どこいったの
千歳が名前ちゃんの腕引っ張ってるとこみて、真っ黒な気持ちが生まれた。いわゆる嫉妬。ほんま、情けな、とか思って、ああやっぱり、俺名前ちゃんに惚れとるんやとかいまさら実感した。
「ごめん、しらいし、君、」
「ちょ、泣かんといて、」
「う、ごめ…」
しかも今、目の前には泣きじゃくる名前ちゃん。なんで泣いとるんかは知らんけど、男として、彼女を慰めて、泣きやませてあげるべきなんだろう。
でも、そんなんする余裕なかった
自分でも自分を馬鹿だと罵りたいくらいだった
もう、この子が、苗字にしか見えなくて、頭ん中、苗字ばっかになってた
「…ほんまに、泣かんといて」
「白石、君…?」
「名前ちゃんが、泣いてると、……が…」
「…え?」
「…苗字が泣いてるみたいで、めっちゃ苦しいんや」
その瞬間、俺は名前ちゃんをきつくきつく抱き締めた。けど、もう苗字を抱いてるようにしか感じなくて、名前ちゃんの髪の毛から香る匂いも、前苗字の髪からした匂いと同じなような気がして
「…ごめん、ほんまに最悪やけどな、
俺、苗字が頭から離れへんねん」
そういった瞬間、名前ちゃんの顔から、表情が消えた。本当に、人形のような顔で、目が離せなくなった
「…ほんま、ごめんな」
「………」
「…名前ちゃん?」
「…っ、ごめん」
バッ
勢いよくつないだ手を放して、名前ちゃんは走ってどこかへ消えた。…あーもう、ほんまに、俺なにしてんねやろ。やっぱ、後悔が残った。
名前ちゃんと近づけば近づくほど、苗字が遠くなっていく気がしたのに、名前ちゃんと離れた途端、
苗字が、どっか遠くに、消えてったきがした
・
・
こんな勢いで走ったの、いつぶりだろう、すごい汗が出てきて、もう早く家に帰って涼みたいと思ったのに、足は何故か四天宝寺のテニスコートへ向かっていた。なんでだろう。コートに着くと、誰もいなくて、セミの鳴き声しかしなかった。
ポタリポタリ、涙が落ちる。
気づいたら「名前」の居場所が、なくなってた