好きです



このまま電車で帰ろう、置いてきた服はあきらめる、別にいい服でもない。でも、手持ちがない。歩いて帰るか、いや、無理だ、



いろんな思いを巡らせて、私は校舎裏のようなところでヘタリと座り込んだ。自分の貧乏さに、嫌気がさした。一人で帰る事も出来ない。みじめだ。足に豆が出来ている、慣れない靴を履いたからだ。





ぶわ、と涙があふれた








「…う、…うっ」






ぎゅっと目をつむると、脳裏に景吾とさっきの女の子たちの姿が浮かんだ。また涙があふれてきた。










「名前!」





いとしい声がして、目を見開いた。顔は上げなかった。泣き顔を見られたくなかったし、景吾の顔を見たらもっと泣いてしまう





「おい、何してんだ」
「………」
「俺の視界に居ろって言ったろ」
「………ごめん、なさい…」





しばらく景吾は、私の様子をうかがっていたようで、動こうとしない私を見ると、隣に腰を下ろした。スーツ、汚れちゃうのに…


沈黙が続いて、私は顔をあげるタイミングもないまま時間が過ぎてった。しばらくすると、のし、と私の上に重みが加わる、



違う、抱きしめられてるんだ、そうわかったのは回された手が、私の頬を後ろからなでたから







「…景、吾…」
「……悪いが、お前が泣いてる理由が見つからねえ」
「泣いてないもん…」
「何言ってんだ」
「…泣いて…ない…」





景吾はポケットから取り出したハンカチで私の涙をぬぐった。ああ、こういう時にハンカチを使うんだ、私はわざわざ買ってきたハンカチの存在を思い出した。




「なんかあったのか?忍足に変なことでも言われたか?」







射抜くような目で見つめられて、思わず目が離せなくなってしまった。綺麗な目、綺麗な顔、綺麗な声、キラキラと輝く彼のすべてが、私の物になればいいのに、私はいつからこんなに欲深くなってしまったんだろう。いつからこんなに、彼のことが、愛おしくなってしまったんだろう、


最初は、とんでもないやつだと思ってたのに






なんでこんなに、好きになっちゃったの







「す…き……景、吾、…すき、好き。すき、すき、好き、…」





思わず景吾に抱きついて、独り言のように呟いた





「すき、大好き、大好き、どこにもいかないで」






回された腕に、力が入った。景吾は何も言わず、なだめるように私を抱きしめて、背中をさすってくれた。





ゆっくり、景吾が動いて、私も顔をあげると、唇と唇が重なった、あったかくて、やさしいキスだった






「…なんで?」
「…何がだ」
「なんで、キス、するの?」
「…お前な…」
「私、こんなにみっともないのに、全然お金持ちとかじゃないのに、」



またボロボロと涙が出てきて、景吾がハンカチでぬぐってくれた




「ばか、泣くな」
「…またばかって言う…」



鼻をすすりながら景吾の方を向くと、やさしい瞳と目があった。






「…ほんとに、お前はばかだな…」
「……うっ、うぅ、」












「お前は特別だって言っただろ?」





景吾はそういうと、さっきよりも激しく、私にキスをした






ねえ、私、この人のこと好きでいても、いいのかなあ





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