不幸中の幸い
「え?今のキス?あーちがうちがうキスじゃないよ、白石君が目にゴミ入ったって言うから取ってたの。抱き合ってた?あーそれもちがう。ゴミが取れたから喜びのハグをしてたんだよ」
「さっきから何いうてんの男装時きゅん」
「俺別に目にゴミはいってないで?」
「なにを呑気なこと言ってんの白石君!!!」
なんてこった。小春に正体がばれてしまった。おまけに白石君とのいちゃつき現場まで目撃されて。今すぐ消えてしまいたい、だいたいなんで白石君はこんなに冷静なんだ?
「だって、自慢したいやん。名前のこと」
「自慢しなくてよろしい」
話が通じない。
「でも…確かに男装時きゅんは可愛らしい顔やなあ思てたけど、ほんまに女の子だったのねぇ」
「こ、小春…このことは、」
「事情を聞いたところ、男装時きゅんのクラリンへの想いは本物じゃない!絶対誰にも言わへんで」
禁断の恋、もえるわあ、と体をくねらせる小春。まあ小春に見られたのは不幸中の幸いかな。謙也なんかにばれたらもう考えただけでめんどくさい…
「学校でいちゃつくのも程々にネっ」
「だって白石君が」
「しゃーないやん名前のこと思うゆえや」
「二人はほんまに仲ええのね〜」
複雑な気分で部室を出る。もう一時間目始まるよ。急いで教室に戻ろうとしたとき、小春がひそっと耳打ちした
「男装時きゅん、ううん名前ちゃん。くらりんのこと、大切にしてあげてね」
「え…」
「知ってると思うけどクラリンは女の子にだいぶ悩まされてきたから、好きな子ができたなんて奇跡みたいなもんなのよ」
「奇跡…」
「クラリン、ちょっと変態やから、
大変なこともあるかもしれへんけど、名前ちゃんのこと傷付けたりは絶対せえへんしな」
「…うん。それは、わかってる」
でも、学ラン美少年のちちくり合いやなんて、ええねえ、もえるわあ、
とか頬を染めながら語る小春を横目に、白石君を見た。確かに女の子に悩まされてきたのは事実だろう。そのせいで私もこんな男装する羽目になったわけだし…
「白石君」
「ん?なんや?」
「…ううん、なんでもない」
「なんやねん」
私も、
ちゃんと大切にしよう。白石君のこと。