタい人扱いや。
そんなん勘弁やで。
俺にまで周りに星が舞うようになるわ。どんだけ似合わないと思っとんの!!

「ま、待ってや!せめて名前!名前教えてくれん!!?」

一昔前のやり合いか!と内心ツッコミと舌打ちをやりつつ(我ながら心ん中は器用やな)

「…………………財前、光」

それだけ言って、今度こそ俺は猛ダッシュして、ヒヨコ頭が作り出すイタい厨二世界から逃げ出した。





















そしてそのままイタかった人間と断定できない存在を頭の隅に追いやって、財前のめんどくさい月曜日はやってきた。
ケツの青痣は、まだ存在中。

彼はその日を、人生で1番めんどくさかった一日だと語る。
















「えー今日も皆さんお元気ですかー?」

とやたら長い校長の挨拶は朝会の王道。
大体の生徒は聞き流すなり何なりとするのだが、そこは四天の校風。
校長の挨拶にツッコミを入れたりとやたらと大忙しだった。

そんなのとは縁遠いと言わんばかりに財前は欠伸をしていたのだが。








バーンッ!!









………そうも言ってられなくなった。

ガラスが一枚割れ、そこからフワリと誰かが降り立つ。
無傷て、無傷て。


「んー、ココって星達は言うてたんやけどな……人数多いっちゅー話や!!」

財前は降り立った存在に少し目を見開き、冷や汗を一筋流した。
その存在は、金髪をキラキラとさせて、人が誰もがほだされるような可愛らしい笑顔を浮かべた。
どこからか感嘆したようなほうけ声が聞こえてくる。
いや気持ちは分かるけどな。

「光って、おらへん?」

普通、こんなおかしな者が現れたら騒ぎになるがそこは四天流。
全員が軽いツッコミを入れると『光』さんを探し始める。
俺はというと、全力で、驚いて、硬直していた。



「あっ!!」

パァァ、とそんな効果音が付きそうな顔にして、そのイタい人は俺がいる辺り見てきた。
いや俺なんか見てるはずないって思いたいけど!心当たりが大きすぎる……!!



「光!!」


やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!
頭で盛大に警報が鳴っているものの、体はぴくりとも反応せん。
ついでにいつもの事ながら表情も動かない。表情筋ひとつ動きやしない。
あ、俺詰んだ。
無表情のまま、俺はどこか遠くから聞こえてきたチーン…という音に耳を澄ませた。



面倒なことに、なった。







「てやっ!!」

重さを感じさせないような跳躍で、そのイタい人は、また俺に、降ってきた。

「……………何で上からやねん」

ボソッと呟いたツッコミは、周りの雑音で掻き消された。









「ッ……!!」

ドサバサッ





見事なまでに俺の上に降ってきたイタい人。
おい何するん、何やねん何やねん!ケツいった!!まだ青痣残ってんねんぞ!!お前のせいで!!
軽い苛立ちを感じつつ、降ってきたイタい人はニパーッと笑う。きらきら、キラキラと。

「俺ケンヤ!!未来から来た星の妖精!!」








「………………………は?」







厨二発言キタァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!
未来?未来からてくるむちゃんか!!
つか妖精て!!
何やもう呆れるような、可哀相やら、よう分からん複雑な気持ちになってそのイタい人……ケンヤさんを見上げる。
キラキラ笑って、ホンマに嬉しそうに俺に乗っかかっている。
…………重いねん。(ついでに青痣も痛いねん)
重いねんけど、何や、こうキラキラした笑顔をされると胸がざわついて言葉が出てこない。
昔から、俺は誰かの幸せそうな笑顔には滅法弱い。

「あ、信じてへんな!?やったなこれなら信じるやろ!!」

ぷうっ、と頬を可愛いらしく膨らませ、ケンヤさんは指で何かを描く。
指が通った後の空気中には、キラキラ、きらきら、

















「隕石落ちてこ「危険やろ!!!」

何て言うても後の祭り。
ドゥン、というでかい音にびりびりと体に走る地響き。(ケツの青痣に響いた)

………え、マジで?


ざわつく四天の生徒。
いや俺のせいやないとはいえ何や申し訳なく感じた。
俺がこんなアホ助けたせいで!!(けど死なれたら嫌やん!!)

「おい財前無表情やぞ!こんな騒ぎなのに、肝ッ玉半端ねーな!!つか真面目に隕石校庭に落ちとる!!」

内心パニクっとるわぁぁぁ!!!!!!
とクラスメートに心で全力で叫ぶ。内心叫んでんのに表情動かへんとかここまでくるとある意味天才ちゃう!!
あれ、天才違う?
もはや正常な考えすらできひん!!

ぐったりした思いでケンヤさんを見る。
照れ臭そうな、ほわほわする笑顔を浮かべて、俺の胸にぎゅうっと擦り寄ってきた。
なぜか胸がきゅんと高鳴った。
きゅん、て。きゅん、て何や。


………しかしだからって四天宝寺に隕石落としたっちゅー事実は変わらんのだけど。
可愛い顔してなんちゅう事しでかしてんねん。




「君、ケンヤ言うの?」

唐突に響いた透き通るくらい綺麗な低音な声。
見上げるとミルクティー色した綺麗な髪をした超然イケメンが優雅に品よく立っていた。

あ、ヤバい、俺この人知っとる。

「おん!ケンヤ言うねん!よろしゅう!!」

ニパッと輝かしい笑顔を浮かべたケンヤさんに超然イケメンが微笑み返すと、一気に周りの女子が浮き立った。
喧しい。
けど、まあ、そりゃそやろな。
この超然イケメンは確か四天宝寺中学校のテニス部部長の白石蔵ノ介、……やったと思う。
何でも全国レベルであくが強いメンバーを纏めあげる凄腕の部長らしいし。

「ほなケンヤ……何でいきなし四天宝寺中学校を急襲したんかな?」

にーっこり、と笑って言う白石先輩。
アカンこの人を敵に回したら自滅する可能性大やな。

「命の恩人の光に逢いたかってん!!」

なーっ、て首を捻ったって可愛いだけなんやからな!!
……ん?それって結構効果ある……?

「いや………俺は知りません。こんな空から降ってきて、男のクセして腹だしして可愛い星の妖精なんて知りません。絶対知りません。」

ギギギ、とまるでロボットのように首を動かして誰とも視線を合わせないようにする。
言ったやん!!(心で!!)
俺は面倒事嫌いやって!!

「なんや光嘘ついたらヤリチンの始まりなんやで!!」

「んな訳あるか!!つかいい加減どけや!!重いねん!!お前のせいで出来た青痣まだ残ってんねんぞ!!」

つかヤリチンってなんや!!言っておくけど俺はまだ童貞や!!

「なんや、覚えてるやん。よかったよかった。あん時はおおきにな光!!」

「あ………」

アカン墓穴掘った。
まさかケツの青痣のせいで……
これが本当の墓ケツってか……って寒ッ!!ダサッ!!
俺の頭ン中のギャグセンス随分やな!!

「……………なぁお二方。テニス部に遊びに来おへん?」

「……………………は?」

「!!テニス!!こっちの世界にもあんの!!俺やりたい!!」

白石先輩、頭おかしいんですか。
全力でそう思って見つめると、無表情怖ッ、と周りに囁かれた。
うっさいほっとけ!!

「そっかケンヤはやるかー。で、君はどうするん?光君……やっけ」

「………!!」

"光"なんて呼ばんといてや。

「馴れ馴れしいんですけど。ケンヤさんもそうや。人ん事いきなり光とかナメてんすか。やめて下さい。つかいきなりテニスやらないか言われてやる訳ないやないですか。俺嫌いです。」

そういうの。

それだけ言うとしーん、と静まり返ってしまった体育館。
1時間目の始まりを告げる鐘がどこか遠くに聞こえる。

ああ、またや。
やってしもた。

昔から口が悪いと言われてもいたんや。
自分の本心の一部で1番嫌なとこだけが表情筋と違うて素直に出てくる。
今だってそうや。

"光"なんて呼んで欲しくないのは自分の性格といい、表情といい、全く似合ってない名前だから。
テニスをやりたくないのは、全国レベルのテニス部に俺が着いていけるはずないから。
それを言えばいいのに、表情筋と同じで、口が動かない。
こんな役に立たない機能なら、いっそ元からなければよかったんや。

「俺に、構わんといて」

こんなことが言いたいんやないのに。
だけど、本音が混じっとるから余計に厄介や。
ギリッと手を握りしめる。
なんで、表情に出ないんやろ。
悲しい、んだよって。
本当は優しくしたいんやよ、って。
テニス誘われたん嬉しかったんだよ、って。
表情の存在意義が、俺にはない。








「光、俺傷ついてないよ?やから、そんな自分が言ったことに自分で傷つかんといてや。光、優し過ぎや」

「……………………え?」




今、何て言ったんや?

「光、ちょっとだけやけど目に陰りが出来てたから。傷ついたんやないの?」

ねっ、とふわっと空気を軽くさせる淡いピンク色を撒き散らし、微笑んだケンヤさん。

「俺を助けてくれた光は星っちゅー俺を照らす存在やねん!!やから、光って名前似合うとるで!!テニスやってちょっと練習すれば出来るて!!大事なんはチャレンジ精神や!!」

「…………心、読めんの?」

まるで、魔法のように俺を思ったことを当てるケンヤさん。
思わず言ってしまったんは心からの疑問。

「?読めないで!!でもな光は俺の恩人やから、分かるねん!本当は凄く優しくて、でも只不器用なだけやって!!やから、俺が代弁したるで!!」

花が散るように、愛おしむように、大事にするように、包み込むように、温かく照らすように、笑顔を浮かべたケンヤさん。

……………どっちが、光や。

「…………おおきに」

俺の心からのお礼にケンヤさんは太陽のように、微笑んだ。
ああこの人から太陽の臭いがするんは、この人自信が太陽やからなのかな?
太陽やって星やろ。
もう未来やろうと星やろうと妖精やろうと人間やなかろうとええ。

ケンヤさん、貴方を俺の―――――――――




















「お礼はキスでええで!!」



「誰がやるかぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

ピシリとまた表情筋が完全に固まる。
なに、何てこと言うてんのこの人!!
情緒教育受けてるんか最近の妖精は!!
いや妖精ってケンヤさん以外知らないけども!!

「財前、」

「!白石先ぱ……」

「絶頂やなっ!」

「キモッ!!」

なに、まさかこんなんが四天テニス部の部長!?
あくが1番強いのが部長ってただの笑い事で済まへんわ!!

「おぉ無表情に強い口調でけなされると興奮するわ!!」

「キッッッッッッッモッッッッッ!!!」

「ちょ、光スルーせんでや!」

「あ"あ"?キスなんてアホなこと抜かしたからスルースキル全開にしたんやろが!!」

にょび、と頬をつねるとイヒャイイヒャイって騒ぐ。
………柔らかっ。



「……………つか今、朝礼の時間やない?」

ぽそ、と誰かが呟き、はっとして檀上を見上げると校長が体育座りをして落ち込んでいた。

………………………なんや、えらいすんませんでした。























―――――――――――――


時刻はすっかり放課後夕暮れ。
無理矢理にテニス部に連れていかれて、ガチホモや僧や地味や変態が集っていて何や色々としたインパクトがキモかったけど。

………悪い気分やない。


「ホンマ光初心者なん?!俺ビビったで!!あんな上手いから!!」

「そら、どうも………」

あのアホの権化みたいなケンヤさんは、朝礼が終わってからもずっと俺に纏わり付いて喧しかった。

おかげで周りという周りから注目浴びたし、ホンマ最悪や。

「ね、光、キスしてくれへん?」

「ブフ!!」

口を開けばすぐこれやし!!!
おかげで俺までガチホモ扱いになりそうやわホンマ怖ッ!!

「あのねケンヤさん……キスってーのは想い合った人同士でやるもんです………。決して俺らは想い合ってる訳ちゃいますし……そういうん辞めて下さい」

「えー……!!そんなにキスしたないん?」

「少なくとも俺は恋愛として好きになった人にしかしたないです」

「ちぇ〜光のけちん坊〜」

「けちん坊で結構や」


そこでふと気がつく。

「…………何でついてきとんの?」

「?光の家に住むからやでっ」

「帰れ」

ちょこちょこ可愛く何でついてくんのか思ってたけどそれが目的か!!

「ケンヤさんを玄関から入れる気はないんで帰って下さい」

「!!………わかった!!」

キラッキラの笑顔で笑ってふわり、とケンヤさんは浮かび上がった。

……………エ?

「ほな!!」

パーッと飛んでいったケンヤさんの諦めの良さに首を傾げる。

「つか俺も慣れたな………」

ケンヤさんの破天荒さに。


















「………ただいま」

返事は、ない。
まあ控えめな声やしな。

トタトタと階段を上がり、自室を開ける。
今日は疲れたから早く寝……

「おかえり光!!」















「………………………………………………………………………………………………なんっでおんねん!!!!!!!」

全身全霊で叫ぶとケンヤさんはニコーッと星を撒き散らして笑った。
こうパーッとした煌めくオーラを放っている。

「光は玄関はダメって言うたからな!!!やから窓から入ってん!!」

窓を見ると一部が割られている。
おいおいおいおい!!何しでかしてくれとんの!!

「ほら!光、俺に出てけなんて言わない!!玄関からなんてわざわざ言ったのは俺が見つかったら色々と大変やからやろ!財前の優しさ不器用すぎ!!」

「………誰も言ってないわ、そないなこと」

ケラケラ笑ってはしゃぐ謙也さんに心で苦笑する。
俺の、遠回りな優しさが通じた人なんて始めてや、畜生。

「な、光!!俺枕投げやってみたい!!どんくらい飛ぶかな!!」

「…………腕力で決まるやろ。つか枕投げは飛距離を稼ぐもんやないし」

「じゃあハイッ!!」

ばひゅん、と飛んできた枕を咄嗟に避ける。
アホかコイツ!!

「なんちって!てやっ!」

「う、わっ!!」

枕に気を取られていたからかケンヤさんが俺に抱き着いたのに上手く反応できずボフンとベッドに倒れ込む。

「大好き光っ!!」



本当に、愛おしげに、キラキラ笑っていう謙也さんにジワリと何かが込み上げる。

え、なにこれ。
顔があっつくなる。
目線を反らしたなる。
口がモニョモニョする。
眉も、モニョモニョして、る?

「あっ、光照れとる!!」

「なっ………!」

うそ、これが表情?
独りでに出たこれが、表情?

「顔赤いし、眉曲がって視線はウロウロしとるし!!完全に照れとる!!」

かわええっ!!そういってぎゅうぎゅう抱きしめてくるケンヤさんに胸がきゅぅぅぅんとする。
かわええんはケンヤさんやろ畜生!!
ホンマなにこれ。なんの症状なん。
居心地悪いはずなんに、もっと傍にいたいだなんて思ってる矛盾した変な思い。





ただひとつ、言えるのは。

「…………おおきに……」

俺に表情を教えてくれたケンヤさんが、限りなく、愛おしくて、


















「ほなキスして!!!」

「このアホの子がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」





ガチャ、


「え、」

「ん?」

「…………ゲ」

今の状況を説明しよう。
いつも冷たくて取っ付きにくくて毒舌で友達がいなさそうな弟が、

イタい格好をしてるとは言え、同年代の男とじゃれついている(ように見えてしまう)状況。

おまけに、いつも冷静な俺が大声を発しているのだ。












「母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!!!!!!光がっ、光が、他人とじゃれついとるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」


「ええええええええええええええええええええええええ!!!!!!??ちょ、どこの子なん!!!!アカン今日は赤飯やで!!!!」


「……………………………」



え?なに、これ。

「何やよかったな光!!!」

「良くないわ!!!」


キラッキラな笑顔を向けてきたケンヤさんに殺意を沸き立たせ盛大にツッコミを入れた。









俺の情緒教育にいいから、とケンヤさんが俺の家に居候することになるのを、この時、俺はまだ知らない。





















ロボット(不器用)に新しい機能がつきました。
ロボットは、照れるという表情を知りました。


ロボットの不器用な優しさは、妖精にだけ、通じるのです。





















(続く。

―――――――――――

リニューアルする際にやりたかった前(中)後編での謙也の人外パロ



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