紳士変態恋愛複雑性屁理屈理論
「イダダダダダ!!!!!!」
太陽が真上を通過し終え、暖かくなった部活の時間。
立海のテニス部から何とも痛そうな壮絶な悲鳴が響き渡り、そして、消えた。
「……………煩いですよ。周りに迷惑でしょうが」
「………痛がらせた本人が言うセリフかそれは」
悲鳴をあげた張本人……被害者というべきか、仁王はギロ、と澄ました顔した紳士を睨みつけた。
目つきが元々悪い仁王なので迫力満天なのだが、澄ました紳士、柳生は慣れているのか睨みは効かない。
それどころかどこ吹く風、というスタンスだ。
この情景を見るに、二人は仲が悪そうだが、むしろその逆の逆が表だと思ったら表の横面が逆の裏だったというくらい、仲が良すぎる。
失敬、もとい仲が良いだけで片付けられない関係、つまり恋人である。
「………俺が柔らこうないん、知っとるじゃろ」
「当たり前でしょう。パートナーなんですし、仮にも恋人同士なんですから。仮ではありませんがね」
ちなみに今の仁王の態勢は地べたに座り、足を広げている。
いわゆる前屈の態勢である。
その仁王の背に手を添えているのが柳生。
もうお分かりだろう。
「じゃあ、おまん何でいきなり俺の背中を思い切り力の限り押したんじゃ!!煩い悲鳴が出るに決まっとろーが!!!」
「仕方ないでしょう?私は貴方に一刻も早く身体を柔らかくして貰いたいんです。柳君にも言われてますし……せめて、人並みにはね。」
「なんで俺がおまん等の為に身体を柔らかくせにゃならんのじゃ!!大体俺が怒っとんのはゆっくり押さずに、いきなり思い切り押したことにじゃ!!」
「ああ、そうだったんですか。これはすみませんでした」
柳生は悪びれた様子も見せずに飄々として、さぁ続けましょうといっている。
「ならせめてゆっくり押しんしゃい……!!」
「嫌です」
「何でじゃ!!」
「二人とも、な〜に争ってんスか?幸村部長に怒られますよ」
ぎゃあぎゃあと争いをしていた二人の前に現れたのは、立海二年生エースの赤也だった。
「あぁ切原くん……。調度いい。仁王くんをゆっくりと押してみて下さいませんか?私が何故思い切り押したか分かるはずですよ」
「は、はあ………」
「何なんじゃ一体……」
赤也は行きますよ〜と一声かけると、ゆっくりと仁王を押しはじめた。
「……!!ッ……ぅあ……イタ…イ…!!や、赤也まだイケ………やっ、ぱ無理、じゃ…!これ以上イケな……あ、あ、あっ……!!」
「………………………………………。」
「お分かりになりましたか切原くん?」
「………俺ちょっとトイレ行ってくるッス」
「それは肯定と受け取っても?」
「イイッスよ」
パタパタと若干前屈みになりながら走って行った赤也に、柳生は哀れみの視線を向けた。
「え、赤也どうしたんじゃ…?」
ポカンとしている仁王に柳生はため息をつくと話始めた。
「自覚がないみたいですが、貴方を前屈をする際、ゆっくりと押すと情事中の声のような声を出すんですよ。知ってましたか?」
「え……?!」
「…………………情事中ですら貴方はあんな声出さないんですけどね」
ボソッっ柳生は呟き、再度ため息をつくと、真田に赤也がトイレに行ったことを教えに走って行った。
その後ろ姿を仁王は不満げに見つめていた。
―――――――――――――――――
「なぁブンちゃん……俺って柳生に好かれとるんかな…?」
「はぁ?好かれてなきゃ付き合ってないだろぃ?」
「やけど……付き合ってる前と態度とか全く変わらんぜよ…恋人同士って感じがせん」
「ま、何つーか、柳生が仁王を好くってこと自体、有り得ないことだしな。だって清らかな女子が好みだぜ?」
「柳生って俺のどこに惚れたんじゃろ………」
そういって仁王は首を垂れた。
「つかお前らどこまで進んだんだよ?」
「一応最後マデ」
「はあ?それじゃ好かれてるに決まってんだろぃ。柳生みたいな奴が好きで男を抱くかよ」
「じゃけどの………」
はあぁ、と更にため息をつく仁王を丸井は興味深そうに見つめた。
「初体験はどうだったんだよ。最後までヤッたんだろ?」
「…………痛かったことしか覚えちょらん」
「そりゃあ痛いのは分かるけどよ、他に何かあるだろぃ?」
「ヤろうとした瞬間は覚えちょる。そんあとは壮絶な痛みしか覚えてないんじゃ……」
ふい、と仁王は顔を背けてうなだれた。
最近、柳生がわからない。
――――――――――――――
「は…………?」
「じゃから、柳生は俺のどこに惚れたんじゃ?俺はぶっちゃけんでも性格がいいほうじゃないとは分かっちょる。清らかな女子でもないしの。」
「………………」
仁王にしては珍しく直球に柳生に問い掛けた。
もし、うやむやにされたりしたら、仁王は恐らく柳生を信じきれなくなるからだ。
「………私は仁王くんの事、全ての面でお慕いしておりますよ?」
「…………じゃあ、何処が1番好きなんじゃ………柳生、俺に身体柔らかくして貰いたいとか言うし…………」
柳生が、分からんと仁王が言うと柳生は苦笑した。
「…………私は、仁王くんの声が好きなんですよ。」
「……声?」
仁王が訝しげに言った。
「気づいてないんでしょうが、仁王くんは、ナニカに『好き』と言ったとき、とってもいい声しているんですよ」
「………はあ?」
「仁王くんは本当に好きなのにしか好きと言いませんからね。その、好きという声、その声を発する喉やお腹も愛してるんですよ私は」
「……………………………」
仁王は急激にげんなりとした顔をして、一言言った。
「変態か、お前」
そんな仁王に柳生も一言。
「なら、変態が好きな貴方は更に変態ですね」
「……………んで、柳生は何で俺に柔らかくなって貰いたいんじゃ」
「…………………」
とても言いにくそうに柳生は視線を反らした。
「…………貴方、情事の前に少しずつ私に好きと言ってくれるんですよ……。それがとても私が聞いてきた『好き』の中で1番イイ仁王くんの『好き』でしたもので………なのに情事中は身体が硬いから痛みで叫ぶしかしませんからね。だから、早く柔らかくなって欲しいんです」
「…………………柳生は俺の声だけが好きなんか」
「いいえ?貴方の全てを愛してますよ?」
恥ずかしげもなく、サラっと言った柳生に仁王は苦笑した。
「………少しずつなら柔らかくなっちゃるよ」
その言葉に柳生はとても嬉しそうに頷いた。
「…………好きじゃよ、柳生」
そっと囁いた仁王にぼっと柳生は顔を赤くした。
「ふ、不意打ちは卑怯ですよ!!」
「ふ、ははは、はは!!俺も大概性格が悪いの!!」
「…………は?」
柳生が間の抜けた声を出すと悪戯っぽく仁王は笑った。
「俺も柳生の全てが好きじゃが、1番好きなのは俺が不意打ちで『好き』って言ったときの真っ赤な柳生が1番好きじゃ!じゃから、俺の好きって声、結構好きかもしれん……となると、発する喉も腹も好きじゃからな……俺も大概変態じゃな!!」
そういって柳生に仁王は抱き着いた。
紳士変態恋愛複雑性屁理屈理論