想い出が溢れる
『冬は寒いなり…』
『当たり前でしょ、冬だもん』
『冬嫌い、夏も嫌い』
『私冬は好きだよ?』
『え―、名前ちゃん変』
『だってぇ、』
『雅治くんが、一番温かく感じられるからさあ』
「あなた誰?」
俺は落としたカバンを持ち、ゆっくり教室から出ていった。後ろからブン太が追い掛けてきて、俺に声をかけたが、何にも耳に入らなかった。
名前は記憶が戻った。だけど俺のことだけは思い出してなかった。しかも、また一から俺のこと忘れとった。あれは誰だ。一体誰なんだ。いやじゃ、いやじゃ、いかないで、名前、
「…仁王……」
「いくな……名前」
声を殺して涙を流した。もう、嫌だと思った。思い出ばかりが蘇る。誰か俺から記憶を消してくれ、名前の記憶を、
「頼むから…消して…」
ブン太は俺の背中を擦りながら、携帯で柳を呼んだ。柳は俺の隣に座り、何もいわず、そこにいた。もう何も感じなかった