小説しょうと立海 | ナノ

便利屋闇医者街道!


柳生はかつてない、大きな闇の中にいた。

お人よしな柳生だったが、この時ばかりは、グレた。



齢23――――
遅すぎる反抗期が彼には訪れていた。



















『目標捕捉……距離にして150.364bにて。一秒2bとゆっくりとこちらに進行中。作戦を開始しますか?』

「ん〜……」

街中に、ひっそりとある薄汚れたビルの上に立っている男が一人。
耳につけたイヤホンマイクから流れる機械的な音声に、嫌そうに顔をしかめながら、あんパンをバクリとほうばる。


サラサラと揺れる銀色の髪は小さく括られ、前髪に至っては眉が隠れるか隠れないか微妙なラインを漂う。

しかし、男本来が持つ魅力は衰えるどころか、中学の頃より増している。

その男はハグハグとあんパンを食べながら街中を行く人間を眺める。
そして、ゆっくりと見えたターゲットが自身の瞳に映った瞬間、にたぁ、という笑みを浮かべた。

「作戦開始じゃ。バックアップは任せるぜよ」

『了解しました』

そして男は―――――齢23歳となった仁王雅治は、黒いフードをつけると、軽快な足取りでビルから降り立った。












「アアアアアアアア〜〜〜〜〜!!!!ムカつく!!ムカつく!!ムカつきます―――――――――!!!」

街道でいきなり叫んだ柳生に道行く人は迷惑でそうに眉を潜める。
それを元来悪い目付きで瞬時に黙らせる。

柳生がムカつきに苛まれている理由はただ一つ。
医師になるという重圧、周りからの期待、同期からの七光りという陰口。

それらに柳生は疲れていた。
そして、追い打ちをかけるようにストレス性胃腸炎になり、家族にはがっかりされ、情けないという声、同期からのざまあみろ発言。

















柳生は、キレた。












家族には縁切り発言。
同期は自信を喪失させるようにトップを総なめし、学校をやめた。

中学から貯めていた貯金もあり、しばらく柳生はお金には困らないという算段をつけ、家出をしている真っ最中な(エセ)紳士だった。



「さて……落ち着きましたし、まずは働き口を探しますか。」

一通り鬱憤を晴らした柳生は自身の立場を考え、すぐに行動を開始した。

大きな荷物は駅のコインロッカーに詰めているため、柳生は随分と身軽な格好だ。




にゃ〜………




「…………猫?」

白いしなやかな猫は小さく鳴くと、柳生に擦り寄り、甘える仕草を見せた。

それにふふ、と笑うと柳生は久しぶりに中学時代のパートナーの存在を思い出した。

「………私が医師を志望してから随分と会ってませんね……」

よくよく考えれば、今自分の周りに友といえる人間が全くいない事に気がついた。

「私は随分とたくさんの大切なモノを見失っていたようですね………」

久しぶりに、パートナーを食事に誘おうか。
私の今の身の上を知ったら、きっと驚くだろうな、と柳生が口元に微笑みを浮かべた瞬間だった。



「ターゲット捕捉!!捕獲開始じゃ!!」

「………………え」

いきなり空中から降ってきた謎の生命体に、一気に柳生は目を見開いた。


にゃ―――!!!

「待ちんしゃいこん猫!!いい加減大人しくするぜよ!!」

今正に、白い猫と同じように屋根を駆け上がっていった モ ノ は間違いなく、





人間だった。



「お?便利屋はまた猫捕獲か〜?大変だな〜アイツ」

「毎度毎度よくやるよな〜」

「おい、便利屋と猫、どっちに賭ける?」

「そりゃもちろん………」







「「「便利屋だろ」」」



にゃ――――――!!!!!!


「よし、捕まえたぜよ!!首輪渡しんしゃい!!」

柳生の目に映る、(信じたくないけれど)人間は、器用に猫の無駄にハイテクな首輪を取ると、スルリと猫を離した。

「よし………!」

ぴょん、と屋根からその人間は降りると耳についているイヤホンマイクを弄り、二、三話すとスイッチを切ったようだった。

「ここをこうして……全く愉快犯が…猫に爆弾仕掛けるかフツー…」

とんでもなく物騒な発言をしながらいくつかのケーブルをハサミで器用に切ってから、ようやく男は柳生に気づいたようだった。

「ん……?お前……」

「お邪魔ですよね失礼しましたご機嫌ようお元気でそれではアデュー!!」

君子、危うきに近寄らず、と頭の中で唱えながら、柳生は全力でその場を立ち去ろうとした。



が、



「…………柳生か?」

謎の男に自分の名字を呼ばれ、しばらく走り出そうとした姿勢で固まった。

「…………………………え」

「お、如何にも君子は危うきものには関わりませんスタイル。どうせ怪しい奴には近寄らないって思ってるんじゃろ?」

自分の思ってることをピタリ賞で当てた男を振り返り、柳生は顔を引き攣らせた。

「はは、フードがあるから分からんのか?酷いのぅ、元パートナーだったのに……」

「………ま、まさか……その……喋り方……」

「お、分かったか?」

ぱさ、と黒いフードを外して出てきたのは、銀髪。
そして中学から変わらない、人を喰ったような笑み。

さっき食事に誘おうと思っていたパートナーと、全力で関わりたくない人間が同一人物だったことに、柳生は目眩がした。

「まぁ、アレじゃ。俺今ここで便利屋営んでるんじゃが、来るか?」

「………………………はい」

結果、柳生は食事を誘おうと思っていた相手の誘いに乗った。











「ここじゃ」

「……古びたビルですねぇ」

「このビルはこの町全体を眺めやすいんじゃよ。便利屋といっても、何でも屋みたいなもんなんじゃけど」

「………さっきの猫は?」

「この町にいる愉快犯が猫に最強爆弾を仕掛けるのにハマったもんでの。回収してるんじゃ。まあ、あの猫で最後じゃけど」

「……………とんでもないですね。あと、その、耳の……」

「な?大変な奴じゃろ?この町にはゴマンといるがな。耳のは人工知能みたいな奴。この町の知り合いに作って貰った。ほい、どうぞ」

「あ……お邪魔しま……」

ガタゴトとビルのドアを開けた仁王につられ、柳生をビルに入ったた。

「………………」

「綺麗なオフィスみたいじゃろ」

「何だかもうイロイロギャップが凄すぎて着いていけません………」

頭痛を抑えるように頭を抱えた柳生に仁王はニヤニヤと笑い、黒いソファーに腰掛けるように促した。

柳生が素直に座ったのを見届けると、仁王は奥でお茶の用意を始めた。

「しかし、こんな怪しい町には柳生がいるなんてな……なんか事情でもあるんじゃなか?」

「……………大学を、やめました。家出も、しました」

「…………はああ……いつかはやると思ってたがのぅ。まさかこんな時期にやるとはな。あ、もしかして……」

仁王はオフィス内にあるパソコンを立ち上げるとくるりと回して柳生に見せた。

「これ、お前のことか」

「……?」

柳生が見た画面には『医療学校首席、学校退学。何故総なめにしてから?』


「………………………多分」

「おーおー柳生もやりおるのぅ。中学からエセっぽくて怪しんでいたがな、俺の読みは正しかった訳じゃな」

「………………こればっかりは否定できません……」

柳生ががくりと首を垂れたのをケラケラ笑い、仁王はじっと柳生を見つめた。

「………で?これからどうするんじゃ?住む場所も帰りたい場所も働き口もないんじゃろ?」

「………とりあえずネカフェに昨日は泊まりました。中々居心地は悪くなかったです。」

「………ぶほっ………柳生が……ネカフェ……ククク……」

「……仁王くん…さっきから喧嘩売ってるんですか?」

ギロ、と睨みを利かせるが、元パートナーだけあってそれだけでは揺らがなかった。

「すまんすまん。……での、柳生。お前医療技術、どこまでやれる?」

「…………免許はありませんが、とりあえず外科から始まって 一通りできますよ。免許まであとちょっとのトコで胃腸炎になったのですがね」

忌ま忌ましげに言った柳生に、仁王はニンマリと笑った。

「じゃ、ここで働かんか?」

「…………………はぁ?」

意味不明です、といいたげに柳生は仁王を見つめた。

「じゃって俺、いい加減に闇医者欲しいんじゃもん」

「や、闇医者!?」

柳生が叫ぶように言うと、仁王はコクりと頷いた。

「じょ、冗談じゃありませんよ!!私はどうせ医療行為をするなら、ちゃんとした免許を持った医者がいいです!!」

「でも、やめたんじゃろ?」

ずばりと言った仁王に、ぐっと柳生は言葉をつまらせた。

「ですがっ……!!」

「これはれっきとした人を助ける仕事じゃ。確かに綺麗な仕事じゃないかもしれんが、救われる奴はたくさんいる」


真剣に言う仁王に、柳生は困ったように眉を寄せた。


「………ま、柳生がどうしても嫌なら仕方なか。俺がやり続けるぜよ」

「………………は?」

あまりの衝撃的な発言に、柳生は完全に固まった。

「いやな、俺は便利屋なんて名乗っとるから情報だって売るし、非合法なケガした奴がいきなり来ることもあるんじゃよ。ソイツの治療は生半可な知識でできる気がしないから毎回血が下がるわ。」

「………結局それどうしてるんです?」

「闇医者がどこにいるかの情報を教えとる。あとは、まあ、医療学校に変装して忍び込んで得た技術を持ち前の器用さで、な」

「貴方完全に犯罪者じゃないですか!!!」

「ははは、まぁな」

あっさりと認めた仁王に柳生は頭痛が更にひどくなったことを感じた。

「といっても、警察に対してのツテがあるから捕まらんがな。あとは警察根本がひっくり返るような情報も俺は持ってるし?世の中情報があるとやりやすいのぅ。中学での参謀は正しかった訳じゃな」

ぺらぺらととんでもない事を喋る仁王に柳生顔を引き攣らせた。

「…………ま、お前が表社会に戻れるようにはしといちゃる。やらんか?今なら三食住家、おやつ付きぜよ」

「………………貴方って人は………!!」

ぎり、と手を握りしめた柳生に仁王は困ったように笑った。

「参謀も幸村も真田もこっち側なんにのう……」

「はああ?!!」

「…………うるさいぜよ。何回叫ぶんじゃ」

「え、いや、だって……!!」

「真田の家は暴力団と関係持ち。柳は俺以上の情報通。幸村は政界でのとんでもないあくどいコネ持ちじゃ。すごいよなあ…」

「…………………………」

「ま、柳生にはやっぱり無理か。逃げ道だって用意してやったのにのう。へたれじゃな」

「……………!!」

最近、イロイロありすぎた柳生にとって、十分過ぎた発言だった。

「いいですよ!!!やって差し上げます!!!」

「………さすが」

にぃ、と笑った仁王にはっ、と柳生は笑った。

「やるからには最強の闇医者を目指しますから、覚悟して下さいよ?パートナー?」

あまりにも凶悪な笑みを浮かべた柳生に、仁王は口元をひくつかせた。

「……………俺、選択誤ったかのう」

少し遠い目をして、仁王は言ったという。

































こんにちは裏社会!!!





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

ただ柳生をはっちゃけさせて仁王くんに夢を抱いてるだけ←



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