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アルコール・アンコール!


※大学生パロ、酔っ払いネタ!





例えばなんやけど、俺に付き合ってる恋人がいるとする。

その恋人は中学生の頃から…もう7年ぐらいの付き合いや。進学を繰り返し、今や違う大学に通えど同じ家に帰る大切な人。

けどその恋人は普段は冷たくて、毒舌で、どっちかといえば俺が振り回されてばかり。


俺ばっかが好きなんとちゃう?なんて思う事も毎日のよう。人前やと殊更、近寄ってすらくれなくなる。例えそれが、俺らの関係を知らん奴じゃなく…関係も気心も知れた、中学時代の部活仲間の前だとしても。



「けんやくん…アホかわええ……アホ…ほんま好きやぁ…」



誰か、冷水持ってきてくれへん?冬の雪を溶かした、とびきり冷たい奴。

で、混乱してる俺の頭にぶっかけてくれ。頼むから、笑っとらんで白石頼むからあぁぁぁぁ!!






アルコール・アンコール!!





そもそもどうしてこんな事になったのか、それは遡る事一週間前。

充実した医大生ライフを満喫していた俺は、同じ医学の大学に通っていた白石に声をかけられた。…とか言っても毎日一緒に過ごしとるんやけどな。中学生の頃から相変わらず、白石は一番の親友や。

白石が声をかけてきたのは、飲み会の誘い。普段はそういったノリを嫌う(飲み会と思ったら合コンで、女子に囲まれるなんて事が多かったからな)白石がどうしたのかと思えば、あの金ちゃんが20歳になったから、と言う。

あの純粋で天真爛漫な金ちゃんが成人…という事実に時の流れの恐ろしさを実感しながらも、俺は二つ返事で了承した。大分前にあった金ちゃんの誕生日も直接祝えてなかったし、丁度いいと思ったのだ。

そして俺は携帯のメールで、同棲中の恋人…財前光にも声をかけた。答えはイエス。何だかんだであいつも仲間が大好きなんや、と胸が暖かくなって。白石と二人で笑って、残りの面子にも声をかけた。



結局なんだかんだでいつもの面子全員が揃う事となり、飲み会当日。



「酒やー!酒持ってこーい!!」

「…なんでユウジ既に酔っぱらっとるん?」

「…ちゃうで謙也、あれは小春居るからハイテンションなだけや」

「にしても相変わらずこの面子で揃うとかほんまキモいっすわ」

「とか言いつつ財前も参加しとるばい」

「わーっ!!たこ焼きやー!なあなあ白石、これ全部食ってもええのー!?」



そりゃ、仲良しな面子が揃えばどんちゃん騒ぎ。とんでもなくはしゃぐのは目に見えていた。

俺もテンションが上がって騒ぐし、他の奴らやって騒ぎ放題。皆成人したとあって酒をガンガン頼む奴もいれば(8割はユウジや)、皆昔と違って金に余裕ができたからたこ焼きをガンガン頼む奴も居る(当然8割金ちゃんの為や)。



「…部長、他の連中うっといんでさっさと乾杯の音頭とってください」

「せやな。…皆グラスは渡ったかー?」



その言葉に全員がグラスを片手にする。席順は決まって無かったけど相変わらずラブルスは隣同士で、金ちゃんの横は白石が陣取って、俺は財前と白石に挟まれる位置や。



「ほないくで…四天宝寺中男子テニス部!んんーっ、絶頂!!」

『かんぱーーーーーい!!!!!(っすわ)』



そうして幕を開けた同窓会ならぬ男子テニス部OBの飲み会。

乾杯と同時に千歳が焼酎をおかわりした時には、全員揃ってツッコミを入れた。流石四天宝寺の仲間や、息は相変わらずぴったりやで!



「…あれ、光あんま飲んどらんの?」

「謙也さんが酔っぱらった時に連れ帰るの誰や思っとるんですか」

「わあああすまんて!普段は平気やってんけど」

「なんや恋人に気ぃ遣わせおって…年上の癖にみっともないなー謙也は」



うっさいわボケ!と白石の頭を叩くと、いいツッコミやで謙也!ときらきらの笑顔で返された。いつもの事やけど何やねんコイツ、このノリん時はほんまに面倒臭いわ。

白石に絡みつつちらり、と横を見やる。光は相変わらず特に気にせず、もきゅもきゅとたこ焼きを頬張っていた。…普段かっこええ癖に可愛い表情見せんなや、小春に狙われても知らんで!と内心毒づいても届きやしない。



…俺と光は付き合っている。俺が中学三年生の頃からのお付き合いやから、結構な年月になる。

大学生になってからは同棲も始めた。…けど光は昔も今も、ちょっと冷たい。二人きりの時、甘えたい甘やかしたい時はでろっでろに甘い癖に、普段は冷たい視線に呆れの溜息と毒舌ばかり。

特に人前じゃ絶対に恋人らしい事なんてしてくれへん。最近は手を繋ぐ事はおろか、隣を歩く事すら「ウザいっすわ」の一言。そりゃ大学に入って環境も変わったし、大学の連中に見られたくないのかも知れへんけど。

ひかる…俺かて不安で泣きたくなる時、あるんやで?



せやから俺はよく白石と飲みに行く事が多くなった。…あわよくば嫉妬してくれへんかな、とか思いながら。

けど光全然嫉妬してくれへんし!!結局俺が酔い潰れては迎えに来てもらい、後からぐちぐち毒舌を吐かれるというのがオチやったりする。…光のアホ!恋人の気持ちぐらい分かってや!



「光のアホー!少しは嫉妬してくれたってええやんかー!!」

「あーはいはい、それ部長と飲みに行く度に言ってますよね。…あ、遠山ウーロン茶こっち」

「おん!これでええー?」

「あ、金ちゃんそれ」



…此処で一つだけ言っておく。俺は、光の酔っぱらった姿を見た事が無い。

光は飲み会に行っても酒を飲む方やないし、そもそも人付き合いが悪い。それに酔っぱらって面倒をかけるのは決まって俺の方や。全部妬いてほしくての空回りなんやけど。

やから俺は、光が酒を飲んだらどうなるかなんて知らない。



そして俺はすっかり失念していた。金ちゃんは二十歳になったばかりで、酒に手を出した事が無い。

金ちゃんに取ってもらった瓶のラベルを確認しないまま、光はそれをコップに注ぎ、一気に飲み干した。



「―――――!!?」



ふらぁ…、と傾いた身体。そのまま後ろに倒れて、ガンッと柱に後頭部をぶつける黒髪。




「ざ………財前んんんんんん!!!??」

「ぎゃあああああ光大丈夫かああああああ!!!」

「………ら……らいじょーぶ…っすわ……」

「…………あれ、財前……?」



もしかして、酔っとる?……白石のその言葉に、何故か全員が沸き立って。

頭にたんこぶが出来てないかと心配する俺と、光の口にしたグラスの匂いを嗅ぐ金ちゃんと(うわっ、これお酒やったわー!堪忍な財前ー!とか叫んどった。金ちゃんやから許すけど、白石だったら許さん所や)、周りで財前コールをする酔っ払い共。皆酔うの早過ぎなんとちゃう?

それに光がこんなに酒に弱いなんて思いもしなかった。まさか、ただのビール一杯で後ろに倒れるなんて。…大丈夫かと声をかけながら頭を擦ってやってると、突如として手首を掴まれ、思わず小さな悲鳴を上げてしまう。

…なんて事は無い、光が赤い顔してこっちを見てただけ。それだけなんやけど。……なんっちゅーか、その、目が……目がとても、怖い。そう、これは性質の悪い酔い方をした奴の、目。



「けんやさん、」

「…は、はい、何でしょうか光くーん…?」

「…………………」



俺の手首を掴んで視線は合わせたまま、すっかり俯いて黙りこくってしまった光におかしいなと思い、首を傾げて顔を覗き込む。

高校に入ってから俺よりも成長して、俺よりもいくつか目線が高くなった財前。やから下からのぞきこむのはそんなに難しい事ではなかった。…覗きこんだ先にあったのは、ぎらぎらと輝く黒い双眸。

そして再び視線がかちあった瞬間、俺の身体は急激に揺れて熱に包まれる。頭と腰に回された手と、胸に伝わる心臓の音と、目の前にいた筈の人の姿が確認できなくなった事と。





「けんやくん…アホかわええ……アホ…ほんま好きやぁ…」





耳から全身をくまなく痺れさせるような甘い台詞。それを皮切りに、宴会の席は更に盛り上がった。



「うおおおおお財前のデレ来たああああ!!ようやく認めおったな財前!!何年待ったと思っとんねん、皆録音や録音!!!後で財前からかうでー!!」

「金ちゃんお祝いったい!!たこ焼き追加注文してもよかよ、今日はお祭りすっとー!!」

「やぁぁぁん二人とも超ラブラブ〜!しかも二人の時は君付けなのねぇ!」

「俺たちもラブラブやで小春うううううう!!!」



「ど……どうでもええから見とらんで何とかしろや自分らあああああああああああ!!!」




でないと俺が死ぬ!!羞恥で死ぬ!!!白石ヘルプ!!ヘルプ!!!

…悲痛な叫びむなしく、更に強まる力。光に抱きしめられたまま俺は顔を真っ赤にして、ちらりと視線を上にやった。…かちあった視線の先、光がにっこりとほほ笑んでいて…なんか色々と全部ぶっ飛んだ。



「…なに他の男のなまえ呼んどんねん、この尻軽」



…あ、俺地雷踏んだっぽい。





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