幻の夜は消えたらしい
1日が過ぎていくのが早い。特に何もない毎日がどんどん過ぎていった。雅治が出ていく日が近づいている。
「…明日かあ、仁王君が出ていく日」
「………」
「ねえ、どうするの?」
「………」
「名前聞いてる?」
「友子、その話やめて」
友子はしばらく静かになった。
「…雅治がいなくなったら…」
「……え」
「朝起きても1人で、学校から帰ってきてからも一人で、寝るときも一人で…」
「でもそれが本来の生活なんだよね」
「…うん」
その日は一日中授業の内容が頭に入らなかった。ぼーっとしながら時間だけが過ぎていき、なんだか不思議な気分だった
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「名前、かえろー」
「うん」
友子がカバンを持って教室の扉のところであたしを待っていた。急いで支度して友子のもとへ駆け寄り、玄関へと向かった
「あれ?」
「どうしたの?」
靴箱から靴を取り出して校門へと向かう途中、友子が立ち止まった。視線の先をたどると見覚えのある人物が
「…あれ、雅治?」
「名前ちゃん」
「何してるのこんなところで…」
「名前ちゃんのこと待ってたにきまってるぜよ」
「…あ、帰る?」
「帰る」
「…ごめん友子、あたし雅治と帰る」
「いーよいーよ、気にしないで」
友子に謝ってあたしは雅治と帰ることにした。珍しいなあ、高等部のとこに雅治が来るの。
「ていうか、言ってくれたらあたしが迎えに行ったのに」
「名前ちゃんのこと待ちたかったんじゃ」
「…人に見られたら困るのに」
「……」
「……」
「…名前ちゃん」
「何?」
「今日焼肉がいい」
「…また贅沢言って」
「だめ?」
「…仕方ないなあ」
帰りみち、あたしと雅治は二人で近所のスーパーに寄ることにした。どうか焼肉用の肉が安くなってますように。
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「いただきまーす」
「…どうぞ」
目の前にずらりと並ぶ肉。結局安くなってなかったし。最近食費が絶対高い気がする。
「名前ちゃん食べんの?」
「…食べる」
「あっそれ俺の肉なり」
「知らない」
あたしは雅治がキープしてた肉を食べてやった。雅治がちょっとだけ怒ってたけど別に怖くなかった。
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「で、そのあと柳が…」
「………」
「…名前ちゃん?」
「………」
「…寝てる…」
今目の前に箸を持ったまま寝てる女がいる。なんて器用なんじゃ。それにしてもいいタイミングで寝るのう。
(多分、今しかない)
俺は寝室から毛布を持ってきて名前ちゃんにかけてやった。この家にあるほんの少しの俺の荷物をまとめて制服の上着を着た。
「…名前ちゃん、もう居候ごっこは終わりじゃ」