記憶喪失の使い方1
※相互リンク(だった、になるかもしれない)きとちゃんお誕生日おめでとう話、ですが!!
暗くて下品でかなりR18近いです!!コンセプトは何かブラックジョークって感じになりました(泣)
本当に酷すぎる話だと思いますので、ごめんなさい。苦手な方は戻って下さい。そして忘れて下さい。
ここで散々注意しましたので、閲覧後の苦情は受け入れません。
でも読むという勇者様、生きて帰って下さい。
財前は無関心や。
ほんまに、無関心。
どんくらい無関心か言ったら南極に一人ほうり込まれても特に気にしなさそうなくらい、無関心。
物理的に無理な話やけど、財前の無関心さには可能な気がしてしまう。
けどさ、恋人が他の男、白石とかにベタベタしたら普通、嫉妬せん?俺は財前が誰だろうとベタベタしたらめっちゃ嫉妬すんねん。
なんに財前は全く気にせん。
………そう、ほんまに、俺ばっかの一人相撲。
けどさ、一応俺と財前って…………
「付き合ってるんやないの?」
「…………はあ」
「『はあ』って!『はあ』って何やねん!!」
バンッと部室にある机を叩けば財前が少し、迷惑げに眉を寄せた。
「付き合ってるんやないの、って聞かれて俺はなんて答えればええんですか。謙也さんと真面目に交際してます、って答えなアカンのですか。俺は謙也さんに告白されて、自分も好きだと応えました」
いつものように、何の抑揚もなくただ問う財前に俺の怒りが頭にジワジワと上っていくのが分かる。
一気に怒りが沸騰するよりだんだんと怒りが蓄積されていくほうが厄介だ、と前に誰かが言ってた気がする。
「財前は、俺と付き合うてる自覚はあったんか。」
「…………ありましたよ」
「じゃあ何で何もせんの。俺に触れないし、構わないし、むしろ冷たいし」
震えてしまう手を必死に握り締めて、財前を見る。
いつものように、何も写し出さない綺麗な真っ暗闇。
こういう時に、財前がどう思ってるか分かればええのに。
よくあるのは俺だけはコイツの表情の変わりようが分かる、っていう恋人の特権。
そんなんあるんなら誰か教えてや。全然わからないねん財前の表情。
「そんなん、謙也さんには関係ない。俺の問題ですわ」
ぷっつり
そんな音が部室にぽつりと響いた。
一体何の音か分からない、初めて聴いた音。
「ふっっざけんなや!!!!!」
だが、次の瞬間怒声が響いたので、どうやらキレた音らしい。
…………俺が。
って何で心は冷静やねん。
「財前ってほんまに意味分からん!!!俺に対して何もせんのやってどうせ好きやないからやろ!!!!?俺に同情したからフラなかっんやろ!!?もうええわ!!!!」
「!!謙也さ――」
ガアンッ!!と部室の扉を閉めて俺はダッシュ。
財前の呼び止める声なんか無視。
がむしゃらに走れば落ち着く気がした。
俺は財前を好きやった。
ずっとずっと好きで、少し前にありったけの勇気を総動員して、足りない分の勇気は人生から前借りして、財前にぶつけるように告白した。
もちろん、フラれるんは覚悟の上。
けど、財前はいつものように無表情のまま、『俺も謙也さんが好きです。謙也さんと同じ気持ちで』という。
あっさりと言いのけた財前に俺の目は点。
はあ?と間抜けな声が聞こえたと思ったら俺の声でちょっとびっくりした。
それからめでたく、所謂お付き合いというものが始まった。
けど財前にとってはめでたく何かなく、残念な事に、お付き合いが始まったってことやったんや。
お付き合いしてんのに、愛の囁きも無ければ変わらぬ無愛想。
前より冷たくなったんも絶対に俺の気のせいやない。
行動も乱暴で、恋人にするような態度もカケラも無し。
本当は、財前は俺なんか好きなんかやなかったんや。
好きやなかった…………
「ッ………!!」
「はい!!呼ばれて飛び出て絶頂な白石君やで!!」(☆)
「もうホンマ……白石なんか死ねばええのに………」
「ひど!!」
いつも心にあった思いが溢れて仕方ない。
ホンマ白石って無駄な塊過ぎてありえないわ。
「謙也お前……それ本人を前にして言わんで……結構傷つくねん……」
「今大特価にセールしたいくらい絶賛俺の心は傷だらけや。白石にこうしたって許されるに決まってるやろ」
「謙也横暴!!」
横暴なんは百も承知やっちゅー話や!!
やけど今!!俺に話し掛けた白石がとりあえず悪い!!!
メソメソとする白石がウザ……邪魔で何の用や、と聞けば慌てたように白石は凛々しい顔をした。今更遅いっちゅーねん。
「えーゴホン。謙也は、要するに財前の気持ちをちゃんと知りたいんやろ?」
コクリと頷けば白石がウンウンと頷いた。
「まあこればかりは二人の問題やからな。発破やきっかけくらいしか俺には作れへん。で、や。謙也」
すっと真面目や顔をした白石に心がざわつく。
分かる、分かるで。
これは真面目にろくな事を考えてない時の目や……!!
「俺の出した案に乗る気はあるか?案を聞いたら絶対にやって貰うで。これをやれば確実に財前の気持ちが分かるし、愛も試せる。けど、リスクはデカイ。下手したら財前に嫌われる可能性もあるねん。どうする?」
「…………………」
「ぶっちゃけ、俺でもやられたら本気で怒る案や。そんなスペシャルミッション、乗るか?」
「俺は……………」
財前に対する気持ちが迷子になったことはあらへん。
無関心やけど、いざって時の優しさに触れて、俺は財前を好きになったから。
その優しさを俺だけにくれたら、って。望んだ結果がコレや。
気持ちが複雑なくらいグチャグチャ絡んでしまい、厄介な関係になってしもた。
いい加減、どう転がろうと財前からの気持ちを知りたい。
迷子になってもうた財前からの気持ちをちゃんと掬い上げて知りたい。
嫌われようと、ただの先輩後輩に戻ろうと、ちゃんと関係をハッキリさせたい。
もう俺に無くすもんなんかあらへんわ!!
「…………やる。やったるわ!!」
「よしその意気で落ちろ謙也!!!!」
「へ?」
ドン、と軽いノリでこんな→→→矢印の力によって俺はゆっくりと階段に投げ出された。
「…………スペシャルミッション題名は」
ニタ、と笑った白石に俺は早くも後悔しつつ、白石の案に乗った自分を呪った。
「『絶頂☆階段から落ちた謙也は☆記憶喪失のフリして☆財前の気持ちを知ろう☆ンーッ絶頂!!』作戦や!!」
「オイイイイイイ!!!ちょい待てェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!」
作戦名、ダッサ!!!!!!!!
記憶喪失の使い方
「…………で?このあとどないすんねん」
階段から転げ落ちて軽く腰を痛めただけで済んだものの、これちょっとした犯罪やぞ!!
そんな俺の心はなんのその。
俺を部室に連行して、白石は長々しい説明をはじめた。
「金ちゃんは運がええことに青学に遊びに行ってんねん。師範は修業でしばらく帰らへん。今がチャンスや。師範にこんな煩悩だらけの作戦を協力させる訳にはいかんからな。やから二人抜いた財前以外のメンツに作戦の事は教えといたで。このあとが重要や」
「………あー、そ」
未だ少しズキズキとする腰に、目の前の男を呪いつつ俺は最早投げやりに答える。
もうどうにでもなれや。
「謙也、お前絶対にその喧しい口を開くなや」
「はあ?」
「記憶喪失定番の『ここは何処?私は誰?』とかも言うなや。お前ぶっちゃけ演技とかド下手やからすぐばれる」
素で失礼な事を抜かしやがる白石にこめかみがピクピクする。
アカン、殴りたい。
「じゃあどないすんねん」
「やから、喋るな。頷くか首振るかどっちかしかすんなや。いっっつも喧しい謙也が喋らんだけで、十分信憑性up狙える」
「白石お前失礼なこと言ってる自覚ある?」
「?事実やん?」
白石この野郎……いつか友達無くすぞ……。
「俺が絶頂な説明するから謙也はただボケッと座ってろや。気持ちはイグアナや」
「イグアナ……まあ悪い気はせんな……」
「謙也お前も大概やけど」
白石が何やグチャグチャ言ってたけどスルーや。
俺は今、今世紀最大の不機嫌や。
「ええな謙也。喋るな動くなじっとしてろ。」
「分かったっちゅーねん……」
渋々部室にあるイスに座ったと同時に複数の足音。
バタン!!とうるさい音が響いたと同時にレギュラーの皆が現れた。
「謙也と財前の為にも一肌脱いでくれや。まあブラックなドッキリやけど、感情が現れない財前にはしゃーないわ」
「任せてや蔵リン☆」
「小春がやる気なら俺もやったるで!!」
「ま、謙也には世話になってるしな。財前の態度もええ加減ハッキリさせたいし」
「任せるばい謙也。」
「みんな………」
感動に目をウルウルさせたと同時に誰かが走ってくる音。
ガンッ!!と荒々しい手つきで部室のドアが開いたと思うと、息を切らした財前がドアの前に立っていた。
「……謙也さん、は……?」
ゲホゲホと噎せながら財前が言葉を滑り出した。
あー、やっぱり何やかんや財前は優しいねんな。
愛されとるかは知らんけど。
「落ち着いて聞いてな財前……実は謙也、記憶喪失みたいやねん。階段から落ちた時に頭を打ったみたいで……」
「家族しか分からんみたいやの………」
「俺達のこと、誰も覚えてへんかった……」
「テニスしていたことも覚えてなかったばい……」
「おい謙也!!お前何俺らんこと忘れてんねん!!ふざけんなや!!」
「やめてやユウ君!!」
おーーーい、皆さん演技うますぎやないですかぁぁぁぁ。
ってツッコミが入れたくて身体がムズムズするんやけど!!
そんな俺を察したのか、財前に見えない形で俺の背中を白石がつねった。
思わず涙目。いつか白石の顔、陥没させたる………!!
「謙也、さん………」
フラフラとおぼつかない足取りで財前はゆっくりと椅子に座った俺の前にしゃがんだ。
「俺のこと、分かります?」
「………………」
白石の軽いジト目を身体にビシバシ感じながら、俺はふるふると首を振った。
「……そう、ですか……」
顔をふせた財前の表情は分からん。
けど、いつも無表情やから何も変わらない、やんな。
「俺のせい、なんすか………?」
「 、」
え、と言葉を発しそうになった瞬間、白石が俺の肩に手を乗せ、肩からギリギリという素敵な音を奏でた。
おい利き腕やなかったら痛くしてええと思っとんのか!!
「俺が、謙也さんに好きって言えないから………」
言えない?
え、なに、照れて、ってことかいな?
だとしたら財前不器用過ぎやろ!!
「ちゃんと言えばよかったんや……」
ぎゅうっと手を握り締めた財前は、ゆっくりと顔をあげて俺を見据えた。
その顔は、無表情を売りにしてる財前にしては悲痛な気持ちががすぐ分かってまうくらい、歪んでしまっていた。
俺の胸に突き刺さる痛み。
それは、この不器用やけど優しい財前を悲しませた罪悪感からや。
「今更かも、知れませんけど。理由を言わせて、謙也さん。俺、愛が重いんです。もう、本当に酷いくらい」
愛が、重……?
いやいやいや嘘つけや!!俺に何もして来なかったんやんけ!!!
「ずっと、ひた隠しにしてきたんです。表情を読まれれば絶対に俺の嫉妬深いとこばれるって分かってた。分かってたから全力で見せんようにして。けど、結果が……こんな…………」
ボロリ、と大粒の涙が財前の切れ長の綺麗な双眸から溢れ出したのを目の当たりにして、俺は見事なまでに硬直した。
「謙也さんなら、受け入れてくれる、って信じればよかったんや……謙也さん…………。」
ボロリボロリと床に落ちる度にバタタッと音が響く財前の大きな雫、いや、涙に俺は目を白黒させるしかなかった。
「瓶に詰め込んで、俺から離したないくらい、俺は謙也さんが好きやねん……」
財前って……え?まさかヤンデレ?
「…………」
ふ、と悲しげに微笑んだ財前はゆっくりと立ち上がった。
「俺ちょっと謙也さんが落ちた階段、めっためったに破壊してきます。いや、四天宝寺中の階段を爆発させてきます。素人でも確か作れたんで、爆弾」
「うえええええええええええええええ!!!!?ちょちょちょ落ち着いてや財前!!!!」
思わず財前の腰に抱き着き、叫んだ。
これはヤバい!ヤバいで!!
「スマン試すような真似して!!ちゃんと覚えてるから!!財前のことめちゃくちゃ覚えてるから!!俺財前のこと大好きやから!!やから落ち着いてや!!!!な!!!!!」
「…………………………………謙也さん?」
あ、やらかした。
そう思っても後の祭りやった。