「かえろ」







謙也君がいつもどおり私を迎えにくる。しかし彼の顔が正面から見られない。見たくない。だってあたしの心の中には違う人がいるんだもん








「うん…」
「何や、元気ないな」
「なんでもないよ」









こんなにやさしい謙也君を、私は裏切っているんだ。なんて最低な女なんだろう。












「謙也君」
「ん?」
「ごめんね…」
「?、何が?」
「ううん、別に」


















大都会の大阪も、夜になれば少しは綺麗な空気が流れる。まあ、星はそんなに見えないけど。そんな中私はコンビニへと向かっていた。なんだかむずがゆい気持ちになって、家でじっとしていたくなくなった。コンビニへ入ると、変わらない光景が目に入る。あ、新商品のプリンだ、なんて思いながら商品を見て回る











「あ」
「あ」
「千歳君」
「奇遇ばいね、こげん場所で会うなんて」
「う、ん。そだね」
「散歩?」
「まあ、そんなとこかな」










千歳君に会った。まさかこんなところで会うだなんて、不意打ちじゃない。急に高鳴った心臓を押さえながらあたしは千歳君をチラリと見る。いつもの千歳君だ。制服着てないだけで随分印象変わるな










「…何も買わないの?」
「ああ、俺も散歩のついでばい」
「あ、そうなんだ」
「何か買ったとや?」
「うん、プリン」








おいしそうでしょ、というとニッコリ笑う千歳君。うわ、恥ずかしくなってきた











「あ、じゃあ、あたしそろそろ」
「え、帰るん?」
「う…うん」
「少し一緒に散歩ばせんね?」
「え…」







千歳君と、一緒に散歩…したい。でも誰かに見られたらどうしよう。謙也にばれたらどうしよう。ああもうあたしはなんてずる賢い女なのか













ピピピピ








メールだ。謙也からだった。『今から家こないか?』彼氏と彼女にはよくあるメールだ。私は用事は特に無い。普通だったらいくべきだろう。…でも











「メール、もしかして謙也?」
「え…っ」









ドキ、と心臓が鳴る。なんでわかったんだろう










「…謙也、何て?」
「あ…えと、今から家来ないかって」
「…あー…」






じゃ、散歩は無理ばいね、と苦笑いする千歳君。ズキンと胸が痛んだ。あたし、千歳君と散歩がしたいのに














「じゃ、謙也によろしく」
「え」
「おやすみ」









そういうと、千歳君はカラン、と下駄を鳴らしながらあたしに背を向けて歩き出した。やだ、いかないで、いかないで、いかないで

















「いかないで!」
「…え」












ああ、あたしなんてことしているんだろう。いつの間にか千歳君の背中に抱きついていた。広い広い背中。いつも見ていた背中。なんていとおしいの











「…ばってん、謙也が…」
「…あたし、千歳君といたい…」
「え」
「千歳君といたいの」

















「…じゃ、共犯ってことで」














あたしはその夜、罪を犯した。だけど怖くないよ、頼もしい味方がいたからね








end.




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