アルコール・アンコール!2
「けんやくん、ちょお部長となかよすぎっすわ。っちゅー訳でキスしてええ?ええよね?」
「いやいやいや待ちや光落ち付け頼むから落ちついてくれ、自分なんかキャラ変わり過ぎやない?え、何これどういう事?」
「やってかわええのに、こんなにかわええのに!へらっへら部長にくっ付いて…襲われてもええんですか!謙也くんこんなかわええのに!自分のかわいさと無自覚さ分かっとらん!!」
「んむっ……ん…ぅ…………ぷぁっ、な、何べん言えば気が済むねん!か、可愛い言われても全っ然嬉しない!!せやからはよ落ちついて、」
「うれしいって顔に書いとる!…俺にかわええ言われて、キスされて嬉しかったん?けんやくん、嬉しくて顔まっかになってしまったん?…あーもーほんまに好き、大好き…」
「あぁぁどうしたらええんやコレ!!」
…忍足謙也くん、現在嬉しいやら恥ずかしいやらで死にそうです。まる。
すっかり酒の力でパワーアップした光は俺の予想の範疇を超えて、斜め上どころかどっか異次元まで突っ走ってしまったらしい。その後何度も酒をあおっては、普段甘い雰囲気の時ですらよう言わんぐらいの台詞を新鮮なままお届けしてくる。要するにスピードと量が半端ない。俺の心臓が死にそう。
確かに俺が望んでた事なんやけど!嫉妬してほしいとか、少しでもええから人前でも恋人らしく愛情が欲しいとか、望んでたけど!差が激しすぎて俺の心臓がついていかへんのや!!
ちなみに件の白石と他の連中はといえば、雑談したり食ったり飲んだりしながらこっちをにやにやと観察している。白石や千歳に至っては携帯でムービー取ってる始末や。後で覚えてろよ自分ら!
「どこ見とるんですか」
「ふぐっ!?」
「他の男見るとかゆるさへん、けんやくんは俺だけ見てればええんや」
……やっぱ凄く嬉しいし幸せ。現金な奴とでも何とでも言え、もうなんかどうでもええわ。
今の体制は光の脚の上に俺がまたがって、必然的に向き合うような状態。勿論自分からした訳やなくって、光に捕まった結果がこれや。
いつもと違って熱をはらんで潤む瞳、黒の眼光の奥にあるぎらぎらとした欲、綺麗な弧を描く唇は程良く血が回っていて、頬だって真っ赤。普段は余裕に満ちた表情も少し、ほんの少し、それを失ってる。
居酒屋やなかったら、白石達の前やなかったら、俺も素直にこの光の好き好きオーラに応えてやれんのかな。流石に今の光に求められるがままキスなんてしたら、俺どうなるか分からんもん。
………あれ?
…もしかして、光。
「なあ光、人前でくっ付きたがらんのって…何で?」
「?」
「俺、もっと人前でもくっ付きたい。光の隣に居るんは俺やって、自慢したい」
今やったら言えるし聞ける、と思った。光酔ってるし!こんだけ酔ってたらきっと本音零しても、明日になれば全部忘れとるやろ、絶対。
光は俺の頬をするりと撫でてにっこにこ笑顔を浮かべた。…あかん、死ぬ。何この笑顔!何この笑顔!!何この笑顔!!!大事な事なので三回言ったで!
「けんやくんが、かわええから」
「おん」
「他の奴にかわええとこ、見せたないし。…それに、おれ、人前でもどうなってしまうかわからん」
「…お、おん」
「…そもそもけんやくんが悪いんや……無自覚やし天然やし!ごっつかわええし!年々かわいくなりよるし!浪速のスピードスターとかアホ丸出しでお人好しで誰にでも笑顔でにっこにこ信頼してついていきよって!誘拐されたらどないすんのや!こんなかわええのに!しかもテニスん時腹とか脚とか!脚とか!それでかわええ笑顔晒して、そんなん襲って下さい言ってるようなもんやろ!!あとたまにエロいのもあかん!あんたは俺をころす気なん!?めっちゃむらむらする!けんやくん大好きや!!!」
「ちょお待て何故そこでキレる!途中から意味不明やし!…お、俺も好きやけどっ!」
「要約するとけんやくんが可愛すぎるのがあかん!!」
「ついに俺の所為なったで!!」
光はその後も俺のどこが可愛いかとか、どれだけ周りに嫉妬してるかだとか、堰を切ったように言葉を吐き出し続けた。酒の力が無かったら聞けなかっただろう言葉の数々。
「おれは、けんやくんが好きやからっ……ひとまえで手出し、したくないんっすわ!!」
…とうとう酒がまわったのか、代わりに呂律と思考が本格的に回らなくなったらしい。
相変わらず痛いぐらいの視線が突き刺さる中、俺はもうどうにでもなれと身体を投げ出した。何時の間にやら俺を包み込めるようになった光の腕が背中に回って、ぎゅううと痛いぐらいに抱きしめる。
何回「かわええ」を連呼されたかは数えていないけど、とにかく嫌われてはいないし、人前で近付かないのは自分の理性がぷっつんしそうだから、らしい。それは俺にとっては本当に嬉しい殺し文句みたいなもん。えへへ、にやにやが止まらんわ。
吐息がかかるほど密着してるけど、今はその酒臭さも身体の熱さも全然嫌じゃなかった。
「ひかるー!大好きやー!!」
「おれもだいすきっすわー!はぁ…けんやくんかわええ……」
「あいつら録画中なの分かっとるんかなー」
「謙也も空気に酔ってるんとちゃう?…うっし、ここは俺が一発茶々入れて、」
「止めときユウジ、馬より怖い黒猫に蹴られて死ぬで…」
「ちょっとそこのお二人、何けんやくんの事いやらしい目でみとるん?」
「ほら来たあああああああ!!!」
ほら来たーって、光はお化けかなんかかいな。白石とユウジは何時の間にやら俺を庇うように睨む光の視線に気圧されて、相変わらず腹立つほど整った(割に中身は残念な)顔をぴくぴくと引きつらせている。こっそりざまあみろ、と思ったのは内緒や。
光は後ろ手で俺を守りながら二人を睨み続けている。他は知らんぷりをしたり、相変わらず録画や録音をしていたり。…その辺は光の黒い双眸には映らないらしい。どうも俺らを撮影していた事より、俺を見ていた事が問題…なんかな?
「あんたそーやって大学でもけんやくん見とるんとちゃいますやろな」
「おおお落ち付け財前…目が据わってて……なんや怖いで…?」
「そっちはガチホモやし」
「ガチホモちゃうわ!俺は小春に一筋っちゅーだけで、」
「あ゛?」
「ひいぃぃぃぃい!!!」
…おん、分かった。光は酒を飲むとよう人に絡むんやな、俺中心に。
しかも中々に酷い酔い方やから、この先気を付けなあかんな。記憶ぶっ飛んで何起きるか分からんし。…そう思いながらまたビールを少しずつ煽る、俺かて飲みたいもん。
ちらりと視線をやると光は白石とユウジを睨んでドスの利いた声を響かせている。…ちくり、と胸を刺すようなちょっとした痛みが走って、けど子供でもない俺はまた苦笑した。酒の力をそんなに借りなくたって俺は素直なんやなぁ、って。
せやったら素直になったろ。…そう思った瞬間やった、俺の耳にとんでもない言葉の羅列が飛び込んできたのは。
「あんたらにけんやくんゆずれないっすわ……実はごっつエロいとか甘えただとか、ふとももの付け根にキスされんのが好きやとか、脚なでられるのによわいとか、俺だけが知ってればええんや!!」
「ぎゃああああああああ何言うとんの光うううううううううう!!!!!」
「けんやくん内ふとももの付け根のあたりにホクロふたつあんねんぞ!自分らしらんやろ!!!」
「お願いやから堪忍してええええええええええっ!!!!!!」
俺の素っ頓狂な叫び声と、暴走する光の自慢話(?)が交差して、何故か周りがいいぞもっとやれの嵐だった。光はそれすら聞こえないらしくただひたすら、白石とユウジに向かって怒鳴っている。指をさして、立ち上がって。ついに後ろ手で俺に触れている事も止めてしまった。
…さて、俺かて男や。好きな人にずっとこっちを見ていてほしいとか、他の奴にばっかかまけないでほしいとか、自分の声だけ聞いていてほしいと思う時だってある。
いつも俺ばっか好きみたいで、ようやっと光も俺の事を大事にしてくれてるんだと再確認できたんに。光のアホ。……立ちあがって、大好きな背中を睨み、がっと肩を掴んで回す。
数年前までは俺が少し首を下げてしていた事。けど今は、俺が少しだけ背伸びをするしかない、キス。
ほんの少し触れるだけの中学生みたいなキスやけど、光の目をまんまるにするには十分やった。
「お……おれのことだけ見ててや!光のアホ!!」
「け、んや…くん……もっ……がまんできひん!アホはどっちや!!」
頭に手を回されて、貪るような激しいキス。舌を絡めて、息を絡めて、愛も絡めて。
アルコールの味とにおいがして頭がくらくらしたけど、うっすら瞳を開けたら余裕のない光の、愛おしくてたまらないとでも言いたげな瞳と目が合って、それだけで幸せな気分やった。
ふわふわするのはアルコールのせい?キスのせい?しあわせのせい?
…光と一緒に居るから、なんやろなぁ。
『ほなもう一回!もう一回!』
「…って、自分ら悪ノリも大概にせえよ!!」
「部長のほう見るとか浮気やで謙也くん!!」
「ああもうややこい!!」
白石に見せられたムービーを見て光が吹っ切れて、人前でもちゃんと触れてくれるようになったのは、それから数日後の事。俺も光も顔を真っ赤にしながら、もう人前では酒を控える事を固く決意した。
ちなみにそのムービーは何故か、光から白石への誕生日プレゼントになったとか何とか。
俺に悪い虫が寄らんように見張る…という条件でムービーが残された事を、俺はまだ知らない。
――――――
プラネットハニーのきとらサマに全力でお願いして相互して貰ってまさかの相互記念という名の素晴らしい小説を頂きました。
酔っ払いネタだけでリクするなんて失礼だっ!!
とか勝手に思って光を荒ぶらせて欲しいというおまけ的なリクをしたら叶えて下さいまして……
もう本当にありがとうございました!!
生涯の宝物です!!