どうしよう



木村さんの運転する車で家に帰ると、私はすぐに部屋に戻って、クローゼットを開けた。はやく土曜日にならないかなあ、何を着て行こう!鼻歌歌いながら服を漁っていると、ガチャ、とドアが開いた




「名前ー」
「わっお母さん…っ、ちょっと、ノックくらいしてよね」
「ごめんごめん」
「何?ごはん?」
「あーもう少しよ。…ねえ名前」
「何?」
「…学校、どうするの?」







ドクン、と胸がなる。考えなきゃいけないのに、考えることを避けてきた、話。







「………」
「男装、始めるときに、覚悟決めたことでしょ」
「………うん」
「まあお母さんとしては、女の子として生活してほしいけど」
「………」
「もういいの?いいなら学校、元に戻る?」
「……もう少し、待って。私考えるから」
「………あと…」
「…?」
「ううん、なんでもない。名前がどうするか決めたら話すわね」
「…うん?」





お母さんは静かに戸をあけて出て行った。何を言いたかったんだろう?…とりあえず、お母さんの言うとおり、ちゃんと考えなきゃ、これからのこと。














数日後。ついに土曜日が来る。あわわわどうしよう!白石君とデートする日になっちゃったよー!ドキドキがとまんない、






「えっと、忘れ物は、」



ハンカチとティッシュと、化粧品と日焼け止めと鏡と…とりあえず身だしなみとしての持ち物は持った。





「…はあ、本当に、緊張する」




いざ出陣!


















まずは練習の見学から。だからあんまり派手な服は避けようと思って、普通に白のワンピースにした。ちなみに前とは違うデザインの奴。白石君に気に入ってもらいたいなあ…なんて





あ、練習始まった




私はいつものごとく、コートの外にある木陰にすわって、日傘をさしながら見学をする。たまに白石君と目があって、

なんかどきどきした





「……あ」


そういえば、もう1週間以上マネージャー業してない。そんなことを考えてたら、男装の件を思い出してしまう。本当にどうしよう…。あんまりうかれてる場合じゃないのになあ…。








「…ちゃんと考えないと…」






どうしたもんかなあ

















名前ちゃんの姿が、いつもの木陰に見える。それだけでなんだか安心した。昨日は苗字もいないのに、名前ちゃんも見に来てくれてなくて、なんだか心にぽっかり穴があいたような気分だった





「…て、ちゃう!名前ちゃんは男装時の代わりやないで」





ほんまに。なんや深刻な問題になってきたわ…。あかんなあ、俺。






「白石!今日もあの子来とるやん」
「謙也…」
「ほんま、かわええ子やな、お前幸せにしたれよ」
「…え」
「まあ、俺は男装時と幸せになるけどな!!」
「………てかあいつはホモちゃうやろ」
「う」



謙也は顔を真っ青にした。図星ってやつか。なんでやろ、ほんまやったら、言われてめっちゃ嬉しいはずなのに、…名前ちゃんとこれから仲がもっと深まっていくにつれて、苗字が、ほんまにどっかにいってしまいそうな気がして怖くなった





ちらりと名前ちゃんの方を見ると、何か考え込んでるみたいで、俯いていた。どないしたんやろ。あの子が笑ってると嬉しくなるし、落ち込んでるとめっちゃ心配になる。






「…これってやっぱ、恋やんな、」








なのにちらつく、苗字の笑った顔とかが。ほんまに、なんでなんやろ…

















部活を終えた白石君に、ドリンク渡しに言ったら、門のとこで待っててって言われた。男装の問題とかもう頭からすっぽ抜けて、私は頭の中を花畑にしながら門へ向かった。暑いから、日傘さそう。白石君時間かかりそうだなあ。傘で顔を覆って、なるべく日差しを避けて、下を向きながら門で待ってたら、私の前で誰かが立ち止った。白石君?








「…え…」
「名前」
「…千歳…」



あ、どうしよう

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