小説しょうとtake | ナノ

天才とはバカの究極である1



ああ、なんちゅう意味ないことをここの四天大学ではやるんやろう。
歓迎会やなんてそんな利にならんことして楽しいんやろか。

はあ、とため息をついていかつい黒メガネがずり落ちたのを指であげる。
白衣を翻し、俺はパーティー会場のはじっこに留まった。
人間観察しとるほうがまだ楽しいし有意義や。

大体人間が生きる時間は80まで生きたとして700800時間。閏年を入れたら700820時間。
んで今20歳と考えたら175205時間過ごしたことになる。
人間にとっては膨大な時間なんやろうけど、宇宙から見たら人間の一生はたったの2秒。
1秒40年と考えたら俺達にはあと1.5秒しか生きる時間はあらへんという訳や。
つまり俺達にはこないなことしとる時間あんなら好きなことして過ごしたい。
人間は心理的にはいつも自己中なんやから自己中なんて今更っちゅー話し。
つまり何が言いたいかっていうとやな、




「帰らせろや」


ぼそっと呟いた俺の言葉はパーティーの雑音に掻き消された。
おい俺の口から発する際に動いた腹や喉、舌。空気に謝れ。
















そもそも俺はこんな新入生歓迎会になんか出る気は無かったんや。
去年も新入生歓迎会、つまり新入生であるから出る義務はあったんに研究室に篭った。

………けど、それが間違いやったんや。

現れた加えタバコにおっかしな帽子を被ったヨレヨレなおっさんと、顔見知りになるっていうことが起きた。
ソイツは『青少年はバカであれ!』とか頭弱いこと叫んで俺に無理矢理酔っ払いながら絡んできた。
オサム、という大学の教師だと名乗った相手に俺は軽い絶望を感じた。
こんな教師が大学にいて大丈夫か、と。
この教師がいて得することと、不利益なことを100ずつ考えたものの、やっぱり絶望しか残らなかった。

けど、そいつは何気に生徒から人気があって、意外と博学だった。
いらん知識も持ってて、いわゆる下ネタにも精通していた。
陰茎、蕾について根絶丁寧に教えられたのは記憶に新しい。エロ本をいきなり見せられたり、官能小説を読まされたり、挙げ句は音読させられた。
だが勃たない俺にオサム教師はめちゃくちゃ不満げやった。

そりゃそーや。
俺は未だに人にレンアイというものをしたことがない。
また女と付き合ったことも無ければ告白もされたこともない。

とどのつまり好きなことをずっと研究していた俺に、そっち系の興味は皆無やった。

大体にして、俺には夢がある。
小さい頃からそれだけ夢見て、けどその夢にはたくさんの経験、体験、つまり研究をしたほうが味があるものが出来るらしい。
小学生の時にそれを知った俺は、中学からたくさんのことを経験した。
ちなみに、俺は小学生からいかつい黒メガネに白衣というスタイルでいた。気分はいつでも研究者、ということや。
テニスを始めたら一緒に全国を目指そうと勧誘された。
合気道や空手、柔道を習ったら師匠をぶっ倒してしもた。
株を始めたら当たりばっかで大手の会社にスカウトされた。
茶道や生け花、琴を始めたら弟子にならないかと誘われた。
カバを始め、動物について興味を持って研究したら入賞した。
料理について研究したら三ツ星レストランを開くまでの実力をつけていた。

他にもたくさんのことを研究精神でやっていった。ら、俺は天才と持て囃されるようになった。
けど、夢にはまだまだ研究が足りないと思ったんや。
やから、どこか風変わりで、個性的な四天大学に入った。
ここで最後。俺は自分の夢を叶えるべく、研究をここで最後にすると決めている。

俺がずっと研究を避けてきた、人間について。



とまあ、だいぶ話しはズレたが俺は最近の研究はなかなかはかどっている。
例えばオサム教師なんかはただのバカやけど、ただのバカやない。どこか人を引き付ける雰囲気があったり。
そんなオサム教師やから、俺も一緒にいたりする。
競馬っていう博打が最近面白い。
俺がポンポン当てるのを、オサム教師は悔しがる。その顔が毎度毎度悔変わるのが面白い。
悔しいっていう表情にもたくさんあるんやな。

だけどな、嫌がる俺を無理矢理パーティーに出すってどないやねん。
挙げ句メガネとって白衣を脱がしてコンタクトとスーツにしようとしたんは、いくら未遂やろうと生涯恨んだる。
これは俺のアイデンティティーや。






「はあ………」

「なんやなんや。暗い顔しとらんで楽しめや天才財前クン」

「どこをどう楽しむっちゅーねん。天井のシミでテキトーな図形浮かべてその図形に何人の人が入るか考えるんは飽きた」

「ほな、人間見てろや。誰が誰に恋愛してるか、とか誰が誰を嫌ってる、とか尊敬しとるとか。財前クンは人間を学びに来たんならそういうのを見いや。」

「………なるほど」

一理あり、と考えてメガネ越しに人間をガン見する。
あ、結構見えてきた。

「あの髪二つの泣きぼくろは隣にいる茶髪で首長い男子を好き……に見せてるけど嫌ってるな。茶髪は逆に好かれとると見事に勘違い。いつかこっぴどい目にあう。」

「………財前クン、なるべく明るい人間研究にして………」

頭を抱えたオサム教師に首を傾げる。
何が悪いねん。

訳を聞こうと口を開いた瞬間つんざくような女子の悲鳴が耳を貫いた。ついでに少し男の声が混じっていた。

「……………………」

「お、お出ましや。って財前クン帰ろとすんなや」

「あんな意味ない叫びをあげることで迷惑に思う奴がいるとあのクソ女達総勢58人に加え男10人は知れ。もしこれで心臓悪い人いたら死ぬ人が出たかも知れんやないか。大体今まさに俺の耳に「はいはい、落ち着きや財前クン」

チ、と舌打ちして再び壁に寄り掛かる。
パーティー会場の真ん中。自分は勝ち組ですよ、とでもいいたげなイケてるメンズが二人。
ミルクティー色の髪を外ハネにし、美しい笑顔を浮かべ女の子総勢38人人に囲まれる男一人に、金髪をキラキラさせ、男女共に総勢30人に囲まれて人懐っこい笑顔を浮かべるひよこ頭。
あれが元凶か。

「アイツらな、俺の中学時代の教え子やねん!あの頃から変わらずチヤホヤされとんなぁ」

「あっそうですか。ほんまに帰らせて下さい。女男共の声がうるさい。まだオサム教師の声のがマシですわ」

「お、マジで?ほなら―――」


すぅぅ、と息を吸ったオサム教師に慌てて耳栓をした。
次の瞬間、


「白石――――!!!!謙也――――!!!!!」


パーティー会場全体にビリビリ響く大声に、会場がしん、と静かになる。
ほんまにこの人意味分からん。

「久しぶりやなぁ!!!こっち来て話さんか!!!紹介したい奴おんねん!!!」

ブンブンと手を振るオサム教師に振り返ったイケてるメンズ二人は顔に笑顔を浮かべ、人を掻き分けやって来た。
それを皮切りにまたパーティー会場がざわつく。二人を囲んでいた女男共もわらわらと散った。
オサム教師はやっぱり雰囲気的に許して貰えるんやろな………。

「オサムちゃん!!久しぶりやな!!」

「元気やったか!!?」

パタパタと寄ってきたメンズ二人は、それは嬉しそうで、オサム教師はやっぱり変なとこは凄いと思った。

「おうおう!!元気やったで!!」

「元気な訳ないやん。タバコ吸い過ぎ不摂生な生活で病院から健康診断の度に注意受けてるし。ランクでいえばCやし。どこが元気や」

「ちょ!財前クンそれは言うな!!!」

喧しいオサム教師にふい、と顔を背ける。
俺からアイデンティティーを奪おうとした罰や、アホ。

「オサムちゃぁ〜ん?」

「しっ、白石!ちゃうねん!!!ちゃうんやって!!」

ミルクティー色の綺麗顔に睨まれた挙げ句に胸倉を捕まれ、オサム教師は冷や汗ダラダラ。ざまあみろや。

「お、落ち着きや白石!せっかくの再会なんやから!な!最近就活で忙しゅうて会えなかったんやから!なっ」

「まあ謙也がそういうなら……」

渋々とギリギリという音を奏でた手を離して綺麗顔は肩をおろした。

「あ、そや!コイツが俺の紹介したい奴!財前光!お前らのいっこ下やで!」

「「財前…………?」」


声を揃えて俺の名字を言った二人に眉をひそめた。
なんやねん。

「あの天才!!?」

「そーそー!!噂は知ってんやろ?」

「当たり前やろ!片っ端から色んなこと極めて、ある程度極めたら辞めてまう偏屈天才!!」

「え、変人天才って俺聞いたで!!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人曲がりなりにも俺のいっこ上らしい。
けど偏屈とか変人とかお前ら好き勝手言いなやこの野郎。

めっちゃくちゃ気分悪。


「オサム教師、いい加減ほんまに人酔いしそうなんで研究室に戻ってええですか」

「嘘つけ、めんどくさくて帰りたなったんやろ。大人をごまかそうやなんてそうはいかんで」

「俺も大人です」

なったばかりやけど。
心でそうつけ加えて顔をあげればジイッと俺を見てくる二人。

………観察するんはええけど、観察されるんは好きやないんやけどな。

はあ、と今日何回目になるか、いや42回目のため息をついて口を開いた。

「財前光。二十歳。趣味は研究。以上。特にあんた達に興味ないから自己紹介はいりません」

それだけ言ってコツ、と靴で軽く床を蹴った。
もうめんどくさくてしゃーないわ。いつもは少しの社交辞令はするけど今日は勘弁しろや。
疲れてんねん。

「…………なんや、そう言われると自己紹介したなるんやけど」

「…………同じく」

「…………………バカですかアホですかあんたら」

皮肉が通じんのかいな。

「俺の名前は白石蔵ノ介!日々完璧を目指す無駄嫌い!あんじょうよろしゅう!ンーッ絶頂〜!!」

「その絶頂が無駄です。エクスタシィっていう薬物があるの知ってますか。あんたは薬物の名前を連呼してるんです。いつか逮捕されますよ。あんた何きわめてんすか」

「うおおう、想像以上に厳しいツッコミ……!!ンーッ絶頂!!」

「一生よがれ」

この人の名前なんやっけ、もう絶頂先輩でええ気がする。

「俺は忍足謙也。座右の銘は浪速のスピードスター!!足の速さなら誰にも負けん!!!」

「スピードスターっていうのはスピード狂って意味です。流れ星を例えたいならshooting starです。あんたも絶頂先輩って何ら変わらないやないですか。スピードって薬物知ってますか。あと人間は早過ぎると時限を超えるらしいんで気をつけて下さい。そのまま帰れないなんてことがないように」

「あ……はい………」


まくし立てたところで、会場で誰かがぶっ倒れる音が響いた。

「………飲み過ぎやな」

酔っ払って倒れてしまった女の人に急いでスピード先輩が走っていった。
なるほど、あの人は医者の卵か。
治療が的確やし、ビンゴ。

女の人は担架で運ばれていったが、パーティーの支配人が頭を抱えていた。
なんや女の人がいなくなったから不具合でも出たんかな。
そういや今運ばれた女の人の指………

「どうしたんすか支配人?」

オサム教師が支配人に理由を聞き、そしてニヤリと笑う。

……………嫌な予感


「財前クン!トリでピアノ弾いてや!出来るやろ!?」

「ッ……………!!?」

出来るも何も俺の夢に直結しとるものや。
だけど、

「無理ですわ。俺ピアノできません」

ピアノの使い方が違う。
支配人が求めているのはショパンやバッハが奏でる音楽。
俺はそっち系ができない訳じゃないが、あまり得意じゃない。
どちらかというと、

「オリジナルでええから!」

「な……!!」

驚いて目を丸くした俺に、オサム教師はニヤリン、と笑って囁いた。

「お前の夢って音楽関係やろ?いつも無意識にリズムをとってんの知っとるんやで。安心しい、俺しか知らん」

「………………………」

「財前クンの返答によっちゃ大学中に広まるで」

脅 し か こ の 野 郎


夢は、自力で叶えたい。
天才っていう肩書なしで叶えたいから秘密にしとるんや。
コツコツとつくった曲を音楽業界に送って。
最初は聴いてもらえずに突っ返されたが、最近は少しずつ評価されるようになったんや。筋はある。って。

もう、しゃーないッスわ。



「……分かりました」

「おうありがとな財前クン!そしてスマン!!」

「………?」

「ここに聞いてもうた奴二人居たわ!!」

少し困ったように言ったオサム教師の背後には『てへぺろ☆』とでもいいたげな絶頂とスピード。
おいスピードいつの間に戻ったんや。

………嫌な予感二回目や。

「とりあえず、ほら!」

ぐいぐいとオサム教師に押され、仕方なしにピアノに触れる。
あ、なんや降りてきたかも。

「ふう…………」

トントンとリズムをとって、思い切りバンッと叩いて会場に響かせる。

しん、とした会場。
支配人が心配そうに見てきたが構ってられん。

俺の世界や!!!

指を滑らせ音を奏でて会場に広がるようにテンポをうまく上げ下げして。
そんな奏でる音が大好きやねん、俺。

気持ち良くて仕方ない。
まるで、楽園や――――――














ポン、と最後に響かせと楽園終了のお知らせ。
と、わっと広がる拍手。
拍手は別にイイけど評価されたってことなんやろか。
なら良かった。

ふう、と息をついてピアノを片した。

そのままぐらつく身体に鞭を打って会場の外に出た。
いい加減、疲れたっすわ。

「お疲れ!」

ひた、と冷えた缶を頬に押し付けたのは、スピード先輩。

周りに人は居ない。

「………オサム教師と絶頂先輩は」

「何や久しぶりに会うたんやから酒盛りしよ、って買い物に行ったで。俺は財前を誘うように頼まれてん」

「お断りしますわ」

「俺まだ誘ってすらいないのに!!?」

喚くスピード先輩に眉を寄せる。
喧しいんはオサム教師でたくさんや。

「な!行こうで!!」

ギュッと手を握られと肩がびくつく。
顔を上げれば真っ直ぐな目をしたスピード先輩。



………………?



何これ。
胸に痛みが走った。胸骨圧迫みたいに痛い。
てか心臓の音が大きいし早い。
血の周り方が異常や。勿体ないんやけど。
心臓の動く回数は決まってんねん。それがこんな早うなったら早死にする。それはアカン、落ち着けや俺。

なんに、落ち着きない。

これって、アレか。
身体があんまりにも俺が健康やから調節しとんのか。
なるほどOKよう分かったで。

「……………今日だけっすわ」

「ほんま!?おおきに!!」

目の前のスピード先輩が満面の笑みを浮かべた瞬間、目の前に星が散った。
血が熱くて元気で異常や。
顔に信じられんくらい集まりおった。
いつもと比べて対比いくつやろ。
あれ、上手く考えられん。
目の前のスピード先輩で頭いっぱいや。
何でこんな異常な興味が湧くんや、どうしてこうして意味分からん。
まさか自分が分からんくなるやなんて、やっぱりまだまだ人間って面白い。その括りに俺も入れるやなんてほんまに面白いで人間って。

面白いねん、けど。


なんや、ここにいるスピード先輩がいっちゃん興味ある。
知りたいって思う。この人はそういや雰囲気があるんか……?
けど俺最初に会った時は全くそんなん感じひんかったし。



とりあえず人間って面白いねんな。



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