立海戦闘物語
「第三部隊はA地点で砲撃用意!!第四部隊は敵の背後からA地点まで誘導後、砲撃に巻き込まれないよう退散して下さい!!!それ以外の部隊は砲撃終了後に戦闘っ!!第一部隊、第五部隊はB地点!第二部隊、第六部隊は待機!!第七部隊、第九部隊は私と共にC地点から!!第八部隊は傷ついた兵隊の治療のためにD地点!!以上!!各自持ち場に着きなさい!!」
柳生の猛々しい号令に、兵は一斉に持ち場に向かった。
戦闘が激しい、どこかも知れない国で柳生は立海という軍に所属していた。
第零〜第ニ十まである立海の第八地区の担当が柳生。
そしてこの度、第零地区、つまり本部に第八地区から幹部を迎えいれると話があり、人材を育成していた。
だから今は実践形式でどの兵を一人だけ選出し、幹部にするか柳生は選出していた。
もちろん、全ての兵が幹部選出のことを知っていて、張り切っている。
一人をのぞいて。
「おーおー皆さん張り切っていることで。今から張り切っても意味は無かろうに……頑張り屋じゃなぁ」
「………仁王くん……!!」
いらついたように木の上をみた柳生は眉を潜めた。
「貴方はもう少し頑張って頂けませんか…?」
「え〜いくら柳生の頼みでもそれは嫌じゃなぁ」
ケラケラと笑いながら言う仁王を柳生は睨みつける。
「とりあえず貴方はどこの部隊ですか……?持ち場に着きなさい」
「え?さぁ〜どこの部隊だったかのぅ?」
仁王はそれだけいって木から降りると柳生に言った。
「俺は上から兵達を監視する役割なんじゃよ」
にぃ、と笑って仁王は走っていってしまった。
「なんなんでしょう……あの人」
仁王は突然第八地区に現れたかと思うと、第八地区に入る仁王雅治だと名乗った。
『ほら、これじゃ』
そういって見せた立海のRの紋章は本物だった。
しかし、第八地区に新人が来るとは柳生は聞いてなかったので眉を潜めた。
『貴方は何者ですか?』
そういった柳生に楽しそうに仁王は笑った。
『時期が来れば分かるから、安心しんしゃい。敵ではないからのぅ』
そういって飄々と第八地区のメンバーに入ったのだった。
しかし、この仁王という男。
職務怠慢は当然、戦わず当然という態度なので第八地区の兵にはあまりよく思われていなかった。
「まあいいです。仁王君がこっそり兵達のカバーをしていたのは知ってますから。敢えて何も言いませんよ……」
しかし、仁王の影の活躍を独自の視点で、また自然と目で追ってしまっていたので知っている柳生はそういってため息をついたのを仁王は面白そうに見ていた。
「さすが、よく見てるのぅ…」
そんな日常を過ごしていた時だった、
「柳生隊長!!!」
「!何事です!!」
「兵達が使う馬が急に暴れ始めたんです!!懐いていた人間の声も届かなくて……実力行使に出始めたのですが………」
「なっ…何をしているんですか!!馬はあまり多くありません!!それに馬とはいえ私達の戦友なんですよ!!」
柳生は急いで馬が暴れているという場所に向かった。
「うわぁぁぁ!!」
「撃ってはいけません!!」
銃を撃とうとした兵の銃を柳生は剣で叩き落とした。
「私が相手取ります!!負傷して動かなくなった者、または馬の手当を他の者はしなさい!!」
向かってくる馬に鞘から出していない剣で上手く操り疲れさせる。
そこで落ち着くまで待つという作戦だ。
実力行使ができない今、それしか作戦はない。
少ない睡眠弾なんかを使うのも愚の骨頂だ。
「はっ、はぁっ……!」
しかし、馬の体力は随分あるらしく柳生は段々と息切れをし始めていた。
「柳生隊長どいて下さい!」
パァァンッ
見ていられなくなったのか、一人の兵が銃の引き金を弾いた。
しかし、慌てていたからか、標準はズレ、近くにいた兵に当たってしまった。
「!!くっ……」
しかも負傷して倒れ込んだ兵は柳生が相手していない暴れ馬を相手取っていたので、その兵の相手だった馬は兵に襲い掛かった。
「〜〜〜!!!!」
柳生はその兵を守るように覆いかぶさると、次にくるであろう痛みに目をつむった。
しかし、
「幸村死ね!!」
木の上から突然現れた仁王は罵る言葉を発しながら懐からナイフと丈夫な縄を慣れたように取り出した。
「はっ!!」
馬の足元にナイフを投げ、驚いた馬が柳生達から方向をズラした瞬間、木に丈夫に括りつけた紐を馬の腹周りにキツ過ぎず、しかししっかりと巻き付けた。
「そこのお前っ!!柳生達を馬が自由に動ける範囲から出せ!」
タッ、と木から降り、木に括りつけた範囲から動けない馬から離れ、まだいる暴れ馬三頭に走って向かった。
「よし、次じゃ!!」
ガッ、と二頭の暴れ馬をまた違う木に括りつけ、仁王は最後の馬にむかった。
「!!」
しかし、いきなり仁王を踏み付けようとした暴れ馬を仁王は慌てて避けると、その拍子に仁王の足がぐきり、と嫌な音を立てた。
「ッ……!!」
思わずよろけた仁王に容赦なく暴れ馬は襲い掛かった。
「仁王君!!」
柳生は素早く馬と仁王の間に滑り込むと、馬の足を鞘を抜いていない剣で受け止めた。
「ナイスじゃ!!」
ぱ、と仁王は立ち上がると紐で馬をまた括ると思い切り引っ張り、怪我をしないように横倒しにした。
「……ふぅ…」
疲れた、と伸びをした仁王はくるりと柳生を振り返り、にか、と爽やかに笑った。そんな笑顔を初めて見た柳生はドキリと胸を高鳴らせた。
「さすが第八地区の隊長じゃの。やっぱりお前も俺と同じ末路か……」
「は、はぁ……?」
意味がわからない、と柳生が訝しげな顔をした時に周囲がわっ、と湧いた。
「さすがだね柳生。少し見ただけで分かるけど本当にいい剣使いだ。真田といい勝負できるであろう人材なんて始めて見た」
「…幸村…くん。真田くんに柳くんも……」
現れた立海の第零地区、つまり本部の総監、副総監に柳生は目を見開いた。
その場にいた兵達も驚いたように固まった。
総監、副総監。つまり立海で1番、2番目に強く偉い人間ということだ。
そして柳生は今気付いた。
仁王くんがさっき死ねって叫んでた相手って……
「で?幹部を誰にするか決めたかい?」
「あ……そうですね…やっぱり態度は悪くても、戦闘力からしてここにいる仁王くんかと」
振り向いた柳生の目に飛び込んだのは信じられないくらい嫌そうな顔をした仁王だった。
「え…仁王くん…?」
「やっぱり柳生もそう思うよな〜。でも仁王はちゃんとした第八地区の兵じゃないから駄目だよ。それにもうスカウト済みだから」
幸村から発せられた言葉に柳生は?マークを出した。
「全く…何処に逃げたかと思ったら、まさか第八地区まで逃げ仰せていたとは…。お前のその逃走技術だけはこの柳、感服せざるをえない」
「…うっせ参謀。つかわざわざこんなトコまで追ってくるか普通。」
「に、仁王くん!!貴方副総監になんて口を…!!」
あろうことか副総監でもある柳にとんでもない口を利く仁王を柳生は慌てて諌めた。
「む……柳生の様子から察するに、お前只の一介の兵だと名乗っているのか?」
真田の言葉に気まずそうに仁王は視線を反らした。
「じゃってそう名乗ると、ココだと自由にできるぜよ……気を遣われんようになるし……」
「ふふ。でもそれも、今日で終わりだ。今回は逃がさないよ仁王……いや、役職名で呼んであげようか?」
幸村の黒いオーラに柳生はまさか仁王になにかあったのか、と心配そうに仁王の肩に手を置いた。
「仁王くん……あの、その」
何を言えばいいか分からないという顔を浮かべる柳生に幸村は笑いかけた。
「あ、大丈夫。そんな柳生が思うほど重要なことじゃないから。ねえ?
第二地区総監兼、第零地区幹部決定後逃走脱兎した仁王くん?」
…………
……………………
…………………………
「隊長??!!!え、幹部!!!??第二地区っていえば奇襲戦法で右に出るものはいないっていうほどの……!!!!」
まさかの仁王の正体に柳生と兵達は呆然としている。
「そう♪第二地区でも幹部選出があってね。隊長でもあったコイツが選ばれたんだけど……決まった次の日には既に逃げててさ。まさか第八地区まで来てたなんて……本当にびっくりしたよ。」
全くびっくりしたように見えない様子でいう幸村を仁王は憎々しげに睨んだ。
「……おまけにさっきの暴れ馬騒動は絶対コイツがイップスで引き起こしたんじゃ……俺が面倒事嫌いなん知っとるくせに…マジ死ね幸村……」
「はははっ。珍しく本気のお前を見れて俺ら三強は大満足だよ(笑)」
「死んでくれ」
心底嫌そうな顔をする仁王に幸村はニコニコと笑うだけだった。
「さ、てと……第八地区の幹部はやっぱり決まりだな。」
「え……?」
「俺は柳生が幹部になって欲しいなぁ。いいかい?てかもう決まってるけどね。仁王みたく逃げられるんじゃ堪んないから決定ね。てかこの幹部選出ってぶっちゃけると第一地区から第ニ十地区までの部隊長の誰が幹部に相応しいか決める奴なんだよね。てか一介の只の兵達がいきなり幹部とか無理に決まってんじゃん。じゃ、柳生には地区隊長の第零地区で俺の配下に入って貰うよ。あ、もちろん第八地区の軍はお前のもののままだから安心して。まあ肩書きは第八地区総監って感じになるかな?柳生の代わりに幹部じゃなくなった元幹部に隊長になって貰うけど。仁王はさぁ、第二地区総監って仕事に加えて幹部って仕事が入るのが気にいらなかったんだって。本当めんどくさがりやだよね〜」
「……え…と…」
ついていけてない柳生に今度は仁王が柳生の肩を叩くと言った。
「こうなった幸村はもう駄目じゃ。諦めんしゃい」
「………………はい……」
とりあえず柳生は考えることをやめて成り行きに任せることにした。
とりあえず、仁王くんとなら頑張れるかな、と根拠のないいくらかの自信を持って。
本日、第八地区隊長柳生比呂士。
第八地区総監兼、第零地区幹部となりました…………。
立海戦闘兵隊物語