よかった
今日は準決勝。準決勝。これに勝ったら決勝。
「…皆、がんばって…」
なんかもうひたすら願うしかなかった。しかも、白石君からの試合なんて!ドキドキする!千歳のことで頭いっぱいだったけど、私の頭の中はすっかり白石君一色になった。単純だな自分
「し、白石君!」
「…苗字」
「……」
「……」
白石君を、睨んでみる。
「…な、なんやねん、そないに睨んで」
「………俺…がんばって応援するから」
「…お、おう」
「…俺、二人で、応援してるから」
「二人…?」
「がんばれ!」
不思議な顔をした白石君をよそに、私は謙也に緊張しておなか痛いからトイレ!とか言って、トイレへ駆け込む。
ずっと思ってたんだ。
不謹慎かもしれないけど、
女の姿で、白石君の試合、見たいって
・
・
「よし、完璧だ」
こんなこともあろうかと、準備していた女装グッズ。ふわっふわのロングのウィッグに真っ白ワンピース。女の中の女って感じになるだろう。
鏡で確認すると、もう女にしか見えなかった。私はミュールをはいて、走りにくい足でかけあしでコートへ向かう。
ちょうど白石君の試合が始まったところだった。私は皆と離れたところで、スコアを書きながら、応援した。
白石君の、テニス姿…かっこいい、なんて言いながらスコアを書く。やっぱり、彼のテニスが、好き。好きだなあ。
最初は白石君が超優勢で、あと一ポイントってとこで、相手が巻き返してきた。うーん、すごいなあ。なんか、テニスじゃないみたい(いやテニスなんだけど)
「白石君!がんばれ!」
届いてるかもわからない応援をしてみる。ほんとに、勝ってほしい。
「…がんばって、白石君」
もうひたすら見つめるしかなくて、ひたすら試合を見た。目で追うのがやっと…私に運動は無理だなと少し思った。
「…あ!」
目で追うのがやっとだったけど、審判の声でわかった、白石君、勝ったんだ!
「…わ、あ」
どうしよ!すっごいうれしい!
白石君が、勝った!
私は用意してたドリンクとタオルを持って、白石君がベンチへ戻ってくるのを待った
・
・
「はあ、結構疲れたわ」
「白石ええ試合やったでー!」
「なあ、苗字は?」
「あ、ああ、男装時なら試合開始前に、腹が痛いとかでトイレ行ったままやで」
「え…トイレ?」
そんな、苗字あんなに応援する言うてたんに、…っていうか、さっき苗字が言ってた、「二人」ってなんだったんやろ…。それにしても
「…あいつの'おつかれ'がないと、…なんや試合終わった気ぃせんわ…」
トイレいって、あいつの様子でも見に行こうとした、その時
「白石君」
目に入ってきたのは、白いワンピースと、ふわふわの髪の毛。
そんでこの香り、前にどこかで、
「…あ…」
「…お疲れ様です、ずっと見てました。…おめでとう、かっこよかったです」
「…君、春休みに来てくれた…」
せや、あの時の、女の子…!ずっと会いたいと思ってたけど、まさかこんなとこで会うとおもっとらんかった
「これ、使ってください」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、私はこれで」
「あ、待ってや!」
「…!」
「なあ、名前、名前教えてくれん?」
「……」
「いつも応援してくれてるみたいやし、」
「…名前」
「え」
「名前です」
そういうと、彼女は駆け足で立ち去って行った。
「…名前、ちゃん…か」
会えて、良かったと思った