小説しょうとtake | ナノ

観覧者


「見てや白石!あそこ観覧車あんで!!!」

白石と謙也で少し遠出をしていた時、人も少ない電車内で謙也が窓の外を指差した。

「ちょお落ち着けや謙也。観覧車なんてそない珍しいもんやあらへんで?そない騒ぐコトやないやろ」

白石が電車内であることもあって謙也を宥めようとするが、謙也は目をキラキラさせるばかり。

仕方なしに白石は周りにいる数少ない乗客者に頭を下げた。

「つか何でそんな目をキラッキラさせとんねん。謙也はそない観覧車好きやないやろ?」

あの浪速のスピードスターがあんなゆっくり周り、ゆったりと景色を楽しみモノを好きなはずがない。

「ふふん!わかってないなぁ白石!その脳は飾りかっちゅー話や!!」

若干イラッとした白石だが、一応借りにもかわいい恋人の謙也。戯れ話にも付き合うのが彼氏的な自分の役割だ、と自身に言い聞かせ、謙也の話に耳を傾けた。

「観覧車があるっちゅーコトはそこは遊園地!遊園地と言えばジェットコースターや!!」

「……………」

「ジェットコースターがあそこにあるんやで白石!!!」

目をさらにキラッキラさせて謙也は観覧車を指さす。

白石ははあぁ、と盛大に溜め息をついてこの恋人の間抜けさに頭を抱えた。

謙也はかわいい。見た目というか性格が。喧しさを感じる時もあるが、それも自分の下でいる時の喧しさ−−否、喘ぐ声の喧しさは愛おし…ゲフンゲフン。まあ、白石は謙也の喧しさは嫌いではない。

しかし、謙也が期待している『ソレ』はそこにはナイ訳で。

「…行こか?」

それを知りつつ謙也を誘う白石もたいがい性格が悪かった。

「ホンマ?!じゃあ行こうで白石!!」

そういって頷いた謙也に白石はほくそ笑みつつ観覧車に一番近い駅に降り立った。

−−−−−−−−−−−

「………」

「♪」

「……………」

「♪♪」

「………………………」

「♪♪♪」

「…………………白石」

「なんや?」

「遊園地ちゃうやんけ!!!つか『♪』やめや!!腹立つ!!」

ビシッ、と謙也が指差した観覧車。その観覧車は少し大きな『公園』の所有物。周りには謙也の期待したソレ、ジェットコースターの見る影もない。

「謀ったな白石!!遊園地なんて嘘つきおって!!!」

「なに言うてんや謙也?俺は『行こか?』ゆうただけで『遊園地に行こか?』なんて言ってへんで?」

ニヤニヤ笑いつつ白石は謙也を見る。
思った通り、悔しそうに地壇駄を踏んでいる。

「まあせっかくやし、乗ろか?観覧車」

「なっ!!誰が乗るっちゅーねん!!こないなモン!!」

「……あのロマンチストな忍足家の人間とは思えんセリフやな」

「俺とゆうしは違うっちゅーねん!!」

「いやいや、謙也もたいがいロマンチストやで?」

白石と謙也が初めてキスした時、それが事故チューだったからか、あまりのロマンのなさに謙也は怒った。(白石的には事故チューでもできて嬉しかったのだが)

初キスはそういう雰囲気になり、なおかつロマンチックな夕日が眺められるような場所に決まっている、と延々と語られ(乙女かっちゅーねん)、白石は仕方なしにそのようなシチュエーションをつくって謙也にキスをしたのは記憶に新しい。

その時の謙也ははにかみながら

俺の願い叶えてくれたんやな…

と甘えてきたので当然押し倒した。
もちろん本気で殴られ、しばらく謙也の冷たい視線を受け続けたが。

まあ、そんな謙也のようなロマンチストは観覧車なんて、かなりポイントが高いように思えるのだが…

「ノースピード、ノーライフや!!」

そう。
謙也はバ…ゲフンゲフン、スピードバカ(あ)。

のろのろと時間を過ごす観覧車なんて嫌いなのだ。だが白石もそこは心得ており、

「なんや謙也。まさか高いトコが苦手なんか?」

と、謙也の負けず嫌い魂を刺激する。

「なっ…!!」

「そうか、それは知らんかったなぁ。まあ、ヘタレな謙也が苦手なもんに乗れるはずないしな。しゃーない、帰ろか?」

にこ、と人の良さそうな顔をして、踵を返した白石の背中に思わず謙也は盛大に叫んだ。

「だっれがヘタレやねん!!!そこまで言うなら乗ってやろうやないかい!!!!」

「………そか。なら乗ろか??」

くる、と観覧車の下の従業員さんに
中学生二人〜
といってサクサク話を進める白石に謙也は呆然としてから、自分が嵌められたコトに潔く気づいたのだった。

−−−−−−−−−−−

「………」

明らかにイライラしてます、という態度で観覧車内にいる謙也。
それにクスクスと笑いながら景色を眺める白石、に謙也は盛大にイラついていた。

「何やねん本当…」

くそ、イライラすると思いながら謙也は外に視線を移す。

が、

「くうぅ…!!」

あんまりののろさにさらにイライラが増す。もうドアを開けて羽ばたいてやろか、と危ない思考になりかけた時に白石の口がゆっくりと開かれた。

「なぁ、謙也。そないにイライラすんなら観覧車を早く感じさせる方法教えたろか?」

「な!?そんな方法あんなら早く教えろっちゅー話や!!」

もちろん謙也はすぐにその話に飛びついた。

「この観覧車の回る時間は30分でな、ちょうど今5分たったトコや。やからな…」

観覧車が回り切る前に百回キスしよや。

「…………………は?」

白石が言った言葉に謙也は目をしばたかせる。

ひゃっかいきすしよや?

「な、ななな、なにゆうてんねん!!!」

ようやく意味を悟った謙也は叫ぶが白石はどこ吹く風。

「えぇやん密室やし。それとも下に行くまでに何回イケ「受けてたつっちゅーねん!!!」

こんなトコで襲われるなんて嫌だ、と慌てて言った謙也は5秒後、この言葉を後悔するコトになる。

「っ…!!」

最初はゆっくりとおでこに一回。次に頬。その次に瞼と白石はキスをふらしていく。

しかし妙なこっぱずしかに謙也は顔を少し背けてしまう。
そんな謙也の耳にキスをわざと音をたててキスした白石は色気ある声で囁いた。

「百回いかんかったら次は30分で何回イケるかベッドで試すで…?」

「!!!??///」←5秒後の後悔

ぼっと顔を真っ赤にさせて謙也はぴたりと顔を背けるのをやめた。

それに白石はほくそ笑み、さらに謙也にキスをおとしていく。

『76…77、78…79…80!!』

やっと80台!!と謙也が思った瞬間ぬる、と口に白石の舌が滑りこんできた。

「ん…!!」

くちゅくちゅと長い長いキスをされ解放される。

「しら、いし…」

「長いから二回分とかナシやで謙也?一回は一回や」

く、と先に思ったコトを言われて謙也は形いい眉をしかめた。

「はっぁ…!!」

何回も深いキスをされて謙也は苦しげにする。それに満足した白石はまた謙也の耳にキスをした。

それにん、と肩を跳ねさせた謙也に白石は囁いた。

「なぁ謙也。キスってする場所によって意味があるんやで…?」

「は…?」

真っ赤な顔で見上げてくる謙也はいやに扇状的で、白石はごくり、と唾を飲んだ。

「例えばおでこは友情…」

ちゅ、とおでこにキスをして白石はまた囁く。

「手の甲は尊敬やったかな…?」

ちゅ、と手にキスをし白石はにこ、と笑う。

「もちろん唇は愛情」

ちゅ、と軽いバードキスをして白石はゆっくりと謙也の首に噛み付くようにキスをした。

「ん…!?ッ…!」

思わずぴくぴくと反応した謙也に白石は囁く。

「手の平は懇願。瞼は憧憬。腕の首は…欲望。耳は誘惑…確か頭にも意味はあるんやで」

「……?じゃ、ぁ」

それ以外は−−?と暗に聞く謙也に白石はキスマークがついた首を見ていった。

「それ以外は…狂気の沙汰」

そういってまた首にキスする白石を慌てて謙也は引きはがした。

「な…!?な…!?」

ふ、と笑って白石はゆっくりと謙也から離れた。

「97回…間に合わへんかったな」

「…………え」

謙也が戸惑った声をあげた瞬間、観覧車の従業員さんの元気な声と共にドアが開かれたのだった。

−−−−−−−−−−−

観覧車から降りてベンチに二人腰を下ろすと謙也は恨めしげに白石をみた。

「し〜ら〜い〜し〜」

恨めしい、と声を上げる謙也に白石はクスクスと笑った。

「なんやあと三回だったのが悔しい?」

「当たり前やろ?!このせいで俺はこの後…!!」

ブルブルと真っ赤な顔で睨む謙也はむしろ怖いというか、かわいくて白石はまた微笑む。一方的な約束でも約束を破らないのが謙也らしい。

「まあ、最初の5分はやってなかったからな。しゃーないやろ、許したる。おまけやで」

「ホンマ?!」

ほ、と息をつく謙也に白石はまた笑う。

「まあ、今三回キスしてくれたらやけど」

「ッ…!?///」

また顔を真っ赤にした謙也はキョロキョロ辺りを見回す。
そして誰もいないのを確認すると、そっと白石にキスするべく顔を近づけた。








瞬間


「先輩らキモいっすわ」

という第三者の声に二人揃って固まった。


「な…!財前…!?」

白石が驚いて振り向くと財前のほかにユウジや千歳、小石川がいた。

「は…!?え…?!」

いささかパニックになりかけてる謙也を気遣かってか小石川が声をあげた。

「す、すまんな二人の邪魔してもうて…」

「な、何も見取らんから安心するたい」

それに千歳は便乗し、そそくさと二人はその場を離れた。

「けっ、ラブラブなんが羨ましくなんかないで!!俺と小春だっていつかなるっちゅーねん!」

そう捨てゼリフを残し、ユウジもさっさと二人の跡を追った。

「あんたらホンマアホっすね。こないな場所でキスなんて」

「そっ、それはっ…///」
ますます顔が赤くなる謙也。ばつが悪そうにする白石。
そんな二人に更に財前は爆弾を投下した。








「つかあんたらどんだけキス好きなんすか。観覧車内であないして」






「「え…」」


「俺らあんたらの後ろゴンドラに四人で乗ってたんすわ。ミーティングしてたのに周りに女子が寄ってうざくて。そんで乗ったら、あんたらに気づいて…」

四人に、キスする場面をずっと見られていた。と

それを理解した瞬間、謙也の顔を情けないほど真っ赤になった。

「まあ、いいブログネタからいいっすわ。そんじゃお幸せに」

ぱ、と顔は見えないがキスしている写メをみせる光に二人はさあ、と青ざめる。

「ちょ「著作権に当たらないように顔は出てません写メ使いますから」

さら、と謙也の言葉を受け流し光は踵を返した。

そしてある程度いったトコで振り向き、今だ顔を赤くした二人ににや、と人の悪い笑顔を見せていった。
















「ま、観覧者には気をつけろっちゅーコトっすわ」

















観覧者
こないな時にうまいコト言わなくていいっちゅーに!!!







(もう二度と白石と観覧車なんか乗らへん!!!!!)



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