小説しょうと立海 | ナノ

気になるアイツ















最近気になる奴がいる。


「お願いしま〜す」

やる気なさそうに新しく開いた居酒屋のチラシを配る銀髪の男。

そいつが気になって仕方ない。


















−−−−−−−−−−−−−−−−

それは一ヶ月も前。

「よろしくお願いしますじゃき〜」

ひらり、とチラシを配る訛りのある喋り方に耳がつられた。

ふ、と目を写した時に揺れた銀色に目が奪われた。

そして−−−−

「お前さん、荷物重そうやの。持ってやるぜよ」

見るからに不良のくせにお年寄りに優しくする行動が、心に響いた。

















−−−−−−−−−−−−−−−

「………って訳。どう思う赤也?」

「いや、もう話を聞いた限りブン太先輩がその人に惚れたって話にしか聞こえないんスけど」

「はあああぁぁぁぁぁぁ!!?」

ブン太は赤也の言葉に盛大に否定の意を現す叫び声をあげた。

「だってソイツ、確かに綺麗な顔立ちしてっけど男だからな!!?」

「えっ、ブン太先輩男に惚れたんスか〜ご愁傷様ッスね」

「てめぇ!!!」

「うわ!!やめて下さいッスよ!!だってブン太先輩かなり嬉しそうに頬染めて話してるんすから!!」

「………………」

「えブン太先輩!?」

くるり、と踵をかえしてブン太は逃げ出した。

言ってしまえばいたたまれなくなったらしい……。

















−−−−−−−−−−−−−−−

「嘘だろ、俺が…?好き…?男…?」

ふらふらとブン太が歩いているとドン、と誰かにぶつかった。

「いって…」

「あ、すまんのぅ…」

「…………あ」

「え?」

ぶつかった相手はまさかの今考えていた人、銀色の男だった。

「あ、いや……いつも駅前でチラシ配ってる奴だなって……」

「あ、お前さん、確か……」

「へ」

「人間とは思えない量のファーストフード食ってる奴じゃの」

まさかの相手も不本意ながら自分を知っているということにブン太は胸がきゅんとした。

「は…?きゅん…?」

「どうしたんじゃ?」

「あ、いや!!つか俺お前にお礼が言いたいんだ!!前にお前が荷物持ってくれたばあちゃん!!俺急いでて何もできなくなったから…ありがとうな!!」

にかっと笑った丸井に、銀色は目をぱちくりさせてから苦笑した。

「お前さんがお礼言わなくてもええ気がするがの…」

「いーんだよ!!お礼は受け取っとけ!!」

「……そうじゃな」

ふわ、と仄かに笑った銀色はあまりに綺麗だったので丸井は思わず凝視した。

「な、なんじゃ…?」

銀色が少しどもると丸井はぽろり、と言葉を漏らした。

「お前、そうやって笑えば綺麗なんに勿体ねー…」

「………え」

「!!!あ、いや!!じゃあな!!」

丸井は羞恥やら焦燥やらで慌てて背を向けた。

「お、お前さん!」

「な、なに」

「また、話そうな」

そうやってまた笑った銀色に丸井も満面の笑みを返した。

「俺丸井ブン太!!お前は?」

「仁王雅治じゃ。よろしくなブンちゃん」

「ブ…!?」

思わぬあだ名に丸井が目を見開くと仁王は悪戯っ子のように笑った。

「変更はなしじゃ。ピヨッ」

よくわからぬ効果音を言って仁王は雑踏に紛れてしまった。

「仁王…………」

















−−−−−−−−−−−−−−

「………らしくないの」

ぽつりと仁王はつぶやいた。

まさか自分があまり知らない人物に名前を教えるなんて。


そもそも荷物を持ってあげたりしたのはあの赤髪を真似たのだ。

だから、お礼なんて−−−−

「まあ、退屈しなさそうじゃの。これから…」

いつになく気分がいい仁王はいつもより動悸が早い理由は知らない。



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