3
「かえろ」
謙也君がいつもどおり私を迎えにくる。しかし彼の顔が正面から見られない。見たくない。だってあたしの心の中には違う人がいるんだもん
「うん…」
「何や、元気ないな」
「なんでもないよ」
こんなにやさしい謙也君を、私は裏切っているんだ。なんて最低な女なんだろう。
「謙也君」
「ん?」
「ごめんね…」
「?、何が?」
「ううん、別に」
・
・
大都会の大阪も、夜になれば少しは綺麗な空気が流れる。まあ、星はそんなに見えないけど。そんな中私はコンビニへと向かっていた。なんだかむずがゆい気持ちになって、家でじっとしていたくなくなった。コンビニへ入ると、変わらない光景が目に入る。あ、新商品のプリンだ、なんて思いながら商品を見て回る
「あ」
「あ」
「千歳君」
「奇遇ばいね、こげん場所で会うなんて」
「う、ん。そだね」
「散歩?」
「まあ、そんなとこかな」
千歳君に会った。まさかこんなところで会うだなんて、不意打ちじゃない。急に高鳴った心臓を押さえながらあたしは千歳君をチラリと見る。いつもの千歳君だ。制服着てないだけで随分印象変わるな
「…何も買わないの?」
「ああ、俺も散歩のついでばい」
「あ、そうなんだ」
「何か買ったとや?」
「うん、プリン」
おいしそうでしょ、というとニッコリ笑う千歳君。うわ、恥ずかしくなってきた
「あ、じゃあ、あたしそろそろ」
「え、帰るん?」
「う…うん」
「少し一緒に散歩ばせんね?」
「え…」
千歳君と、一緒に散歩…したい。でも誰かに見られたらどうしよう。謙也にばれたらどうしよう。ああもうあたしはなんてずる賢い女なのか
ピピピピ
メールだ。謙也からだった。『今から家こないか?』彼氏と彼女にはよくあるメールだ。私は用事は特に無い。普通だったらいくべきだろう。…でも
「メール、もしかして謙也?」
「え…っ」
ドキ、と心臓が鳴る。なんでわかったんだろう
「…謙也、何て?」
「あ…えと、今から家来ないかって」
「…あー…」
じゃ、散歩は無理ばいね、と苦笑いする千歳君。ズキンと胸が痛んだ。あたし、千歳君と散歩がしたいのに
「じゃ、謙也によろしく」
「え」
「おやすみ」
そういうと、千歳君はカラン、と下駄を鳴らしながらあたしに背を向けて歩き出した。やだ、いかないで、いかないで、いかないで
「いかないで!」
「…え」
ああ、あたしなんてことしているんだろう。いつの間にか千歳君の背中に抱きついていた。広い広い背中。いつも見ていた背中。なんていとおしいの
「…ばってん、謙也が…」
「…あたし、千歳君といたい…」
「え」
「千歳君といたいの」
「…じゃ、共犯ってことで」
あたしはその夜、罪を犯した。だけど怖くないよ、頼もしい味方がいたからね
end.