その日は特に特筆すべきことなんてなくて、いつもどおりな毎日やった。


大学の帰りに、いつも寄るコンビニに行って、たまたま、というか珍しく善哉なんてものが置いてあって、それを買っただけや。

天候はカラッと晴れたいい天気、という訳でもなく、かといってザアザアと雨やら何やらが降った訳でもなく、かといって曇っている訳でもない。

雲が半分青空半分なただの晴れ。
気温は少し低くて、昼寝したら風邪気味になるかな、ってくらいの肌寒さを感じる。

要するに全く特徴がない一日。
いつもどおり消化される日だったんや。



なのに、俺が消化すべき一日は、飲み下すこともできないような、飲み下すものなら三日三晩腹痛に悩まされるであろう一日となったんや。


全ては、黒猫との出会いから。


















「善哉、320円です」

「はい、」

「ありがとうございましたー」

普段と変わらないやる気なさげなアルバイトの青年にレジを頼む。
ちょうど320円払うと、コンビニ袋に善哉とプラスチックのスプーンを入れてくれた。
この青年、仕事はしっかりとこなしてくれるからたとえ態度が悪くても許されるんやろう。

いや、許せるなんて言えた立場やないけど!!
やる気が空回りする俺はこう、仕事できるのがかっこよく見えるんや!!
なんて心の言葉に言い訳したところではたから見たら俺はただのマヌケや。(勝手に一人アワアワしてるんやし)

客観的に見た自分があまりにも滑稽だったので逃げるように俺はコンビニをでる。

後ろで青年がくしゃみをしていた。
ゴメン、噂したのは俺です。


そのまま軽い小走りで裏通りを抜けていこうといつもの道を行く。
善哉が入った袋はカサカサと軽快に単調に音をたてた。



にゃあ





…………そんな声が聞こえたと思ったら手がすっぽ抜けた感。
否、手から袋がすっぽ抜けた感。

前方をみると袋を持った黒猫(粋にピアスなんてしとる)がトタターと逃げていくとこだった。

「あ――――――――!!!!!」

バタバタと急いで黒猫を追う。
いや、そんな意地汚いとかじゃなくて!!!

猫が善哉食ったら腹壊すやろ!!誤ってプラスチックのスプーンでも食べよう者なら死亡フラグや!!!
俺人殺しはしたない!!ん?人やないから猫か!?
てかとりあえず死なせてまうのは嫌や!!


ヒラリと出口のない路地裏に入ってった猫に続いて俺も入っていく。
袋小路や、俺の勝ちやな!!





















ボゥンッ

「へっ…………?!」














落ち着け。
落ち着くんや俺。
こういう時こそ深呼吸。
目のゴミをしっかりとる。

さあカムバック普通の日常!!!

ガバッと顔をあげて路地裏を見る。
フワフワの黒い尻尾。
モコモコの白い綿がついた長くて赤いケープ。
ピンとした黒い猫耳には5つのオリンピックカラーのピアス。
キラキラとした猫耳と猫耳の間に光る金色の王冠。



「……………………………」



しかし、その猫がオシャレしたような王様のような格好は、

俺のような人間が生やし、羽織って、つけている。

問題は、そこやない
そのコスプレしたような人間、みたいな人は、俺が買った善哉が入ったコンビニの袋を綺麗な形をした口で加えているんや!!
つまりそれは、

「………………さっき、の黒猫、さん?」

ということを表す。
だって、だって、こっちに出口なんてないし、ピアスなんてさっきの黒猫がつけてたチャームポイントや。
いやでもそんな非科学的な。

ぐるぐる考えてドツボに嵌まるのは俺のクセ。
こうなったら黒猫さん(仮)をじっくり観察すりゃええんや!!

キョドキョドしていた視線を黒猫さんに向ける。
黒猫さん(仮)は俺に背を向け、顔だけこちらを見ていた。

「…………………………」

「…………………………」

「…………………………」

「………………………うざ」

第一声がそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?

ちょ、ま、酷い!酷いでコレは!!
俺はただ善哉を猫が食べたら危ないと思ったから追ったのに!
その先でこんな毒舌青年に会うなんて酷いわ!!

つかいい加減ツッコミたい!!
なんちゅうかイロイロツッコミどころ多過ぎっちゅー話や!!


「言っておきますけどこの食べ物は俺のモノなんで。」

「え?あ、はぁ…………」

人が買ったものを躊躇いもせず自分のって………ジャイアンかいな。
いや、そこで文句言わずに従った俺はの/び/た君か。いや、ス/ネ/オか?
はあ、と盛大にため息をついて路地裏に背を向ける。



これ以上関わったら面倒なことになるに決まっとる。
へたれなんて言われてまうのは嫌やけど順風満帆な日常にさよならなんてしたくないし。
そこまで俺は好奇心旺盛やない。
残念やったな!!

猫耳尻尾や綿がついた赤いケープ、さっきの小さな黒猫さんが人間みたくなったのはツッコミたくて堪らないけど。














そして大通りに目を向けた瞬間、俺は目を見開いて走りだした。













「猫さん!!!」

今正に大型トラックに迫られ、轢かれてしまいそうな猫さん。
俺の将来の夢は医者。
今も大学で学んで、将来死んでしまいそうな誰かを助けられたら、って思ってる。

だから、


あんな小さな命でも救わないといけないんや!!!
あんな小さな命一つ救えないでなにが医者や!!おこがましいわ!!

思い切り手を伸ばして猫を胸に抱く。
迫ってくるトラックの運転手は完全に寝こけている。













―――――あかん、間に合わない。






せめて猫さんだけは、と思い切り猫さんを抱きしめた。




ブォーッ














忍足謙也20歳
人生、終了のお知らせ。





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