小説しょうとgive | ナノ

病名:急性ナントカ中毒4




「………思い出したか?」

「……………おかげさまで」

「そりゃよかった、でないと俺の腰がいたたまれへんわ」



…おん、そりゃいたたまれない。主に俺が。俺の頭が。今なら遠山の大車輪山嵐を食らってもええ…いや、食らうべきや。絶対自主的に食らうべきやと思っとる。たこ焼き奢るから今すぐ来てくれ遠山。

そんな俺の頭の中を見透かしたように「自殺はやめときやー」という謙也さんには、一生敵わないと思った。何でこの人こんなに笑顔なんやろ、それこそこの世の幸福をいっぺんに貰った!みたいな最高の笑顔や、謎すぎる。



「財前、ほんまに暴走しとったなー!」



……俺は思い出した。全てを。

謙也さんに最初に出会った時の事、謙也さんに一目惚れして探しまわった事、そして辿りついたゴミ捨て場で誰かと歩いてくる謙也さんに拾われた事、酒の力と嫉妬心で理性なんてぶっ飛んでしまった事、あまりにも謙也さんが好きすぎて暴走してしまったという事。

暴走した結果、文字通り大好きな謙也さんを襲ってしまったということ。



「…謙也さん、怒ってます?」

「流石にこれでも怒らないお人好しやったら、とうの昔に死んどるんとちゃう?」

「ですよねー…」



愕然とした。謙也さんはきらっきらの笑顔を浮かべたままだけど、俺はとんでもない事をしでかした訳で。

申し訳なさとこれからどうしよう、という思いに項垂れていると頭上でけらけら笑う声が聞こえた。…謙也さんや。俺が珍しく落ち込む様子を見て、朝の光を背に笑顔のまま。何で笑っとんのやこの人。



「俺の事好きなんは大いに結構なんやけど、いきなり襲うんはありえへんやろ」

「分かってますよそんぐらい……って、は?」



大いに結構。…謙也さんは確かにそう言った、相変わらずの笑顔を咲き誇らせて。

いやいやいやいやどう考えたって大いに結構なんて一言で済まされる問題やない。無理やり押し倒して襲って、そりゃもう男としては屈辱的な事のオンパレードのハズやったのに。男としてっちゅーか、人間としての。

頭の上に「?」ばかりを浮かべる俺に謙也さんは近付いてくると、赤い印が散らばった鎖骨に頬を擦り寄せてくる。………俺はどうしたんかって?…心臓が爆発しない訳がないやろ!!

謙也さんはふんわり微笑んだまま「んむ、」と小さく声を漏らして俺の鎖骨にキスをした。せやから何しとんのこの人!!何考えとんの!エロい、ごっつエロいんやけどむらむらすんのやけど!!また襲ってまうから勘弁してください謙也さん!!!



「けっ………謙也さっ…また襲ってまうから、そ、そういうの…!!」

「………やっぱ財前って俺の事大好きなんやな…鈍感やけど」

「は…はぁ!?」

「大した抵抗しなかった理由とか、そろそろ気付いてくれてもええと思うで?」

「け、謙也さんそれって………おわっ!」

ぼすん、とまるで俺を押し倒すかのように腰に手を回し、体重をかけてきた金髪。ふわりと霞むように香った謙也さんのにおいが鼻をくすぐる。

シーツの中で絡まるように触れあう体温のせいで一気に熱が集まる。まるで恋人に甘えるように抱きついたまま、くすくす楽しそうに笑うその表情に一瞬ときめいた、ほんまにこの人が好きやって再認識させられるぐらいに。

謙也さんは俺の腰に両腕を回して抱きついたまま、上目遣いで俺を見て、





「好きでもない奴にキスマーク仰山つけたりする思うんかこの鈍感」





俺、酔うてへんもん。……それは最大級、最上級の殺し文句にも等しくて。

思わず勢いで抱きしめた身体から小さな悲鳴が漏れて、それすら愛おしく感じた俺は形のいい唇に噛みつくようなキスをした。…抵抗は、ない。

何度も何度も繰り返して、腰に回した腕を離しては指を絡めたり。



「…好きな奴に無理やり襲われるとか、わりとショックやったりすんねんぞ」

「すいませんでした。……謙也さん、でも俺ちゃんと言うてくれへんと分かりません。鈍感やから」

「なっ……自分めっちゃ性格悪い言われるやろ…」

「素直すぎるとは言われますわ」

「嘘つけ!」




悪態をつきながらも触れあった温度はそのままに。ずっと密着しているから互いの心臓の音なんか筒抜けの状態で、俺はおろか謙也さんも緊張してるだか嬉しいんだか、心臓が跳ねまくっていた。



「……俺、初めて会った日に一目惚れした、と思う。男同士とか考えて仰山悩んだし…。でも会えないんがつらくて苦しゅうて、友達に片っ端から頼み込むぐらいに探しとった、から……その…」

「…はっきり言うてくださいよ」

「………お、俺は……」



金色が揺れる、朝日の下できらきら、きらきら。





「…俺は財前が好き!!」





謙也さんの表情は、瞳はうるうるで顔はまっか。ほんまにかわええ、この人。

…実にふざけた夢物語のようだと思う。お人好しと酔っ払い、拾い拾われ出会った男同士やのに。

初対面で互いに一目惚れして、片やストーカーまがいの事して、片や金持ち使って居場所探ろうとして。二回目の遭遇やっちゅーのに酒の勢いで(酔っとったの俺だけやけど)一線越えて、互いに好き好き言い合って。こんなん奇跡や、夢や、ありえへん。

けど事実目の前には謙也さんの愛らしい笑顔があって、夢ではないと知らせていた。

「……ほんまに中毒や、急性中毒」

「へ?…な、何がなん?」

「せやから謙也さん中毒や言うとんの。急性謙也さん中毒。俺酒飲んだらそうなるみたいっすわ」

「……あかん、嬉しくてしぬ、しんでまう」

「…そんな可愛い顔されたら襲いたなってまうやろ…ほんま謙也さん魔性すぎ」

「ひゃっ…!ちょ、財前!昨日散々やらかしたやろ!!」



するりと腰を撫でる手から逃げようとする身体を引き寄せて、そっと囁く。



「今度は酒の力無しで、ちゃんと抱きたいんっすわ」



…ねえ謙也さん、ええやろ?…謙也さんが俺の事大好きやって分かったから、遠慮なしに囁いたら案の定顔は真っ赤。力も抜けて「もーしらん」と小さく呟いて、俺に全てを委ねてくれた。

謙也さんはお人好しで、お節介で、アホで、年上で、金髪で、魔性で、かわええ人。

そんぐらいしか一目惚れした俺は知らんけど、それでもええ。俺は謙也さんに一目惚れして大好きになって、酒の力のせいで無理やりしてもうて、それでも受け入れられるぐらい互いに大好きで。

やったらこの先知っていけばええ。この先もっともっと、俺らは一緒に居るんやろから。






「謙也さん、好き。大好きっすわ」

「…俺の方が大好きや、財前のアホ」





朝日の下、すっかり酒の抜けた身体で謙也さんを抱きしめて、再びシーツの海に二人で沈んだ。

謙也さんと愛を深めた後、玄関のドアノブにかかっていたグレープフルーツジュース入りレジ袋に気付くのはまだまだ先のはなし。

…その後の謙也さんの行動ったら早かった、流石浪速のスピードスターといった具合やろか。電話をかけるスピード、文句を言う剣幕、顔を真っ赤にしながら電話口でぎゃあぎゃあと叫ぶ謙也さんを愛おしいと思った俺は相当重症や。

まぁ謙也さんの文句もなんのその、調子づいた従兄弟と御曹司の暴走は止まらへん。そのせいで俺の住処が30階建ての高層マンションに移る事になるなど、呑気にジュースを飲み干す俺は知る由もなかった。











――――――*


きとらサマが短編で貰っていいですよーといわれていたので奪ってきました。
テキストコピー大変だった……
けどもう何なのもう鬱丸のサイト頂いたものがキラキラ眩しい。

キリ番踏みまくってるのでまたリクできるしもう幸せ過ぎてなんか吐きそう。
光謙が口から出てきそう。

本当に幸せです!!これからもこんなサイトですが仲良くして下さい!!この度は相互ありがとうございました!!(本当に!!)



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