君を好きになった時
昼休み、いつもなら弁当を自慢の早食いで一気に平らげてからクラスメートと雑談したりふざけあったりしている筈なのだが今日はいつもとは違った。
ここは普段人が出入りすることなど全くない体育倉庫の裏。俺の周りには金髪茶髪でいかにも悪ですって感じの不良のお兄さん方3人。
俺、ピンチ。
「キミ、なんて名前なん?」
「…忍足謙也、です」
「ほな謙也くん、早速やけど10万貸してくれへん?」
今時カツアゲか。しかも10万、中学生が所持するような金額じゃないだろう。
勿論俺はそんな金額を所持しているわけもなくしかもお金どころか先ほど呼び出されただけであったから財布すら手元にない。
持ってないと言ったらタダじゃ帰してくれなそうだし、第一1円でも払ってしまったらカモにされて金を絞りとられるだけだろう。
こういう時は逃げるが勝ち、だ。
「すんません、今財布持ってないんで取りに行ってもええですか?」
3人に囲まれている状態から一人でも退けば逃げ出せる絶対的自信がある。そこらの不良なんかに追い付かれるわけがない。
例え付いて来ると言われたとしても学校外に出てしまえばこっちのもの。
「しゃあないなぁ。早よう戻って来いや?」
「おおき「なーんて言うと思ったか?」
「逃がさへんで?浪速のスピードスターくん?」
「っ!!!?」
通り名を呼ばれて驚いている隙に両側にいた奴らに肩を掴まれ壁へ押さえつけられる。しまった、と思った時にはもう遅く左足を思い切り蹴飛ばされた。
「ああ゛ッ!!!?」
「ははは、これでもう走れんなぁ」
痛みに顔を歪めながら折れていないだろうかとか走れなくなったらどうしようとかの恐怖で頭がいっぱいになった。
そんな俺の気を知らない不良達はこれから俺をどうしようかを考えているようだった。
こうなってしまったら殴られるのを覚悟していなくては。
「さーて…どないしたろうかな…」
「ヤっちゃえば?」
「ははっ、ええ考えやな。謙也くん顔かわええし」
「!!!!!」
ヤる、その言葉を聞いただけでサァァと血の気が引いていくのがわかった。
男同士で性行為をする時には受け入れる側がかなりの痛みと負担がかかると聞いたことがある。尻の穴を使うのだから当たり前のことなのだろうけれど。
「ちゅーか最初からヤる気やったし?なーんてな、ははは!!」
「最初から、そのつもりで…っ!!?」
「そうやで?金なんかよりも謙也くんの体のほうが魅力的やし」
「っやめろ!!!」
太ももあたりを撫でられ鳥肌がたって足をジタバタさせて抵抗する。すると足を縛られ動けなくされた。
尻の穴に男性器をいれられるくらいならば殴られたほうがはるかにマシだ。
ズボンのベルトに手をかけられ、もう駄目かと思った刹那――――
「ぐぁっ!!!!」
肩を押さえつけていた男が一人声を上げて地面に膝を着いた。
反射的に皆そちらを向く。そこにはテニス部の後輩、財前光が立っていた。
何故彼がここにいるのだろうかとかよりも先に助けが来てくれたという安心感で思わず涙が出てしまう。
「あんたら何してんすか?」
「邪魔せんとってもらえるかなぁ?今謙也くんと楽しいことしよう思うててんのやけど」
「謙也さん泣いとるやん」
「チッ…うっさいなぁ、あんた一人でどうにかなる思うてんのか?あぁ?」
「思うてますよ、この写真ケーサツに見せれば一発やし」
「写真ん?」
財前の片手のケータイの画面にはこの距離からでははっきりとは確認出来ないが俺を不良達が取り囲んでいる様子の写真のようだった。
不良達はぐ、と押し黙ったがリーダーらしき人物は財前を挑発するように続けた。
「ケーサツに見せる?そんなんあんたのケータイ奪ったったら意味あらへんやん?」
「俺が送信ボタン押したらケーサツに送られますよ。この写真」
「……チッ…」
すると不良は観念したように俺を解放し、その場を早足に立ち去った。
俺は気が抜けてしまって地面にへたれこんでしまう。
「大丈夫すか」
「…はは、腰、抜けてもうた…」言うと肩を貸してくれてつくづく良い後輩だな、と思った。
立ち上がる時に蹴られた足が痛んで思わず顔を歪める。
「…っつぅ…」
「歩けます?」
「なんとか…しばらく走れないやろうけど」
「…すみません、俺がもっと早よう来れてれば」
「財前のせいやあらへんよ」
財前は自分に責任を感じているようだったが助けてくれたという事実がなくても決して財前が責任を感じる必要はない。
心配そうな目をした端正な顔が真っ直ぐこちらを見てきて、心拍数が少しあがった。
なんだか恥ずかしくなって目線を反らすと不意に体が温かいものに包まれた。
「―――っ?」
「…無事で良かった」
「あ、お、おおきに」
気がついたら財前の腕の中にいてただのハグなのに妙に心臓がドキドキした。
空いた手はどうすればいいかわからず変に力が入ったまま腰の横にある状態である。
どうして心臓がこんなにも高鳴るのか、その理由がわからない。わからないのに俺の口からは自然に言葉が出ていた。
「…俺、財前のこと好きや」
「はっ、い?」
好き、と口にしたら途端に顔が熱くなっていくのがわかった。
何を口走っているのだろうと咄嗟に口を押さえて財前から離れると財前も顔を赤くしながら口を押さえていた。
「い、ま、俺んこと、好き、って、いいました…?」
「いや、っ……い、言った、な」
「え、ちょ…謙也さん、いきなりすぎ、っす」
「お、俺、なに言ってんねやろ」
はたから見たら男二人が赤面してテンパっているというなんとも異様な光景なのだろう。
当人達は今の状況にいっぱいいっぱいになっているため周りの目など気にはしていられない状態であった。
足が痛いのも気にならなくなっていた。
「すまん、い、今の忘れ、て」
「…無理、です」
「っすま「俺も、謙也さんのこと好き…っすわ」
「―――っ」
時間が、止まったような気がした。
「……どうしても忘れて欲しいっちゅーなら、なかったことにします」
「わっ忘れて欲しくない!!!」
「良かった……俺と、付き合ってくれますか?」
その問いに対する自分の答えなど、財前を好きだと自覚した今、分かりきっている。
すぅ、と深呼吸をして真っ直ぐ財前のほうを向く。
「…俺は、財前のことが好きです」
「ということは…ええんですね?」
「おん、よろしくお願いします」
言うと普段見ることのない財前の笑顔。
思わず自分も火照った頬を綻ばせ、しばらく二で笑いあった。
鬱丸へ
長らくお待たせしましたー!!!
光謙!!!
「謙也が可愛く光に惚れて思わず告白、光がテンパる」
というなんともおいしいシチュエーションをもらえて…
うほほいとかなりながら執筆していたはずなのになぜかとても時間が経っていたという事実
すみません
ていうかちゃんと指定されたシチュになっているかどうか不安でしかたないです
テンパってる光を書くのは初めてだったので新鮮で楽しかったです
気に入ってもらえるとうれしいです!!!!!