また明日
「あ、仁王くん」
キラキラとした太陽の光が差し込む部屋に、この前よりも生き生きした声が通る。開けた戸をパタンとしめて、俺はカバンを近くの椅子に置いた。
「顔色、良くなったのう」
「うん、痛みがひいてきたの」
「そうか、よかった」
「…それ、学校の制服?」
「ああ、そうじゃ」
「…いいなあ、私も早く着たいな」
前よりも笑うようになったようだ。名前はお見舞いにもらったクッキーを俺に勧めてきたが、甘いものは苦手だから断っていった
「仁王くん、毎日お見舞いありがとう」
「…ああ、早く元気になりんしゃい」
「うん、私も早くみんなのこと、思い出したいし」
「…そうじゃな」
ジャッカル君は覚えてるんだけどな、と俯く名前。どうやら記憶の方は未だに戻らないらしい。名前の両親の話によると、まだ親の名前も思い出せないらしい。俺のことも、仁王君とか呼ぶが、一生懸命覚えたそうだ。ついでに他のテニス部の奴らの名前も。
「焦りなさんな、そのうち思い出す」
「うん、ありがとう」
名前には、俺が元カレだったことは伝えなかった。ついでにまだ名前が俺のことを好きだったことも。伝えたところで、お互い傷つくだけだ
『雅治くん』
ふと脳裏に事故る前の名前の顔が過る。もう名前は、俺を雅治くんとは言わない。笑顔は全く同じなのに、中身は恐ろしいほど異なっている。なんだか背筋がゾクリとした
「…じゃあ、今日はおいとまするかのう」
「あ…じゃあ見送りに」
「病人は大人しく寝ときんしゃい」
名前は申し訳なさそうに俺に手を振った。俺もヒラヒラ手を振った。また明日、また明日、とお互い声をかける。また明日あえる、なんだか大切な約束のような言葉だった