初めて笑ってくれました


お屋敷につくと、とりあえず一服、と言って景吾の部屋にお茶とお菓子が運ばれてきた。私がやるはずの仕事を他の人がやってくれている。そんな事実に私はもう息苦しくてたまらなくて、景吾のスキをみて、他のメイドの人たちに謝りにいくことにした。







「本当にすみません、私がやるべきことなのに、」
「いえいえいいのよ、苗字さんが来てから景吾様の機嫌もすこぶるいいし、ねえ」
「そうそう、お部屋の掃除は苗字さんがやってくれてるし、前みたいに部屋に入っていいかダメかでいざこざになることも無くなったしねえ」
「そ、そうですか…?」
「うん、そうよ。だからそんな深刻な顔してないで」
「寧ろ今日は出勤日じゃないのに景吾様に呼び出されたのでしょう?お気の毒だわ」






どうやら私の心配は無駄だったらしい。メイドの人たちの世間話に花が開いてきたとこで、私はそうっと景吾の部屋へと戻った。





ガチャ



「遅くなりました、」
「どこ行ってたんだよ、紅茶が冷めるぞ」
「ごめんなさい」






急いで景吾の隣の椅子に座ると、景吾は私のカップに紅茶を注いでくれた。ああ、なにからなにまで…







「…そうだ」
「?、…なんですか…?」
「それもやめろ」
「へ?」
「敬語を使うな」
「……え、え、えええ」
「お前だけに許す」
「……っ。」



また、そんなこと言う





「…わかりま…わかった」





景吾は私の言葉に満足そうな笑顔をこぼすと上品に紅茶をすすった。なんか今日で色々と彼との距離が近くなった気がする。いいことなのか悪いことなのか







「あ、あの、今日は一体どういう用件で…」
「ああ、実はお前に見せたいものがあってな」
「見せたい、もの…?」


景吾は棚から一冊の大きな本を取って、私に見せた。これは…





「ドレスの、カタログ…?」
「ああ、実は来週俺の誕生パーティーが行われる。お前にも出席してもらおうと思ってな」
「………え?」
「どうやらてめえは相当耳が悪いようだな。」
「いや聞こえてるんだけど…」
「…場所は氷帝の第一講堂だ。主な出席者はテニス部の奴らだが、氷帝の生徒なら誰でも参加可能になっている。外部の奴なら俺からの招待状が必要だ」
「…え、あの、私なんかが行ってもいいの…?」
「…てめえは相当自分を蔑むのが好きらしいな」
「え?」
「お前は俺の専属メイドだ。その時点で自分にもっと誇りを持て。」
「…そ、そんなこと言われても」
「まあいい、自信なんて後から付いてくるものだしな。それより、そのパーティーでのドレスをお前に選んでもらおうと思ったんだよ」






え、…それってつまり






「こ、このドレス、私貰えるの!?」
「ああ、好きなの選べよ」
「ほ、ホントに、ホントにいいの?」
「ああ」






そんな、こんな高そうなドレス一生お目にかかれないよ、ましてや其れを手に入れるなんて持っての他。普通に嬉しかった。嬉しくて、涙が出そう





「…おい、名前、てめえ泣いてんのか?」
「…な、泣いてない」
「ハッ、…ばかだな」






景吾が私の涙をぬぐおうとしたから、私は自分でごしごし涙をぬぐった。







「ありがとう、嬉しい」







満面の笑みを浮かべてそう言うと、初めて景吾がやさしく私に笑いかけた。




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