「光、そこの洗濯物取ってや。光もあったら出して」

「了解っすわ。あ、そうだ謙也さん」

「なん?」

「謙也さんのパンツ、俺の着替えに紛れ込んでました。ひよこの」

「ギャァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」



光の手にペロン、とぶら下がった紺色の生地にひよこのロゴ。

俺のパンツ、さしずめ下着。


を、

「なにクンクンしとん!!」

「やって習性ですし……謙也さんの臭いがしましたわ」

ニヤ、と嫌らし〜く笑う光に俺の顔に血が集まる。
アカン死ねる今なら死ねる。羞恥に絶望して死ねる!!
俺の顔が羞恥に染まるのがそんなに嬉しいのかニヤニヤと光はいつでも(笑)状態だ。
そんな嫌らしい姿すらカッコイイのはイケメンやから。こんな理不尽ありえへん。
早急に日本の総理大臣でも何でもええから何とかしろや。

はあ、とため息をついて(顔から熱を下げるのに意外と良かったりする)、開いたドアからちらっと見えた部屋。
モノクロでシックな割に高級感がある光の部屋や。

光と部屋やら何やらのお買い物してから3日。

光の部屋(ここだけの話、元は物置にする予定やった)はセンスよく模様替えされた。
こうして光は俺の生活空間にジワジワと光は入り込むんやろうな、と完成されていく部屋をみて俺は漠然と思った。
それが嫌な気はせんけど、何や気恥ずかしい。

光ってデリカシーあらへんからな。
ほんまにハズいやっちゃ。

けど、そんなハラハラな日常も楽しめるように少しずつなって来た俺はなかなかに成長したと思う。
今じゃどんなご飯作ったるか考えるようになったしな!

「光は今日の夕飯何がええ?好きなモン作うたるで。もちろんデザートに善哉あり」

「んー………あ、ほなチーズリゾット」

「何やお洒落な注文やな……まあ出来るけど」

「そうッスか?ほなお願いします」

そんな会話を繰り広げていた時やった。










ピンポーン………




「誰や……?」

いきなりアポなしで誰かが尋ねてくるなんて珍しいな、と急いで玄関に向かった。
一応ハンコも持って。

「はーい……どちらさ、」

ガチャ、とドアを開けて誰か伺う。
カラリ、とハンコが俺の足に軽くぶつかって、玄関に転がった。

「あ〜、ンーッ絶頂にゃんにゃーん!、なんてな」(語尾に☆付き)

目の前には、超絶イケメンで、綺麗な髪の毛を外ハネにし、まさに王子様、と言うような笑顔を浮かべた、白い猫耳と尻尾を生やした男が、



生まれたままの姿で、良心のかけらもなく、














全 裸 で 、




















立っていました、と、さ…………

















「ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!」
















ああまたご近所さんに白い目で見られる、と思いながら俺は後ろめりに倒れた。

「謙也さん!!」

光が俺を後ろで抱き留めるのと同時に俺の意識は吹っ飛んだのやった。

「あれ、何ややってもうた……?って、久しぶりやな!黒猫王子!」

「!!…………白猫王子……!?」
















………………?

あー、何やろ。
めちゃくちゃ傍らが冷たい。気持ち良い。

てかええ匂いがする……
そうや、光に夕飯作ったらな。
光は、意外と俺の料理を気に入ってくれとるんやから。


やから、早う起きて――――







「んん…………?」

ぱち、と目を覚ませば目の前に悲鳴をあげそうなほどカッコイイイケメン、つまり光の寝顔。(オプション黒色の猫耳尻尾)


……光の顔がこんな、近く、に………


近く、に………………



「ッ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


慌てて後ずさりすればドタンバタンガッシャン!!と盛大な音をたてて俺は床に真っ逆さま。
目の前に炭酸水を飲んだ時のようなパチパチするような火花が散った。
かなり痛かった。

「な、何で光が俺と寝て……?!」

傍ら冷たかったのは光のせいか!!いや確かに気持ち良かったけど!!って別に望んで一緒に寝たんやないからな!!言い訳?いや事実やって!!

「なーに一人で喋ってんのや。ほら、チーズリゾット作ったったで」

「あ、おおきに………」

振り向いた先には 裸 エ プ ロ ン という萌え要素をしたイケメンがにこやかに立っていた。

「…………………服」

「え?」

「服着てやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!!!」

転がっていた目覚まし時計を引っつかみ、全力で裸エプロンをしたイケメンの顔面に激突させた。(メリッという何か割れた音がしたけど知らん)
とりあえず俺は悪ない。

「……何や喧しいっすわ謙也さん」

「あ、ひっ光!!起きたん?」

「いや起きた?はこっちのセリフですわ。白石さんの真っ裸みて倒れたんアンタなんやし。俺はただ単に添い寝っすわ」

「そ、添い寝ッ………!!」

「照れんといて下さい、キモいッスわ」

ぶわぁぁと集まる熱に頭がぐるぐるする。
こんなん照れるしかあらへんやんか!彼女歴ないんやで俺!!
てかキモいって!!キモいって!!地味に傷つくわ!!

「いきなし目覚まし時計をぶつけるなんて酷ない……?」

頭をぐるぐるさせていたところで耳に響く低音エロボイス。
ぞわわわ、と身体が震え、思わず背後にいる人間に肘鉄をして、光に抱き着いた。

「うわっ?!謙也さん!?!」

さすがの光も反応出来なかったというか想定外らしかったらしく珍しく驚いた声が上から聞こえた。
だけどそんなん構える余裕今の俺にはない!!!

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!!!!!何やねん今の裸エプロンしとるアホは!!イケメンやからって裸エプロンまで似合わせるやなんて神様贔屓酷い!!つか変態キモい!!!!変態ってアレやろ!!?存在自体が無くならなアカン存在やろ!!?キモイィィィィィィィィィィイィィィィィイ―――!!!星になってやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――!!!!!」

「……………あー、落ち着いて下さい謙也さん。確かにこの人はアホだしイケメンだし贔屓されてるし裸エプロンまで着こなす変態ですけど悪い人やありませんから。ねえ?白石さん」

「アカン、ここまで清々しく引かれるとか初体験や………めちゃくちゃ絶頂やっ……!!」

にじり寄る変態のエプロン越しにチ☆コの形が分かり、ぞぞぞ、と背中が泡立った。
さぶいぼも腕に立ったわ!!!

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ変態は寄んなやぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!!!!!!!俺の童貞が奪われる―――――――――――――――!!!!!!!!!!!」

「………まあ、残念なイケメンで頭が弱い自由人ですけど、ね。てか謙也さんいつまで俺に抱き着いてるん?」

「え?ウワァァァァァァ―――――!!!!!!!!!!!」

「……………うっさ」













「ほな落ち着いたところで。俺は猫人間の王子の一人、白石蔵ノ介。ちなみに白猫王子やで。財前とは王子様仲間で先輩や。人間の歳でいうと二十歳。」

「お、忍足謙也……一応、ひ、光の嫁をやってます………は、二十歳、です………」

ガタゴトと白猫王子、改め白石に着せる服を探しながら自己紹介。
ちなみに目線はクローゼット。
顔は耳まで真っ赤やと分かる。
だが当然っちゃあ当然や。俺の1番苦手な存在は変態ただ一つや。
光は変態というよりただのセクハラというか嫌がらせやからまだ平気やけど。

「あ、これならええかな……」

中学時代のジャージをクローゼットから滑り出させる。
前に光に貸したやつや。
これならもうほとんど着ないし。

「つか謙也、」

ゴッ!!!とクローゼットに頭が激突。
今なんて言ったコイツ……!!

「い、い、いきなし名前、よ、呼び捨てて………!!」

光すらまださん付けなんに!!

「ええやぁん。俺ぇ、と謙也仲良ぉなりたいねぇん。」

「丁重にお断りさせて下さい」

「酷ッ!!!」

巻き舌風に言った白石にぶつぶつとまたさぶいぼが立つ。
まさか光と同じ色違いとはいえ王子様がいるって事実にも驚いたけど。
何より驚いたのはあの結構潔癖な光がこんな変態と仲良かったことや。


「んで話の続きやけど、俺服とか無駄やから着たくないねん。シルクとか宝石とか動物の毛皮で構成されとる服っていう存在って存在意味ないやん」

「安心しい。これは プ ラ ス チ ッ ク 製や」

ベシッと半ば嫌味に感じる服の構成に苛立ちつつ白石の顔にジャージを投げつけた。

「……………これ、服?この安っぽい布切れの塊が?つか謙也が着てる布もそんな感じやな……財前のはなんや服っぽいけど」

目をしばたかせた白石に顔が引き攣る。
光はさすがにここまで常識はずれやなかったぞ………

「仕方ないんです謙也さん。白猫一族は他の色の猫一族と違って、めちゃくちゃ裕福な一族なんですわ」

「あーなるほど………」

「おまけに白石さんは筋金入りの無駄嫌いで。やから装飾だらけの服を周りが着てた反動で全裸が1番無駄なしやと信じてるんですわ。」

「………とりあえず王子様にも種類があんねんな」

モソモソと俺が中学時代のジャージを着た白石。
やっぱり光の時もそうやったけど何着てもイケメンってほんま腹立つ。

「ッ………!!何やこの無駄ない着心地の"じゃーじ"は!めちゃくちゃゆとりあるし……!!謙也これくれや!!」

「あー、どうぞ………」

それで服を着るようになるんなら万々歳や。

「おおきに!!今度お礼するわ!!」

「全力で遠慮させて下さいお願いします」

白石にお礼なんてされたらどんな手に負えないもんを貰うか想像がつかん。
勢いあまってナウマン象とかアフリカ象が贈られたら…………ってアカン。光のアレの感触と大きさ思い出してまうからやめとかな。

「何や残念……ほなチーズリゾット食べてくれや!!特別に俺が作ったんやで!!俺の大好物やからな!!」

コイツこんな常識はずれなんに料理出来たんか……!!

驚きに目を瞬かせて居間に行けばそれはもう美しい出来のチーズリゾットがあった。(後ろで、ンーッ絶頂!って声が無かったらほんまに完璧やった)


「ほな、いただきます!」

はぐ、と一口食べれば、チーズの深みが溢れたリゾットが舌の上で踊った。
ちら、と隣を見れば光も黒猫の耳や尻尾をピクピクふわふわ動かし、おいしそうに頬張っていた。

………何や、少し複雑やな。


向かい側の白石は絶頂やろ?ってうるさいけど、ほんまに料理が上手いわ。

今度、教えて貰おう………



「ちゅーか、王子様なんに料理出来るって凄いわな。」

「何言ってん。猫王子はただでさえ人間より優秀なただの猫人間より遥か上の実力を持たなアカンねん。将来絶対に王様になるんやから」

「将来……絶対……?」

俺が不思議そうに首を傾げると、白石が察したように説明を続けた。

「猫人間の世界は、統括する王様を五年周期で変えるから、猫王子は将来、自分の国の王様と共に、猫人間の世界の王様になる時が必ず何回か生きてるうちに来るんや。世界の王様やからな、何でも出来ないと認めて貰えないねん。」

「へ――……」

「赤猫王子は苦労してましたよね。勉強や政治や憲法について」

チーズリゾットのほとんどを腹におさめた光がさらりと言った猫の色は、今度は赤。

「赤………?」

「そういや、お二人さんって事故とはいえ夫婦になったんやろ?どこまでいったん?」

「ブボッ!!!」

ゲホゲホとむせ返ると光が俺の背中を叩いてくれた。
効果音がバンバン!!って感じやったけどこれは光の親切心やと思っておこう、うん。

俺は上手い具合に白石に話を反らされたことに気づかなかった。

「どこまでってまだキスまでしかしてませんよ。」

「へえー……!人間で言えば義務教育中に童貞も何も無くした王子のセリフやなんて考えられへんわ………」

「ぎ、義務教育!!??」

驚いて立ち上がれば、ガッと鈍く足に椅子が激突し、椅子がひっくり返った。
ちなみに結構痛かった。

光の横顔を見れば澄ました顔。
マジでか………

「ほなキスまではしてんならキスしてみてや。先輩命令や、財前」

「………分かりましたわ」

「…………え?」

いやいやいやいや、え、いやいやいやいや!!ちょ、待ってや!!ただでさえファーストキスが事故チューなんにセカンドまで男に奪われるん!?

「謙也さん………」

す、と頬に光の手が触れる。
心臓が爆発的に早く鐘を打つ。
目が回るくらいドキドキして、光から視線が離れない。



やっぱり、イケメンって、狡い。






ふわ、と光の息遣いが近くなったと思えば、唇近くに、光の形よくて男にしては柔らかい唇が触れた。

「………はい、キスしました」

「へえ………見せ付けるやん」

にまにま満足げに笑った白石にホッと息をついた。
白石の角度からは口づけに見えていたんやな。

「ご、ごっそさん白石!俺風呂入る!!」

とにもかくにもほてった頬を隠したくて、逃げるように俺は風呂場に着替えを持って向かった。


こんな二人の会話がなされてるとも知らずに。

「…………意外やな、財前」

「……何がですか」

「男相手にも女相手にも手慣れとるはずのお前が、ちゃんと口づけしないやなんて」

白石のさっきのにまにました笑みの理由はこれか、とチ、と財前は舌打ちをした。

「あきませんでしたか?ちゃんと口づけしなかったの」

「いや?逆にしてたらむしろガッカリしたところや。まだ日も経ってないし、慣れていない純情で純粋な謙也に簡単にしてまうなら、財前に謙也は全く大切に思われてない、ってことになるからな」

「………」

この王子様の先輩は何でもお見通しなのか、と苛立ちを隠そうともせずに財前は眉を寄せた。

「少し情が湧いただけです」

「ほんまにそれだけ?」

真っ直ぐな白石の視線に、自分の視線が絡み取られたようだ、と財前は錯覚した。

「……もしそれだけやなくても、白石さんに話す義務はありませんから」

「何や、残念」

「白石さんが赤猫王子を遠ざける理由を話さないと同、」

ゆっくりとした、上品ある仕種で、財前の口をふさぎ、白石は歪んだ笑みで財前を凄んだ。

「それ以上は、お痛が過ぎるで財前?」

時々、この人は猟犬、いや化け猫のような顔を見せる。
どこが柔和で優しく上品で親切で純粋だと噂される白猫一族だ、と思う。

しばし、お互いに見つめ合う。
知らない人間が見たら、睨み合いだと感じるくらい強い視線を絡ませて。

「  、」

白石が何か言葉を発そうとした瞬間、



















「ギャァァァァァァァァァァ―――――――――――!!!!!!!!!」







謙也の盛大な近所迷惑甚だしい叫びか部屋に広がった。

ガタガタバタンッ!!と風呂場か大きな音を響かせ、飛び出してきた謙也はバスタオル一枚に濡れそぼった身体で、涙目になり震えていた。
その姿に『エロい……!!』と白石が財前の考えがシンクロした。それは二度とない奇跡だったと言える。

「謙也さん!?」

震える謙也に急いで駆け寄った財前に、白石は目を丸くした後に、柔らかく微笑んだ。

「………何や、理由あるんやろな。あの財前がな……」




「どうしたんですか?謙也さん。何か痛いとこでも………」

「奴が出た………」

「奴………?」

ぶわぁぁと涙を散らして謙也は叫んだ。


「ゴキブリが出た――――――――――!!!!!!!!白石並に嫌な存在が(変態的な意味で)出た――――――!!!!」


「何それ謙也酷い!!!!」





大家さんからの苦情が謙也に行くまで残り30秒。
そんな大家のおばさんをイケメンスマイルで白石が追い返すのが120秒後。
面白がった白石がお礼と称してマンションをお買い上げして大家さんになるのにジャスト24時間であった。
どうやら猫王子は信じられんくらい人間の世界でとんでもない地位にいると謙也は知ったのであった。





















バサバサ、と揺れる赤いケープ。
可愛らしい顔であるのに、その顔は酷く泣きそうに歪んでいた。





「何で白石さん………服着てんの…………?」




ちなみに決してこの言葉は逆ではない。









―――――――――――――
長くなりました(笑)
とりあえず白石自由人で変態(笑)




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