ガチャ、
「あ」
「…………へっ?」
「……鍵閉めて下さいよ」
バタン
「………………………………う、あ、あ、あああ、う、」
次の瞬間、俺の大絶叫がマンション中に響き渡った。
「ノ、ノ、ノックしてや!!」
バタン、とドアを開けて居間にいる光に(涙目で)叫べば光は至極めんどくさそうに俺を見てきた。(煎餅をバリバリ食べながらや。オッサンかお前は。けどそんな姿もカッコイイとかこの世は本当に理不尽や)
「鍵閉めなかった謙也さんが悪いやろ」
「せ、せやかて!!」
「に、しても、」
じっと股間を凝視されて思わず怯む。
やから俺は裸やら性やらが以下略!!
「…………………ちっこいッスね」
「ほっとけやぁぁぁぁぁぁ!!」
んな哀れむような目で見るなや!!!
ここで俺が王道について語ったる!!
普通は!!
風呂場で裸見られてキャーエッチー!!みたいな感じになってケロヨンと書かれた洗面器を投げつけるのが普通やろ!!(俺の裸に価値あるかは知らんけど!!)
なのに、俺がその、チ☆コを見られたのそんな王道の風呂場やあらへん。
言うなれば厠、
さらに言えば便所。
もっと言えばToilet。
そう、 ト イ レ !!!!
いやもう排泄は終わって流してあって、大事な息子さんをしまうだけやったけど!!
それを、見られた。
身体全体見られることよりこれはハズいと思う。
よりによって自分の1番大事なところを集中的に見られるとかああもう嫌!!
何で振り向いたんや俺!!
大体何が悲しくてこんな事情を詳しく語らないとアカンねん!!
「まあちっこくてもええことありますよ、多分」
ふ、と笑う光はそりゃあもう嫌味たっぷり。
畜生自分がビッグマグナムやからって調子乗んなや!!!
「て……何のために俺はトイレ行ったんや……出かける為やろ……大人になれ!謙也!……よし…………ほな行こか、光」
光に大きめのフードがついたパーカーとダボダボなズボンを渡す。もちろん尻尾と猫耳を隠す為や。
渡した服と俺を交互に見てから、光は不思議そうに首を傾げた。
「なんすかイキナリ」
「やから、出かけよや。光の服やベッド買わんといかんやろ?」
「ああ。そういう………なら別に謙也さんがテキトーに決めてええですよ。」
「嫌やわ。王子様の服とかベッド選ぶのは。てか光お金ある?ないなら貸すけど………」
「ブラックカードならありますわ」
「嫌味か!!!」
いくら性格が捩曲がってようとコイツはほんまに王子様なんやな。
赤いマントから(その下には俺の中学の頃のジャージを着ている、というより着させた)漆黒の輝きを持って取り出されたれはストッパーなしの最強のカード。
ほんまとんでもない相手の嫁になったもんや……
はぁぁぁぁ、とため息をつけば、後ろから思わぬ膝への攻撃に俺は情けない悲鳴をあげて床に転がった。
「な、な、な、何すんねん!!!」
「陰欝なんは嫌いなんですよね。制裁として膝カックンですわ」
「お前なぁぁぁぁぁぁ!!!」
悔しさにバシバシと床を叩く。
くそう、今でもクッキリと思いだすわあの光との強烈な出会い!!
あの時光を追いかけなければ!!
けどもし黒猫がプラスチックを喉に詰まらせたら、って考えると!!
てかコンビニが善哉を置いといたのが悪いねん!!財前やから善哉が財前で善哉の財前が財前を善哉して善哉の善哉財前善哉財前……あれ、訳分からんくなってきた。
「ほら、買い物行くんでしょ。早う済ましちゃいましょ」
すたすたと玄関に向かう光を慌てて起き上がり追う。
つくづくイケメンは卑怯や。
全裸を阻止するために着せた中学のジャージはめちゃくちゃかっこよく見えるし。(俺が着たらただの芋ジャージやったぞ!!どんなポテンシャルや!!)
今だって貸した服はテキトーやったのにめちゃくちゃかっこよく着こなしやがって………!!
「理不尽や!!!!」
「情緒不安定過ぎやろお嫁さん」
「お前のせいや!!!」
嫁やなんや言われとるけど、俺はれっきとした男や。
そりゃあチ☆コはちっこいかも知れんけど(あれ言ってて泣けてきた)、器はサバンナの砂漠なんざ目やないくらいでかいわ!!(多分!!)
「あ、そや謙也さん」
「何や」
「帰りに本屋寄りません?」
「別にええけど……何でや?」
「いや、謙也さんの息子さんの成長のさせ方を………ねッ………!!」
「んな慰めいらんわ!!つか何プルプル震えてんねん!!笑いたいなら笑えやこのドS!!」
「あははははははははははっ!!!!」
「ほんまに爆笑されると腹立つぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
ぎゃあぎゃあ言いながら駅前に向かって並んで歩く。
何かの本で妻は夫に三歩下がって歩くものや言うてたけど知らん。
俺はもし嫁さん出来たら前でもなく後ろでもなく横にいて欲しいから。
前やと背中しか見えないし、後ろやったら置いていってまう可能性やってある。
やから、隣がええ。
たとえ自分が嫁さんの位置やろうとな!!
「……隣ってええッスわ」
「へっ!?」
余りにもタイムリーなセリフに素っ頓狂な声を出すと、光はくつくつ笑った。
「俺王子様やから。なかなかこういう話し方あっちじゃ出来へんから。」
「そ、そうなんや……」
「おまけにすぐ隣やと、」
にこ、と笑って光は俺の手を取った。
え、ちょお、これはいわゆるお手て繋ぎ……!!
ズシッ
「落としたら承知しませんから」
「へ?」
手に嫌な圧迫感。
すぐにぱっと離された俺の手には鞄の紐。
鞄の中にはぎっしりと善哉。超重い。
……………………あれ?
「いやー、簡単に用を言い付けられるとか最高ッスわー。皆が俺と身分違いやからって距離取るから用言い付けにくかったんですよねー。」
「俺の純情返してぇぇぇぇぇぇ!!!!!?」
ほんまにコイツなんっなんやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
「…………ほな、どのベッドやら机やらソファーにするか選んでや。言っておくけど部屋十畳に収まるようにな!!」
「それくらい分かってますわ。謙也さん喧しい」
「お前はなぁぁぁぁぁぁぁ」
怒鳴りたい気分をぐっと堪えてベンチに座る。
ぶっちゃけ何で家具屋に来るだけでこないに疲れんの…………
虚しい疲れに涙しつつ、家具をテキトーに見てる風の光は遠目から見てもかっこええ。イケメンや、美形や端正や。
そんな光の嫁が男でおまけに180近いとかギャグにすらならん。
やらかしたんは俺やけど、何や本当に申し訳あらへん………
はぁぁぁぁ、とため息をついたところで甘ったるい香水の臭いが俺の鼻孔を掠めた。
「ね、君ーさ、一人?」
「………………はあ」
何やいきなり話し掛けてきたのはギャルって文字とギャグって字が合体したような格好をした……ギャグギャル?
「よかったら私とお茶しない?」
「いや、連れ、がいますので……」
いきなり何やねんこの女の人。
あ、まさか新手のマルチ商法やないやろな………!?
ちょっと怯えながらその女の人を見ると、ニコニコ笑っている。というよりニヤニヤ……?つか俺何やしたったけ……
「ね?行こうよー」
「いや、あの、だから……」
「誰が誰を連れてくんですか?」
背後からいきなり響いた声に驚いて振り向けばレシートをヒラヒラさせた光が、恐ろしく不機嫌そうに立っていた。
「悪いんやけどそこのギャグみたいなギャル。この人は俺の嫁やからあっち行け。むしろ奈落まで逝けや。」
「なっ……嫁……!!?」
目を見開く驚くギャグギャルに、光は殺気立てて繰り返した。
「 あ っ ち 逝 け 」
ようやく光の不機嫌さが分かったのかギャグギャルは慌てたように去っていった。
途中棚に激突しとったけど大丈夫かいな……
「………あれくらい自分で追い払ってください」
「え。あ、せやな。新手のマルチ商法かも知れんし」
俺がそういうと、光は綺麗な形をした目を見開いた。
と、思うとビシッと俺にデコピンをかました。
「いっ……!!何すんねん!!」
「このにぶちん」
それだけ言うや否やさっさと歩きだした光を鞄を持って慌てて追った。
それからが大変なんちゅう言葉にしていいか分からんくらい大変やった。
光が服を試着する度に(もちろん猫耳と尻尾は隠して)女の子が騒ぎ、光がそれを見てため息をつけば鼻血出して倒れる女の子が大量生産。
ついには支配人までもが光の虜になった。
…………何やねん、コレ
俺はそれを遠目から見ていただけやった。(何回か話し掛けられたけど光に言われた通りに丁重にお断りしたで!)
「………これでええッスわ」
服や下着やなんやを大量にレジに置いて、今だにうるさい女の子達を光はウザったいと言わんばかりにまたため息をついていた。
もしかして光、苦手なんかな女の子。
けどそれって勿体ない気ィすんねんけど……めちゃくちゃ。
「謙也さん、持て」
ビッと差し出されたでかい袋に口元が引き攣るが、光はちょお、疲れてるみたいやから持ってやった。
「家に荷物置いたら夕飯の材料買うん付き合ってくれるか?」
「?……何でッスか」
いつもはアンタが勝手に行くのに、と言う風に見てくる光に困ったように笑った。
俺やって光を連れていったらめんどくさい事になるんは分かっとる。引くほどイケメンなのも考えものやって今日分かったし。
だけど、
「今日買い物して、少し光と仲良うなれた気ィするから。やから、もうちょっと一緒に買い物したいねん」
そういって笑えば、光は目を綺麗に丸くして、ぷいと横を向いてしまった。
「あー………アカン、か?」
「………いいですよ、別に」
横を向いたまま言った光に苦笑して、俺達はまた帰路を歩く。
何や、光は光で大変やと分かったから親近感湧いたわ。
「夕飯何にする?」
「デザートに善哉」
「そっちかい!」
ケラケラ笑ってから夕飯の献立を考える。
そういやチーズの賞味期限危なかったな………
「チーズリゾットはどや?」
「お、いいですね。賛成です」
そんな何でもない日常会話が非日常の上で成り立っていることが、俺はおかしくて仕方なかった。
「へー……あれが財前の嫁、か。男やって聞いてビビったけど、あの子なら納得やな……」
俺の順風満帆な日常は、どんどん遠いところに離れていってしまうらしかった。
俺の絶叫が響くまであと―――――――
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何でもない日常と下ネタが売りの黒猫王子です(笑)
とりあえず自分が無駄に下ネタに張り切ります。
とりあえず早く甘くしたいしギャグにしたい。