涙が光った
あれから1週間が経った。もう俺は名前には関わるまいと思っていた。そして彼女には一切関わらなかった。いま、名前は浅井の隣で前と同じように笑っている。違うのは、俺の記憶がないだけ。
ただ、それだけ
「あ…仁王、くん?」
部活が無かったから、放課後ぼうっと教室から外を眺めていた。そしたら名前が現れた。もう彼女を見ていたくなかった。傷が抉られるから
「…ん」
「どうしたの、こんな時間に」
「…そっちこそ」
「あたしは、忘れ物しちゃって」
そういうと、彼女は机に掛けっぱなしになっていた弁当を手に取った。名前はゆっくり近づいてくる。
「じゃあ、また明日」
「……ああ」
名前は、動かない。挨拶を交わしたのに、俺の前から、立ち去らない。なんだ?と思って、彼女を見上げると、何だか虚ろな目をしていた
「…名前、名前?」
肩を揺すっても、彼女は虚ろな目のまま、立っていた。
「………雅治、くん…」
一瞬耳を疑った。彼女はいま、俺の名前を呼んだ。もう二度と、聞くことはないと思っていた俺の名前を。
「名前、名前、記憶が戻ったんか!?」
激しく彼女の肩をゆする。焦点の合わない目で前を見据えて、彼女は一粒だけ涙を流した
「名前…?」
「雅治、くん」
「名前、名前!」
「雅治くん、雅治くん」
「もう、さよならだよ」
こぼれた涙がキラリと光った気がした