離れられない
気が付けば11時。もう消灯時間だ。千歳はまだすねてる…どうしよ
「…千歳、おやすみ」
「……………………」
千歳は枕をギュッと抱きしめて明後日の方向を向いたまま返事もしない。仕方ないのになあ
「名前もうねるん?トランプしようやー」
「遠山君、もう消灯時間。」
「えーおもろないなあ」
「白石に怒られるよ〜」
「ワイねるわ!!」
遠山君はばっと布団を被って寝てしまった。そんなに白石が怖いのか。
「じゃあ白石、また明日」
「ああ、おやすみな。…千歳ええんか?」
「…だって仕方ないじゃん」
「ま、真田くんらへんにばれたら大変なことになりそうやしな」
「でしょ、おやすみ」
「ん」
▽
「………………………」
隣のやかましい部屋から自分の部屋に戻ると一気に静かになって寂しくなった。それにこの部屋の広さはなんなんだろ。でっかいダブルベッドがどかんと置いてあり無駄に空間が広い。
「…………寝よ」
寂しさとほんのちょっとの恐怖をかかえてあたしはねむりについた。
▽
「…寝れない」
時間は1時。もうかれこれ2時間だ。なんであたしはこんな広い部屋に一人でねてるの?なんでこんなにベッドが広いの?怖いよ寂しいよ。あたしはもう寝付けないだろうと確信した。
「……千歳」
あの時千歳を拒まなきゃよかった。千歳も今寂しい思いしてるのかな。いつも隣にいる人がいないだけでこんなに変わるんだなあ。どうしよ、隣の部屋までいく?桜乃ちゃんの部屋にいってみるとか?でも確か桜乃ちゃんは竜崎先生と同じ部屋なんだよなあ。ああもうどうしたら…怖いよ…この部屋!
ガチャ…
えっ?ガチャ?今ドアがあいた?待った待ったこの部屋にガチャって開くドアは入り口しかないよ?やだ怖い。怖いよ。ああもうあたし恐怖で死んじゃうかも
ギシ、
ベッドのスプリングが音をたてる。やだ襲われる、死にたくないよ、やだやだやだ
「………やっ…やだ…っ……」
ばっと布団をはぎ取りベッドから脱出しようとしたらあたしは腕をグイッと捕まれて再びベッドへ戻された。
「や、やだ!やめてっ」
「名前、名前、俺」
「……え?」
「………ひどか、変質者扱いやね」
「……ち、千歳?」
「…来ちゃった」
え?千歳?変質者でも幽霊でもなくて千歳?あたしは急に体の力が抜けて涙腺が緩み涙がポロポロでてきた
「…う」
「名前?」
「こわかった…」
「す、すまんばい!ノックした方がよかったばいね」
千歳はあたしを抱き締めて頭を撫でてくれた。ホントにホントに恐かった。死んじゃうかと思った。あたしは素直に千歳に抱きつくことにした
「名前、…一緒に寝たいばい」
「…あたしも……」
「ははっじゃ、寝よ?」
「うん…」
その夜は千歳に抱きつきながら一緒に寝た。さっきまで広かったダブルベッドもちょうどよくなって怖さも寂しさもどっかに行ってしまった。千歳とはもう離れられないんだと思った