小説しょうとtake | ナノ

へたれな仁王君


「やっほ〜〜!!」

ガラッと3Bのドアが開いて、軽快な足取りで寄ってくる女生徒、峰崎星衣。
そのままブン太と俺と………赤也がいるところに一直線。

足取りを緩ませずに、少し顔を引き攣らせた赤也にダイブした。

「本当カワイイなもー!私の幼なじみは!!なんなの?このワカメなんなの?人間の神秘ってヤツ?とりあえずカワイイから飴をあげたいケド持ってなかったブンちゃん寄越して赤也にあげるから!!」















「……………………嫌に決まってんだろぃ。それより赤也離してやれ。首決まってる」

「……………わぁ」

「わ、『わぁ』じゃない……ッスうぐッ」

「うわぁぁぁ赤也ァァァァ!!!」

「…………………」

三人が騒ぎ出したのを見て、ゆっくりと立ち上がって俺は3Bを出る。
目指すは俺のシェルター柳生さん。

また、慰めてもらわなくては。





















俺の好きな女子が、最初から他の男にしか目に入ってない(しかもその男とは幼なじみ)というのに、この話は成立するのだろうか?
もちろん、応えはNOだ。



















「……………またですか」

「じゃって柳生さん……」

ぐすぐすと鼻を鳴らし、仁王は柳生に向き合っていた。

「…………そのまま場にいれば話に加われるでしょう?」

「無理じゃ。振られる話は『赤也が如何にカワイイか30文字以内で述べなさい』じゃ。ブンちゃんは赤也の悪口いって流すけど、俺には無理じゃ。アイツの前で赤也の悪口いって印象下げたくなか。」

「…………へたれ過ぎです仁王くん」

「なんとでもいいんしゃい!俺のシェルターがっ」

「…………それも悪口になっていません」

というかシェルターってどういう意味かわかってます?
と柳生に聞かれて、俺の防護壁と言ったら心底呆れた顔をされた。
ひどい、泣きそう。



「少しはアタックしてみたらどうですか。峰崎さんと切原くんは幼なじみですし、峰崎さんが切原くんを見る目は弟を見るような目ですよ?」

「なぁ柳生………」

「はい?」

「最近、近親相姦が流行ってるって知っとる?」

「………………………」

流行りモンなんだ流行りモン。
女子って確か流行りモン好きだったよな。
今度参謀に聞いておこう。


「………私なんかで良ければ、いつでもシェルターになって差し上げます、仁王くん」

ものっ凄く可哀相な者を見る目で柳生に言われた。

何故だろう。
凄く傷ついた。














「つか仁王って星衣来るとすぐにいなくなるよな?何でだよぃ?」

俺とブン太しかいない休み時間。
ブン太にタイムリーな質問をされ、俺は柄にもなく顔を引き攣らせた。

「…………耳鳴りが酷いから」

「ああー。確かにアイツがいるとうるさいもんな。分かるぜ仁王」

ウンウンと同意されて曖昧に頷いておく。
少し、俺はブン太がうらやましかったり、する。
あんなに自然と峰崎と話すなんて、憎たらしい。

「じゃ、俺はこれで」

「は?次の授業ばどうすんだよぃ?」

「サボりじゃ、サボり」

机に当たらないように教室を出て、目指すは屋上。
ひなたぼっこがしたい。





















屋上の給水塔で、峰崎のことを考える。
いつ、なんで、峰崎に惚れたのかは、覚えとる。



『仁王。これあげる』

『……?赤也にあげるんじゃなか?』

差し出されたのは、甘そうなカップケーキだった。
そういやあの頃から峰崎は赤也が大好きだった。

『違うよ、仁王に。今日、朝ごはん食いっぱぐれたって聞いたから。それで午前は頑張って。甘いもん、嫌いじゃないでしょ?』

俺は、甘いもの嫌いというレッテルがあった。
だけど、別に嫌いな訳でもないし、ブン太の影で隠れてるだけで、甘いものもちゃんと食べている。
それを、見ててくれてたことが嬉しくて。
少しずつ峰崎星衣という存在に興味を持って、目が離せなくなった。
いつの間にか、あの鈴が鳴るような声で、仁王、と呼ばれるのが好きになって、

「仁王!」

だけど峰崎は幼なじみの赤也のことが大好きで――――って、

「…………峰崎!?」

「スルーしないでよっ。寂しいじゃんかっ!!」

「お、おん……てか、何でここにおるんじゃ?」

今は絶賛授業中な訳であって。
ココにいるということはサボっているという訳で。
結構真面目な峰崎が、サボるなんて、珍し過ぎる。

「……仁王に、用があるんだ」

「俺?」

不思議がりながら言うと、コクリと峰崎は頷いた。

「仁王ってさ、私のこと、嫌い?」

「………なんで、」

「だって仁王、私が来るとすぐにいなくなるし……嫌われてるのかな、って」

少し落ち込む様子を見せる峰崎に内心慌てる。
むしろ嫌ってるどころか、俺は峰崎が好きなのだから。

「別に嫌いじゃなかよ。ただ、おまんが来るとの。ただでさえ煩いブン太と赤也に混じって更に煩くなるから居にくいんじゃ」

「…………そ、そうなんだ」

ちょっとポカンとしている峰崎に、少し罪悪感。
本当は他の男と仲良くしてるのを見て傷つくのが嫌なんですよ、とは口が裂けても言えない。

「じゃ、私のこと好き?」

「!!?な、なに言っとう……!?」

思わず赤面して言うと、峰崎は嬉しそうに笑った。

「あはは、仁王可愛い!私は仁王のこと好きだよー」

ニコッと微笑んで爆弾投下。
しばらく正常な判断ができるか心配になった。

「じゃ、静かにするから時々話にきていい?」

「…………勝手にしんしゃい」

「まだ照れてるの?カワイー」

ぷいと横を向いてふて寝の態勢。自分が少しへたれなのは分かっているが、可愛い、は嫌だ。






「てか、私、仁王と話したいからわざわざ赤也とブンちゃんがいるとこに行ってるんだよ?自然に仁王と話せるように」

ぱちり、と覚醒してガバッと起き上がる。
慌てて峰崎の方を向くと、今度は峰崎がそっぽを向いていた。

耳が、赤い。


「…………峰崎」

「やだっ」

何か言う前に拒否られるとどうすればいいか分からなくなる。

「………峰崎?」

とりあえず再度名前を呼ぶ。
ちらっとこっちを見て峰崎は不満そうに言った。

「仁王だけじゃん。、私のこと名字で呼ぶの。だから、やだ」

そういって、またそっぽを向いてしまう。
というか、之は、あれか。
名前で呼べという、意思表示か?

「………………め、」

ドキドキして、心臓が破けそうだ。

「め、い……?」

「…………ん。」

小さく返事した星衣が、可愛くて、思わず星衣を後ろから抱きしめた。

「にっ、仁王?!」

「す、すまん…じゃ、じゃけど、このまま、居させてくれんか?」

「…………いいよ」

照れている星衣は殺人的な可愛さで、更にギュウッと抱きしめる。
シャンプーの仄かな香りがした。

「……………………仁王」

「…………ん?」

「こうやって、抱きしめてくれるってことは、何か、期待していいんだよ、ね?」

怖ず怖ずといった風な星衣に、小さく頷く。

「……………俺も、嫌がられない、ってことは、期待、するぜよ」

「………うん、して、いいよ」



堪らなくなって、星衣を背中から前を向かせる。
顔が赤らんでいて、とても可愛かった。

「星衣…………」

そっと星衣の頬に触れる。

「仁王………」

じっと見つめてくる星衣。
俺はそっと―――――











星衣に抱き着いた。








「仁王、」

「…………ん?」

「普通、今のはキスする場面だよ」

「しゃ、しゃーないじゃろ!恥ずかしかったんじゃ!!」

前から抱きしめただけ、成長したと思ってくれ。



「はは、本当可愛いなー仁王って」

「…………うっさいぜよ」








5時間目が終わるまで、俺らはずっとそのままでいた。




















「え?赤也?そりゃ可愛い幼なじみだとは思ってるけど、それ以外でも以下でもないよ?」


「…………えっ」


「それよりさ、仁王って私のことどう思ってるの?どんな感情なの?」

いきなり目をキラキラさせて可愛く言ってくるんだから堪らない。

「あはっ、顔真っ赤!ペテン師が台なし!!でもそんな仁王が私は恋愛感情として、凄く好きだよ」

ニッコリ笑って言った星衣。
コイツには本当に敵わない。

「…………じゃよ」

「え、なに?聞こえなーい」

「ちゃんと、恋愛感情として、星衣のことは、ずっと、好いとぉ………」

途切れ途切れ一生懸命言ったら、本当に嬉しそうに星衣は笑って、

「よくできました!!私も大好き!!」

という何とも嬉しい言葉と、頬からちゅ、という可愛らしい音を響かせた。










今度こそ俺は、思考が停止した。





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