「おまえふざけんなよ」
誰が柳生比呂士を紳士だなんて呼び出した。
一人じゃないにしても全員顔を揃えて俺の前に並べ。
もちろん顔を並べるだけで留まらせる訳がない。
顔面殴打を全力でした後、鳩尾を全身全霊で踏み付けて、弁慶の泣き所を鉄の靴を以ってして渾身の力で蹴ってやる。
それが犯罪になるならば、俺は決死の力で沖縄らへんに高跳びしようと思う。
だが本当にそれが犯罪になるかどうかは話を聞いてからにして貰おう。
世界一不幸せな俺、仁王雅治が語ってやる。
それほどまでに、柳生を紳士と呼び出した奴の罪は、重いと思うのだ俺は。
まず始めに柳生に恋したという俺を前提とさせて貰う。
まあ、柳生にときめいたり何なりした黒歴史は地中に埋めて、まず最初にラブロマンスでいう結構な山場な告白の場面から入ろう。
「俺は、恋愛感情として、おまんが好きじゃ」
柳生に告白したのは中学3年の秋。
俺と柳生は立海のエスカレーター式で行ける高校ではなく、違う学校を受験する。
だから、ウダウダとして受験に失敗するのは嫌だったから早いとこフラれて置こうと思ったのだ。
その時の俺は(柳生の)汚れを知らず、紳士の柳生にフラれる、のを前提とした玉砕覚悟の告白のつもりだった。
きっと柳生は、ま行の最後、『も』から始まるフラれ文句をくれると思っていた。
だが、
ま行の最初の、ま、から始まる返事がきた。
この時点で俺は色々と身構えているべきだった。なんて、後の祭だけど。
「ま、マジですか?!散々、人は信じられないだの詐欺に嵌めるのが大好きだの何だの言ってた仁王くんが私を好き!?こ、滑稽ですね!!ヤバい、超ウケる!ボイスレコーダーで録音すべきでした!!」
白。
とりあえず俺の全ては白くなった。顔は真っ青超えて真っ白、頭も真っ白、ついでに手足も真っ白だった(決して元からじゃない)
柳生、おまんマジとかヤバいとか超ウケるなんて使うんか。
てか滑稽は言い過ぎじゃないか
てか爆笑っておかしくね?
とか何とかグルグルと頭に柳生に言いたいことはあったのだが、まず最初だったのは
俺は柳生にフラれた、
という事実だった。それもま行の最後、『も』から始まる
『も、申し訳ありませんが私は仁王くんにそのような感情は持っていません。ですが、仁王くんのことはとても大切なご友人だと思っています。そういう意味ではとてもお慕いしていますし、好きではありますが、仁王くんの好きと同系類の好きではありません。本当にすみません仁王くん』
ではなかった。
ちなみに悲しげに告白を断った柳生に対する俺の答えはこうだ。
『おん、分かっとったよ柳生が俺のことそう思ってるんは。だから、受験前にさっぱりしときたかったんじゃ。ありがとう柳生、拒絶しないでくれて。ちゃんと柳生へのこの思いは諦める。これからもいい友人でおってな。これからは友人としての好き、じゃから。告白について気負う必要はないからの』
そういって家に帰り、ベットでぐしゃぐしゃに泣いて、次の日は元通り友人に戻る。
そんな青春の一ページに刻まれるはずだった本日のご予定はぐっしゃんぐっしゃんに崩れた。
他でもない柳生の手で。
最初に、も、ではなく、ま、から始まった告白の返事は大層ひどい返事だったと思う。世界一ひどい告白返事ランキングで一位も夢じゃないと半ば本気で思っていた。
さすがに俺も腹が立ち始めて、俺は柳生を睨みつけた。
顔は真っ白ではなく怒りで赤くなりました。
「………もうええ。おまんが俺を振ったっちゅー事実は理解したわ」
とりあえずこのあとは予定通り、家に帰ってひたすら泣こう。
切なく甘い涙じゃなくて、怒りと羞恥の涙で枕を濡らすことになりそうだけど。(最悪の青春の一ページだ)
と、踵を返した俺にようやく爆笑を終えた柳生がかけた言葉。
効果音はぽてん、で、軽ーく頭に言葉が乗ったようだった。
「え?なに言ってるんですか?私も仁王くんが好きですよ、恋愛感情として」
突然話は変わるが俺は自分の方言混じりの言葉を結構気に入っている。
それは小さい頃から使っていて、最早習慣のようなものでもある。
だが、呆れを通り越したある境地では、それは取れてしまうという何ともありがたくもないどうでもいい自分自身に対しての情報を俺は知った。
口を開いた俺
告白の返事の返事をゆっくりと絞り出した。
時に思う。
優しく紳士的にフラれるのと、鬼畜な知りたくもない本性を晒され、告白を受け入れられるのと。
どっちが幸せなんだろう、と。
そんな黒歴史もいいところの昔話が馴れ初め話にもなるんだから人生は侮れない。
あの告白まがいな黒歴史から10年。
俺と柳生は同棲する。
「ほんに人生って分からん……」
柳生と付き合いだし、告白のときのようなあまりに酷い態度は無かった。
確かに少しおちゃめな一面はあったが、あそこまでには至らない。
だがしかし、俺は今幸せか?と問われたら全力で否定する。
それほどまでにあの日の告白の返事のショックはでかい。
ようやく10年経ち、ショックは和らいできたが、(それをショック借金と呼ぶことにする)あの告白の返事のショック借金はまだ残っている。
そんな相手を好きになり、好きでい続け、そんな相手に好かれた俺は大層不幸じゃないかと本気で思う。
ちなみに同棲しよう、と言い出したのは柳生で、その時ソイツはこの世でいう気障ったらしいあんまいプロポーズを俺にしてくださった訳だ。
俺は真っ赤に赤面し、ただコクリと頷くことしかできなかった。(多分世界一気障ったらしいあんまい告白ランキングが存在したら堂々の一位だ)
あの日、告白せずに柳生からの告白を待っていたらそれはそれでショックを受けそうなもんだなと、今思う。
「仁王くん何ぼーっとしてるんですか?早くダンボール箱、運び込みましょうよ」
「ん?あーちょっとな。おまんに俺が告白した時からの黒歴史を思い出しとった。」
「黒歴史はないでしょう黒歴史は」
ぶつくさ言う柳生を睨む。
なら昔俺がした告白の返事は何だったんだ。
「ああ、アレは仕方ないじゃないですか。演技ですもん」
……………は?
今何といったコイツ。
「仁王くんに近日中に告白されるのは予測してましたから、一生懸命返事を考えておきましたよ」
それがあの告白の返事か、え、ちょっと待て、なんかおかしくないか。
「なんで、」
ただ一言。
なんで、あんな返事にした、という疑問を三文字で問う。
柳生は照れ臭そうに言った。
「だって仁王くん。ああやって私の中に興味が出るであろう私を一瞬見せとかないとすぐ離れてしまいそうでしたから」
あの日、告白の返事の返事に対して俺が使った標準語。
また、使う日がくるとは思わなかった。
俺は息を吐いて、ゆっくりと柳生にげんなりとした顔を見せた。
「おまえふざけんなよ」
あの日使った言葉と共に。
じゃああの日の俺のショックは何だったんだと柳生に問いたい。
ああまた柳生のショック借金が貯まったざまあみろバーカバーカバーカ
しかし柳生は俺のげんなり顔にケラケラ笑った。
貴方にプロポーズした時に、せめてそういう言葉の返事が欲しかった、かっこがつかないし、冗談にもならないじゃないか、と何ともムカつく言葉と共に。
じゃあ何だ、お前は冗談にしたかったのか。
俺は柳生を紳士と呼び出した奴は完全なる犯罪者だと思う。
だがしかしその犯罪者はとうに俺が捕まえようにも高跳びだか何だかしているであろう(多分)
という訳で俺がその犯罪者に最初に述べた3つの仕返しはできなくなっている。
だが考えてもみろ。
その犯罪者は柳生の紳士面に騙された可哀相な奴なのだ。
なんと柳生は蓋を開ければただの詐欺エセ紳士なのだから救いようがない。
実行犯は罪が重くなるらしいが、俺は優しいから主犯に仕返しすることで実行犯を無罪にして解放してやるんだ、
という勝手な大義名分を得たつもりになって、実行犯である詐欺エセ紳士に襲い掛かった。
「おまえほんとにふざけんなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ああやっぱり呆れを通り越したら方言は取れてしまうんだ、と頭の片隅で冷静に考えた。
どったんばったんどんがらがっしゃんと引っ越し早々ご近所迷惑な効果音を立てつつまずは顔面殴打を狙った。
だがしかし次に柳生が言った一言に俺の柳生に対するショック借金が破産した。
「貴方に興味を持たれて私に魅了して貰う為なら私は何だってしますよ!!!!!そういうのが貴方好きじゃないですか!!!だから私はし続けます!!貴方が私にぞっこんになるまで!!!」
苦し紛れの言い訳だったのかもしれない。
それでもああ畜生完敗だ。
今まで俺が語ってきたことをひっくり返しやがったこの詐欺エセ紳士だの結構悪口は浮かぶ。
けど、俺が1番に思ったのは
「ああくそっ、不幸せなんて嘘だ、幸せだこの野郎!!」
ショック借金は破産したからお前には一生俺の元にいてもらうバーカバーカバーカ!!!
大体こっちはとっくのとうにお前にぞっこんなんだよ!!あんな返事されて付き合い続けてるんだから分かるだろ普通!!
なんて絶対に言ってやらないけど。
まあまずは名前呼びを始めるのが大きな問題となりそうな俺と柳生の同棲一日目だった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
(笑)
思い浮かんで一気に書き上げた。所要時間ジャスト2時間(笑)