すっかり忘れてました
パーティー。そんなものにお呼ばれしたことは、ない。パーティーという名のつくものは、まあ良くて家族で行う誕生日パーティーか、友達とやるたこ焼きパーティーくらいで、イブニングドレスが必要なパーティーなんて行ったことがなかった。
「(景吾は手ぶらでいいって言ってたけど…)」
さすがにそれはまずい。普通にハンカチとか、ポーチとか。必要な物はたくさんある。ちなみに後から電話で聞いた話によれば、ドレスとおそろいのバッグも用意してあるとのこと。さすが跡部様、準備がよろしい。じゃあ、あと何を持っていけば…と考えた時、タンスをあけるとぼろ布のようなハンカチしかなかった。ポーチも安っぽいし汚い。
ということで、ハンカチとポーチを買いに東京の伊勢丹まで来たわけだけど…
「(ひ、人が多いよ〜!)」
夕方だし、これから出勤のお姉さんやら普通に買い物中のおばさんやらサラリーマンやら、学校帰りの学生やら、様々だ。こんなに沢山人がいるところ、久々だ…
伊勢丹の前でぐらぐらしていると、ポンと肩に手が。振り向くと、氷帝学園の制服をきた、男の子だった。もしや、ナンパ?と思ったけど…
「お姉ちゃん、もしかして跡部の家のメイドちゃう?」
「(関西弁!)」
「せやろ?そのカギ、跡部も持ってたしなあ」
「…そ、そうですけど…」
「ハハ、そんな警戒せんといて。俺忍足侑士。跡部とは部活の友達や。」
「え…そうなんですか?」
そのオシタリさんって人は、ニヤニヤしながら私をじっとり見まわす。なんだこいつは…
「へーえ」
「な、何ですか…?」
「いやいや、跡部が大事にしてるお姫さん、こんな間近で見れると思わへんかったし」
「ひ、姫さんって…」
なんか、恥ずかしい、
「で、君立海の生徒やろ?なんでこないなとこおんねん」
「あ…ハンカチを買いに…」
「は?」
・
・
「あ〜あのパーティーか。毎年行われてる」
「ま、毎年やってるんですか?」
「せやで、氷帝の行事みたいなもんや」
「ほえ〜…行事…」
所変わって某チェーンカフェでオシタリさんとお茶をしているわけなんだけど…行事って、行事って何?
「跡部は氷帝学園に寄付金も多く出してるし、生徒会長やし、テニス部部長やし、まあ人望も厚いし?そんなわけで毎年誕生日パーティーが行われるんや」
「な、なんか良くわかんない…」
「ま、大人の事情と物好きな奴らの行動力が生んだ行事やな」
「へえ…」
なんか良くわかんないけど、毎年恒例なんだね
「で、姫さんもそのパーティーに呼ばれたってわけか…」
「うん。ドレスとかは景吾が用意してくれたんだけど…ハンカチとかポーチはゴミみたいなものしか持ってないから…」
「それ、自払なん?」
「うん、そんなに景吾に甘えられないし。お小遣い全部持ってきたから大丈夫だよ」
「姫さん、プレゼント用意したんか?」
プレゼント?
「…え?」
「いやまあ、プレゼント用意するのは個人の自由やけど…。自分、跡部のこと好きちゃうんか?」
「……す、き…って…」
ビックリして、心臓がバクバクした。まさかこんなに核心を突かれるなんて思わなくて、私は言葉が出なかった。
「好きちゃうの?」
「私は…」
「好きやろ?少なくとも跡部は好きやと思うねんけどなあ。そないなおそろいのカギ持たせるくらいやし」
「私は…」
どうしてもそのあとが出てこなかった。だって、どんなに私が景吾のことを好きでも、とてもじゃないけど身分が違いすぎる。私は、景吾のことがすき。そんなことわかってる。でも、口に出す資格が、ない…
「……………」
「まあ、それはええねんけど…」
オシタリ君はダンマリを決め込んだ私に焦りながらコーヒーをすすった。
「プレゼント、買わへんの?何考えてるかしらへんけど、プレゼントわたすのはタダやで」
プレゼント、かあ。すっかり忘れてた。でも景吾の好きなものなんか、知らないし、プレゼントなんか買ったら、ハンカチとポーチが買えなくなっちゃう…
どうしよう!