しかたない
衣装担当の春野さんの訴えで、思わずOKしてしまった。やばい、私、今非常にマズイことを口走ったような、気がする。私が了承した瞬間、隣の謙也が奇声をあげて喜んだ。謙也、最近本当に大丈夫かってくらい変な時がある。
「…あああ、ど、どーしよう、白石君、俺、やばいこと了承ちゃった…」
話し合いが終わり、教室の隅でコソっと白石君に話しかけた。だけど白石君は終始ニコニコしてて、嗚呼絶対楽しんでる、と私は肩を落とした
「ま、ええんちゃう?俺も男装時の女装姿見たいし」
「…白石君、楽しんでるだろ」
「大丈夫大丈夫、ヤバイ時は、俺が守ったるし」
白石君がいたずらっぽい顔で笑う。こんな時に何ドキドキしてるんだ私は…。必死で落ち着こうと胸をさすっていると、後ろから誰かに声をかけられた
「あ、あの…苗字君」
「あ…春野さん」
「あの、ごめんね、嫌だったのに、無理にやらせて」
「ああ、いや、いいよ。衣装作ってくれたんだろ?ありがとな」
「ううん…私がやりたかっただけだから…。それで、あの…」
「ん?何?」
「今日、できた衣装持ってきたの、…よかったら、きてもらえないかな?」
「………え」
春野さんは持っていた大きな紙袋から、ヒラヒラしたメイド服を取りだした。すご、これ手作り?…ってそうじゃなくて!今はやばいよ!いや今じゃなくてもやばいんだけども!
「え、…いま?」
「うん、良かったらサイズ合わせてほしいなって」
春野さんがメイド服を広げて俺に見せてきたから、周りのうるさいやつらも集まってきた。
「うわ、めっちゃかわええやん!きてみいや」
「てかこれ手作りなん?すごない?」
「わ、ヒラッヒラ…」
集まってきた男子たちが何やら色々言っている。いや、今着るのはホントにマズイ…でも春野さんもサイズ合わせないと困るのかな、ああもうどうしよう
「めっっっっちゃかわいいやん!!絶対にあう!絶対男装時ににあう!」
「わ、謙也」
「き、ききききてみたら、ええやんか」
「…なんか謙也、最近ほんとキモイ」
「え、キモ…」
一気に謙也のテンションは下がる。そんな謙也をよそに、白石君が近寄って私の耳元で言った。
「大丈夫、俺もいるし、サイズ図らせてやりや」
「…で、でもっ」
「どないするん?きてくれないなら直接サイズ図らせて欲しい言われたら」
「…!」
確かに。サイズを測る事になったら、服も全部脱がなきゃいけなくなる。そしたら春野さんに女だってばれる…
「それはまずい」
「せやろ?」
白石君はニコリと笑い、春野さんから衣装を受け取り私に渡した。
「トイレで着替えきたらええやん」
白石君がそう促して、私は仕方なくメイド服を抱えてトイレへ向かった