もう一度





すきなひとが

もしすきなひとが
自分のことを忘れてしまったらどうなるのかたまに考えてみる事がしばしばあった。そして考えるたびに、視界が真っ暗になりそうになったから、いつも考えるのを途中でやめた。














そして今、それは現実になった













「…仁王、」










しんと静まり返った病院の廊下。今名前の病室には脳外科の医師が診察中だ。生気がない顔をしている俺に柳が声をかける。柳の声にも、何か精一杯さが伝わってきた。俺は泣きもせず、笑いもせず、まるで廃人になったかのようだった。









「…目の前が真っ暗にってのは、こういうことか」





ぼそ、と呟いてみる。今、俺は暗闇の中にいた。いつも俺が、逃げてきた世界。名前の中に、俺がいない世界。涙はでなかった。感情といえる、すべてのものが、消え去ったような感じだった。







しばらくすると、病室から医師が出てきた。俺はゆっくりと歩き、病室のドアに手をかける。ゆっくり、その戸を開ける。変わらない姿で、包帯をまいたまま、名前はベットの上にいた。俺はゆっくり、近づく。名前の目には、俺はどのように映ってるのだろうか。名前の両親は、気を利かせてくれたのか、静かに病室を出ていった。名前は、どこか焦点の合わない目で俺をみつめた









「…あなたの、お名前は?」









すこし、微笑んで、彼女は俺に話し掛ける。一瞬、涙で世界が歪んだ。









ああ、この子は、名前だ










彼女が声を発しただけで、世界に光が戻った気がした。俺の涙も、まるで氷が溶けたかのように流れだす。この子の中に、俺がいなくてもいい













また思い出を作っていけばいいから





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -