小説しょうと四天 | ナノ

泣き虫バレンタイン



「皆注目、はい聞いてー。謙也が遂に今年1年越しの思いをバレンタインに伝えるらしいでー」

「白石ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!??」






俺は、今、失恋……いや、死にました。
死にます。

「ん?財前?おい何で首吊りしようとしてんねん!!ちょちょちょちょ危ない危ない危ない!!てかどっから紐出したんや!!」

冗談ッスよあははは〜(何故か謙也さんの顔が引き攣った)と言いつつも心の中は既にズタボロ首吊り5分の6死に状態。(死んでる状態より酷い)

普通せやろ。
何しろ1年越しの片想いがあっけらかんと今正に散ったんやで。




















泣き虫バレンタイン










1年前、俺は人付き合いが上手いとは言えない生意気な新入生やった。

けど、そんな俺を構い倒して、心を開かせてくれた忍足謙也さんに淡い恋心を抱くのは自然の摂理。

男を好きになるなんて、と最初は思っていたけど、太陽のような笑顔で触れてくる謙也さんの前で全てどうでもよくなってしまった。

だって、好きになってもうたんやし。

なんてドッカにありそうな恋愛ソングのフレーズを思うようになるなんて、謙也さんに会った時は想像もしてなかった。

それから少しずつ謙也さんとは距離が縮まっていくように、柄にもなくポーカーフェースを張り付けつつ頑張った。
まあポーカーフェースはお手の物や。
それでも白石部長や小春先輩、ユウジ先輩にはバレてしもうたけど(あれ?意外と多い?)

けど、そんな俺の小さな頑張りはたった今敢え無く意味なし用無し必要なしの残骸や。
1年越しの思いて俺が謙也さん好きになった頃やん。何ちゅう残酷な現実やねん。
俺が謙也さんを好きと知ってて俺が滑稽になる事実をばらすとか………

ホンマ部長、鬼畜ッスわ。



















「部長、」

「お?何や財前?」

「明日俺休みます。いや、永遠に休みます。今までありがとうございました」

「何その自殺宣言!!!」

帰り、謙也さんに用事があるからと先にお帰り願って(当たり前のように一緒に帰れるようになるのにどんだけ時間をかけたことか)、部室に部長と二人きりになるとさっきの自殺宣言改め、学校を(永遠に)休むことを伝えた。
つか部長と二人きりとか気持ち悪ッ。

「あー、何や。謙也のことか」

「今まで謙也さんに対してしてきたことは無駄だったんすね。俺もようやく身の程を弁える時が来たってことッスかぁ」

「おーい財前。戻ってきや」

「…………………」

「うわぁいとっても虚ろな目してはりますね!!」

部長におちゃらけられ、ガクリと床に手をつく。
ああ明日謙也さんは想い人と繋がり、俺は紐と首が繋がるんやろうな。
なんて悲しいセントバレンタイン!
てかバレンタインって何!!んなもん滅べ!!ついでに部長も滅べ!!


「まあ、アレや。明日は来ないと罰掃除させるで」

「はっ、永遠に罰掃除したりますわ。身体はないかも知れませんけど!!」

「………謙也に財前の気持ちばらして、ダブルス解消や」

「行きます、這ってでも学校に来させて頂きます」

死に恥なんて晒したくない。
謙也さんが好きやった後輩が自殺とか謙也さんの経歴をどんくらい傷つける思っとるん!!
つか俺が死んだら謙也さん悲しむやん!!めちゃくちゃお人よしやし!!

危なかったー………


「けど校舎には入りませんよ。学校とかどんだけですか。謙也さんとの思い出がありすぎて思い余ってやっぱり首吊りするわ!!」

「やっぱりって首吊りする気やったんか!!!」

「多分死にませんけどね。なんか紐で吊ってないと落ち着かなくなります」

「ある意味危険や!!」

「謙也さんが絡むと危険になります。取り扱いには十分ご注意下さい」

「取扱説明書!?」

はああ、とため息を吐く。
じんわり、と涙が浮かぶ。

やって本気で好きやったんや。
手に入れたい、とまでおこがましい事は(まだ)思ってなかったけど、もうちょっと素敵な青春エンジョイさせてくれても良かったんちゃう。

けど、謙也さんの幸せを願えないかと言えばそうという訳でもなくて。
謙也さんの将来を心から祝福したい気持ちはあんねん。
でも今は残念な思春期。
相手を思えるまでの大人な恋愛とは程遠い、自分の理想を押し付けてしまうお子様な恋愛。

謙也さんを傷つけそうな重いお子様な恋愛。
謙也さんの想い人を知ったら傷つけてしまいそうなくらいの気持ち。


明日、結ばれた誰かと謙也さんの二人を見ようものなら死亡フラグはビンビンに勃ちまくりや、主に俺の。

「まあ、しゃーないから校舎に入らないんは許すわ。けど、学校には来るんやで、ええな」

「……………分かりましたよ」

何でそんなに学校に来ないとアカンのやろ………

まさか謙也さんに失恋した俺を嘲笑うため……?
こんの変態部長がッ!!!!


「部長死ね!!」

「なして!?」

全力で心を込めて部長に叫ぶ。


「あんなぁ……まあええわ。ほれ、コレ」

ひょい、と投げて渡されたのは部室の鍵(スペア)。

「………………何やねん」

「鍵。明日部活ないし、部室に引きこもりや。」

「…………分かりましたわ」

てか引きこもりって何やねん。
確かに俺はインドア派やけど最近はアウトドアやってイケる…………



アカン、謙也さんと遊んだりしてたからアウトドアが出来てたんや。
謙也さんの告白が上手くいけば俺は謙也さんと一緒に遊んだり出来なくなるんや………


「ッ………ほなお先に失礼します」

「あっ、財前待ちや」

「………まだ何か」

「いや、あんな?謙也の好きな相手って誰やと思っとる?」

「巨乳の美人やろ」

あの人巨乳好きやし。
つか何なんやホンマこの鬼畜部長。

「ところがどっこい男なんやで」

「……………あっそ」

「いや、あっそ、ってな。自分に可能性に出来たとは思わんの?」

「ハァ?」

こんの野郎……!!

「ハッ、ありえないッスわ謙也さんが俺を好きになるとかっ!いつも謙也さんに対してツンケン冷たい毒舌な後輩に惚れる?掘られる?俺やったら願い下げッスわ!その人の好みを疑うわ!!大体謙也さんは無邪気な人が好みやし!!無邪気って何ソレ!!美味しいの?作り方?ブランコ乗ってはしゃけば無邪気やないの!!?知らんわボケ!!明後日の方向を向いて一生目線を返すな!!俺に無邪気って要素?皆無に決まってはるでしょ!んな謙也さんに好かれるって淡い期待抱いて爆発すんなら自主的に爆弾を抱え込んで隠しときます!!ほならお先に!!鬼畜部長死ね!!」



バタァァァンッ



という喧しい音を立たせて部室を出て全力疾走。
そう、こんな奴好きになるとかありえない。

そりゃ、好きになって貰えたら、って何回願ったやろ。
けど、謙也さんに対してやってしまう態度。

どう屈折して反射して捩曲げたら俺なんかを謙也さんが好きになんねん!!!

やさぐれてグチャグチャ想いを抱いて家に到着。
駆け込んで部屋に閉じこもる。
効果音は勘弁やで。


「ッ………んやさん」



俺は、失恋の痛みにぼたぼたと涙を流す。
それ以外に、痛みを和らげる方法を俺は知らなかった。
泣けば、スッキリする言うやん。



ついでに、

「……財前、ネガティブ過ぎやろ」




なんて白石部長が呟いていたのも知らなかったのである。


















***


「………低血圧やのに」

時刻は朝5時。
昨日泣き明かしたせいで風呂入ってへん。
だが全然余裕なこの時間に起床。

スッキリ、いやどんよりと起きたんは今日は俺の死刑宣告という名の失恋日やからに違いない。
誰や泣いたらスッキリする言うたん。
迷信やったんか!!
ああホンマにバレンタインって滅べばいいんに。

ヨロヨロと脱衣所に行って風呂に入る為にピアスを外す。
その時映った鏡の中の俺は、ひどい顔をしていた。
赤く腫れた目、周りに隈。
頬が少しこけたようにも見える。
ああこんなに泣くくらい俺は謙也さんが好きになりすぎてたんや。
けど、好きでいていいのは今日まで。

そう考えるとまた涙が溢れそうになる。
恋する乙女か、俺は。
いや恋する男児やけど。

シャワー浴びて、目に冷やしタオルと温めたタオルで交互に当てる。
これで隈は取れるってツイッターにあった。
ホンマ便利やなツイッター。








………………ツイッター







バタァァァンッ


とまた、けたたましい音を響かせてテニス部部室を開ける。
ゲームに善哉に昼飯にケータイにクッションに毛布。
暇つぶしグッズを仰山持って部室に入り込む。

学校で1番早く来たからか、門を開けた先生が目を見開いてぶったまげていた。
何か文句あるんかコラ。




ふぅ、と息をついて畳に転がる。
ホンマは部室にも仰山謙也さんとの思い出はたくさんあるから辛い。
けど、忘れなアカンなら今のうちに浸っておきたい。


好きって気持ちを、今だけは大事にせなアカン。
頭冷やしながら、登校した俺の応えがソレや。


例え謙也さんがどこの輩とくっついたとしても、この気持ちに嘘は付けない。
やって、本気で好きやから。
謙也さんが好きやねん。
俺なんかじゃアカンことくらい分かってても。

けど、その好きって気持ちに嘘ついたら、今まで築いた謙也さんとの思い出にまで泥を塗るようで。
その泥は、一生を俺を蝕むんや。


『嘘好き』


って。

謙也さんが想う相手はこれからたくさん謙也さんとの思い出を作ってくことになると思う。
謙也さんはフラれないから。
謙也さんに告白されて嫌がる奴なんていない。
あんなに温かい人なんやから。

けど、俺が謙也さんと作ってきた思い出は例え謙也さんが誰かと付き合っても俺と謙也さんだけのものや。
誰にも介入できへんし、誰にも壊せない。
壊せるとしたら、その思い出を作った俺らだけなんや。



だから、大事にするんや………


「好き……謙也さん…」


愛してます。
アンタで抜いたことやってあります。
アンタを掘った夢みて夢精したこともあります。
そんな最悪な奴かもしれへんけど、本気で、



好きなんです。貴方が。



遠く謙也さんを思いながら、俺はゆっくりと目を閉じた。


願わくば、夢で貴方と笑い合えたら。
















***



「…………ん」

お腹が減って目が覚める。
時刻はお昼休み真っ最中。よう寝たわ。

謙也さん、告白したんかな……

パチリとケータイをあけてツイッターの呟きをみる。

絶頂侍ってあの人やろ絶対。

「”ヘタレ想い人捜索中なう”………か。まだ告白してないんやな。」

まだ好きでいてええんやな。
ホッとしたような、ガッカリしたような。
てか捜索中ってなんやねん。
他学年なんかな、捜索ってことは。
謙也さんの手を煩わしてるんは誰なんやろ、うらやましい。

嫉妬の気持ちに苦笑しながらそっと謙也さんのロッカーに触れる。

ツイッター、
”ヘタレ探し人の位置把握なう”



さようなら謙也さんへの恋心。
好きでした、今も好きです。
いきなり好きなのをやめられないけど、謙也さんの幸せを壊さないように、忘れますから。

けど、きっと貴方は永遠に俺の大事にすべき人だから。
貴方に恋するとは違う大事に想う気持ちは、俺の小さなわがまま。



愛するという気持ちは、忘れさせないで。


ぽたり、と床に小さなシミができた。




















ガチャ、



「あ、財前」



…………………え”?





















「朝からいないと思ったらこんなトコにいたんか。鞄は教室に投げ捨てるようにあったのにいないもんやから不思議やったんやで?」

「………そうッスか」

「てか自分こんなトコで何してるん」

「………………………」


 言 え る か !!!


貴方を思って引きこもり真っ最中です、なんて言えるか!!
つか何でここにおるんや!!
いや一つしか考えられん!!あんの鬼畜変態!!謙也さんにココ教えやがったんや!!
きっと、財前がサボってるんやー様子見に行ってや、って!!


てか、そや謙也さん、

「謙也さんこそ何してはるんですか。想い人に気持ち伝えるんでしょ。俺なんかに構ってないで行ったらどうですか」

「あー……、うん……」

何だかハッキリしない言いようにイラついて振り返る。
キラキラした金髪をいつものようにひよこみたいなマヌケな形にしとる謙也さんが目に映る。
そんなトコも、好き、愛しい。

そして何故か謙也さんは俺の顔を見るなり素晴らしいスピードで近寄ってきた。

ちょ、やめ!!心臓大爆発や!!想いも爆発しそうになるし!!

「泣いてたん………?目が真っ赤や」

するり、と愛しいものに触れるように俺の頬を撫でる謙也さんに心臓バクバク。
上目遣いになってもうてるからドキドキが止まらん。
可愛い謙也さん可愛すぎる。

(やめてや、これ以上好きになっても困る。貴方は優し過ぎるんや)

「………失恋したら誰やって泣きます。」

「……………え」

「分かったら謙也さんはさっさと告白しに行って下さい。」

「………………」

急に黙りこくり下を向いた謙也さん。
落ち込んでるんや。

きっと俺に同情して。

そんな謙也さんに感謝の気持ちを込めて頭を撫でる。
パキパキしたワックス、荒れた髪。
そんな頭も謙也さんの魅力の一つ、なんて考える俺は随分やと思う。











「……………ざいぜん、」

「…………なんです?」

「すき」

ムギュッと押し付けられるようにカーマインの色をしたリボンで巻かれた箱を渡される。




……………………え?


「………へっ?!」

心より口に出した言葉の方が素直だった。


「ざっ、財前が好きや!!気持ちは受け入れられんでもええからチョコだけでもっ……!!」




ふるふると震えた手で俺にチョコレートを渡してくる謙也さん。
なに、どういうこと。


「謙也さんの、想い人って………」

「財前や!やからずっと探してたんやないか!!」

真っ赤になった顔で、泣きそうな顔でヤケクソのように叫んだ謙也さん。

本当に、衝動的に身体が動いて、謙也さんを思い切り抱きしめた。

「財前!?やめや……!!こんな失恋した者同士やからって……!!」

「誰も失恋なんてしてません」

「………え?」

「謙也さん趣味悪い。」

「なっ!!言うことかいてそれか!!」

キャンキャン子犬が喚くように文句をいう謙也さんに微笑む。
何でこないにこの人は温かいんやろ。

「こんな格好悪い俺に惚れるとか、ホンマに趣味悪い…………」

「財前………?」

ぽたり、とまた涙が落ちていく。
あったかい。

謙也さんの肩に埋もれるように顔を隠す。
ホンマ最後まで、決まらへん。

「おれも、けんやさんがすき」


その言葉に今度は謙也さんがポロポロと泣き出して、二人でぎゅうぎゅうと抱きしめあった。

愛し合いって、こういう事を言うんやろうな。











泣きすぎや、俺。
















”ヘタレと泣き虫両想い”

というツイッターに書かれた文面に気づくまで数十分後。












――――――――――――

一日遅れましたがハッピーバレンタイン!!

拍手文章から考えついた財前独白な感じのバレンタイン話です。
財前が格好悪いかもですが、恋愛って人を残念にしますから。
謙也さんが出番少なかったけど、まあ、仕方ない!!

悩んで苦しんだ方達の恋愛に、幸あれ、と願わくば思います。

2月いっぱいフリーでした!




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -